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最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜  作者: 窮北の風
トゥー・リバーズ・シティ風雲

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第82話 正当なる名分

『ダグ? もう戻ってきたのですか?』

 俺は胸の内でそう思い、すぐに身体を回した。

 そしてオリアンへ目配せする。


 オリアンはわずかに頷き、何食わぬ顔で俺の後ろについてきた。


 営地の門まで来ると、ダグは柵の外で行ったり来たりしながら待っていた。

 俺の姿を見るなり、その顔には隠しきれない興奮が浮かぶ。

 彼は小走りでこちらへ迎えに来た。


「コロン旦那様、ご命じられていた件ですが――」

 そこでダグの声が、不意に喉で詰まった。

 警戒するような目で、俺の背後にいるオリアンをちらりと見る。


「ああ、そのまま話して大丈夫です」

 俺は軽く手を振り、身体を少し横へずらしてオリアンを示した。

「こちらはオリアン。一環魔法師であり、俺の従僕です。今後、俺に関することは彼の前で話して構いません。隠す必要はありません」


 オリアンは何も言わなかった。

 ただ、わずかに顎を上げ、唇を一直線に結んでいる。

 しかし、口元がほんの少し吊り上がっているのを見る限り、本人はかなり気分がよさそうだった。


 ダグはその言葉を聞き、オリアンの胸元にある六芒星徽章へしばらく目を留めた。

 瞳の奥に、畏敬の色がよぎる。

 そしてすぐ、懐からきちんと折り畳まれた羊皮紙を取り出し、両手で差し出してきた。


「旦那様、今朝ご指示いただいた件ですが、手がかりが見つかりました」

 彼はそう言いながら、その紙を指で軽く叩いた。

「『あまり権勢を持たない』という条件に当てはまる貴族を、この中にまとめてあります。全部で八家です」


「八家?」

 俺は羊皮紙を受け取り、上から下まで目を通した。


 そこには各家の姓、住所、おおよその財産状況、そして背景が記されている。

 字は多少歪んでいたが、内容は整理されていた。

 かなり手間をかけて調べたことが分かる。

 だが、双流城トゥー・リバーズ・シティ全体には二十万を超える人口がいる。

 それなのに、条件に合う貴族が最後にこれだけしか残らないなど、あり得るのだろうか。


「漏れはありませんか?」

 俺は顔を上げ、眉を寄せてダグを見た。


「旦那様はご存じないかもしれませんが、以前の双流城には落ちぶれた貴族がそれなりにいたんです。少なくとも二十家ほどはありました」

 ダグは少し気まずそうに手を擦り合わせ、腰を低くして説明した。

「ですがこのところ、ゴブリン大軍が国境へ迫っているという噂が広まりすぎましてね。少しでも余裕のある家は、とっくに北へ逃げています。今残っているのは、全財産が双流城の屋敷や土地に縛られていて、どうしても捨てられない家か、あるいは――」


「旅費すら出せないほど貧しい家、ということですね」

 俺は彼の言葉の続きを引き取った。


 ダグは苦笑し、頷いた。

「おっしゃるとおりです、旦那様」


 俺は羊皮紙を折り直し、指先に挟んだ。

 表情にはあまり出さなかったが、胸の内では素早く計算していた。


 この名簿を集めさせた目的は、騎士職業認定任務の第一項目――『正当なる名分』を達成するためだ。

 つまり、少なくとも三名の貴族に、俺が貴族身分を有していると証明してもらう必要がある。


 城外で虎視眈々と機を窺うゴブリン大軍。

 そして、城内にいる底知れない城主。

 どちらも今の俺に、背中へ刃を突きつけられているような危機感を与えていた。

 できるだけ早く実力を高めなければならない。


 だからこそ、俺はこの抜け道を思いついたのだ。

 身分はあっても立場の弱い貴族を探し出し、取引によって、俺のために保証人となってもらう。

 そして法的効力を持つ身分証明書を作成してもらう。


 ゲーム内でも、これはかなり抜け道じみた方法だった。

 決して正々堂々とは言えない。

 しかし、今の俺が思いつく中では、最もよく、最も早い方法でもある。


 八家しかないのは少ない。

 だが、十分でもあった。

 そのうち三家を説得できれば、任務は大きく前へ進む。


「よくやってくれました」

 俺は羊皮紙を懐へ収め、ダグへ頷いた。

「これほど短い時間で、この名簿を手に入れてくれたのです。苦労をかけました」


「旦那様、とんでもありません! 旦那様のお役に立てることこそ、私の幸運です!」

 ダグの目がぱっと輝いた。

 それから彼は羊皮紙のほうを指し、補足する。

「あ、そうだ、旦那様。名簿の順番ですが、私が家の困窮具合に合わせて、貧しい順に並べてあります。もし本当に彼らへ用事を頼むなら、まずは一番苦しい家から当たるとよいかと」


「なるほど。俺も同じことを考えていました」

 俺は少し驚いてダグを見た。

 まさか、こちらの目的をある程度察していたとは思わなかった。

 さすがは、長年底辺で揉まれてきた人間だ。

 細かなところまでよく気が回る。


「行きましょう」

 俺は名簿をきちんと折り、ダグとオリアンに声をかけた。

「急いだほうがいい。今から一軒目へ向かいます」


 ダグは慌てて頷き、いそいそと前へ出て道案内を始めた。

 オリアンは俺の横につき、指先で魔杖入れの金具を軽く叩いている。

 いつでもご主人様のために働く準備はできている、という姿勢だった。


 だが、俺たち三人がちょうど営地の大門を出ようとした時。

 一つの人影が緊張した様子で横へ踏み出し、俺たちの前を塞いだ。

「お、お待ちください!」


 道を遮ったのは、若い民兵だった。

 年はまだ若く、顔は丸い。

 せいぜい十八、九歳といったところだろう。

 彼は顔を真っ赤にし、二本の眉をぎゅっと寄せている。

 まるで大変な勇気を振り絞って、ようやく俺の前に立ったようだった。


「あの……コロン旦那様……」

 彼の声はだんだん小さくなり、最後には蚊の鳴くような音になった。

「規則では、旦那様は現在、難民の身分ですので、しばらくは勝手に営地を離れることができません。わ、私も命令で動いているだけでして、本当に申し訳ありません――」


 俺は一瞬呆気に取られた。

 そこでようやく思い出す。

 そうだ。

 俺がまだ難民扱いであることを、すっかり忘れていた。


「すみません、すみません」

 俺は少し悔しさを覚えながら、自分の額を軽く叩いた。

 そのまま踵を返し、別の方法を考えようとする。

 やはり壁を越えるしかないか。

 一度やったことなら、二度目も難しくはない。


 そう考えた、その時だった。

 もう一人の見張りの民兵が、足早に近づいてきた。

 年は二十歳を少し過ぎたくらいだろう。

 顎が尖っており、丸顔の少年よりはいくらか老成して見える。

 彼は何も言わず、いきなり手を上げた。

 そして丸顔の少年の後頭部を、ぱしんと叩く。

 乾いた音が響いた。


「お前、ここで何を勝手に止めているんだ!」

 尖った顎の民兵は、凶悪な顔で叱りつけた。

「誰がコロン旦那様を見たっていうんだ? 俺には見えないぞ?」


 彼はそう言いながら、必死に仲間へ目配せしている。

 目玉が飛び出しそうなほどだった。


 すぐに彼は顔を上げ、何事もなかったように空を見上げる。

 そして、わざとらしいほど軽い口調で大声を出した。

「いやあ、今日の雲は実に綺麗だなあ。お前、コロン旦那様を見たか? 少なくとも俺は、誰かが営地を出入りするところなんて見ていないぞ。お前も見ていないよな?」


 丸顔の少年は後頭部を押さえながら、最初はぽかんと仲間を見ていた。

 だが、ようやく意味を理解したらしい。

 激しく首を横に振る。

 まるで太鼓のばちのような勢いだった。

「そ、そうです! 見ていません! 私たちは何も見ていません! この大門の前は、昼から今まで、人影一つありませんでした!」


 尖った顎の民兵は満足げに頷いた。

 そのまま空を見上げ続けている。

 姿勢は悠然としており、まるで民兵訓練営の門番ではなく、ただ空を眺めているだけの人間のようだった。

 ただし、背中に回した片手だけが、小さくこちらへ振られていた。

 早く行け、という意味だ。


 俺は思わず口元を緩めた。

 二人の民兵の背中へ、わずかに頷く。

 それ以上、余計な言葉は一切口にしなかった。

 俺はオリアンとダグを連れ、足早に営地の大門を出る。


 背後から、丸顔の少年が声を潜めきれないまま、緊張と不満を混ぜたように呟くのが聞こえてきた。


「さっき、どうして叩いたんですか。私だってコロン旦那様のことを知らないわけじゃないのに……」

「馬鹿者!!俺はお前のためを思ってやったんだ。お前の姉さんの顔を立てていなければ、俺だってわざわざ面倒は見ないぞ……」

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