表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/120

写し番号順は、夜の生活優先順を王宮棚へ並べ替えられません

王宮厨房から届いた新しい棚札は、いつもの赤印よりも礼儀正しかった。


『北門青紐札写し、検索効率向上のため、写し番号順に標準優先棚へ配列すること』


リディアは声に出して読み、北門小竈横の机に、四枚の青紐札を置いた。


一番若い番号は、メイが握ってきた母の匙の写しだった。二番は、エダの賃金袋。三番がカイルの帰宅灯。四番がニアの薬薪。


王宮の棚に並べれば、その順になる。


「たしかに、探すだけなら早いです」


リーナが慎重に言った。王宮から来た書記も、そこで少しだけ胸を張った。


「であろう。番号が若いものから処理すれば、責任者も追いやすい。棚は整う」


「棚は、ですね」


リディアは、母の匙の写しに触れた。


メイはそれを見て、両手をぎゅっと握った。母の匙は大事だ。けれど、今夜その匙が王宮棚の一番上に移されても、誰かの薬が先に温まるわけではない。


「メイの匙は、名前と手順を失わせないために、ここに残します。でも今夜、最初に火が消えるのはニアの薬薪です」


「番号では四番だ」


書記が眉を寄せた。


「生活では一番です。薬薪が遅れれば、ミラの夜薬が冷めます。冷めた薬は、明日の書類で温まりません」


リディアはニアの札を、机の左端へ移した。ニアが小さく息を吐く。自分の札が、番号ではなく今夜の喉で呼ばれたからだ。


次に、カイルの帰宅灯を置いた。


「日が落ちる前に灯す札です。棚で見つけやすい順ではなく、暗くなる前に帰れる順で読みます」


カイルは、鍵箱の紐を結び直した。


「俺の灯りが後回しになると、夜番から戻るやつが西三つ角で止まります」


「だから二番目」


リディアは頷き、エダの賃金袋をその隣へ置いた。


「エダの賃金は、明日のパンと借りた寝床へ届くお金です。処理しやすい順ではなく、朝を失わない順で手渡します」


エダは、袋の口に青紐を通したまま、深く頭を下げた。


最後に、メイの母の匙を、三枚の生活札の奥ではなく、横へ置いた。


「メイの匙は後回しではありません。道具棚の順番にも入れません。これは、火と名前を間違えないための横札です。番号順の先頭だからといって、薬薪より先に閉じる札ではない」


メイが、はじめて顔を上げた。


「横に……置いていいんですか」


「ええ。守るものが違うからです」


リディアは、王宮の棚札の下に細い字で書き足した。


『写し番号は検索番号に限る。生活影響の処理順、青紐解除順、本人読了順に転用してはならない』


書記の口元が固くなる。


「番号があれば、標準優先順に入るのが当然だ」


「当然ではありません。番号は探すための目印です。今夜止まると生活が壊れる順番は、現場の火、灯り、賃金、名前で読みます」


リディアは、ニアの薬薪札に小さな青い丸をつけた。


「一番、夜薬の火」


カイルの灯り札に、二つ目の丸。


「二番、帰る足元」


エダの賃金袋に、三つ目。


「三番、明日のパンと寝床」


母の匙には丸ではなく、細い横線を引いた。


「横札。閉じる順に入れない。名前と手順を照らし続けるもの」


書記は、まだ納得しきれない顔で帳面をめくった。


「しかし、王宮標準優先順には、上位欄、下位欄、保留欄の三つしかない。横札など、記録上は置けない」


「置けないなら、置けない理由も生活影響明細です」


リディアは、母の匙の横に空いた小さな余白を示した。


「上位欄に入れれば、薬薪より先に閉じられます。下位欄に入れれば、名前の手順が後回しになります。保留欄に入れれば、誰かが不要品と読む。だから横に置く。どの欄にも入れないこと自体が、今夜の安全手順です」


メイの肩から、強ばっていた力が少し抜けた。


「母の匙は、棚で偉くなるためじゃなくて、誰の鍋か間違えないためのものです」


「その通りです」


リディアはメイの言葉を、そのまま横札の下へ小さく書き写した。王宮の標準欄にはない一文だった。けれど、今夜の鍋の前では、それが一番正しい欄だった。


そのとき、ニアが抱えていた小薪を小竈へ足した。火がすこし強くなり、ミラの夜薬の鍋底から、ふつふつと小さな泡が立った。


「間に合いました」


ニアの声が震えた。


カイルは窓の外を見て、まだ青さの残る夕闇に灯り油の量を確かめた。エダは賃金袋の受取欄に、自分の名を書ける場所が残っていることを、指でなぞった。メイは母の匙を胸に抱かず、机の横札へそっと戻した。


王宮の番号は、誰かの夜を先に閉じる手ではなくなった。


リディアは写しを一枚取り、王宮宛の返答箱へ入れる。


『検索番号として受領。生活優先順への並べ替えは未発令。北門側生活順を添付』


書記は紙を受け取りながら、低い声で言った。


「では次から、生活影響明細の記載形式そのものを王宮標準に合わせる。丸も横線も、標準欄にはない」


リディアは、まだ温かくなりはじめた夜薬の湯気を見た。


「標準欄にないなら、まず標準欄が誰の夜を読めていないのかを書いてください」


王宮の次の紙には、青紐の結び目より冷たい見出しがあった。


『生活影響明細、標準欄外記載の削除予定』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ