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最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜  作者: 窮北の風
トゥー・リバーズ・シティ風雲

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第50話 入城

 双流城トゥー・リバーズ・シティへ入る手立てを考えていた、まさにその時だった。

 アルベルトが人混みをかき分けるようにして、少し慌てた様子でこちらへ出てきた。しかも、その後ろには布人形を抱えた小さな女の子が、ぴったりとついてきている。


「隊列はどうされたのですか。なぜ門前で立ち止まっておられるのです?」

 彼は見張りの兵士の前まで歩み寄り、眉をひそめてそう問いかけた。

 同時に、手にした銀色の徽章を、相手の目の前で軽く示す。

「私はアルベルト・フォンと申します。父は双流城民兵訓練営の首席教官を務めております。ここにいる者たちは、私が近隣より救い出してまいりました難民であり、その中には多数の子どもと病人も含まれております。どうか、ご配慮を賜れませんでしょうか」


 兵士隊長はその徽章を受け取り、しばらくじっくり眺めた。続いてアルベルトの顔を上から下まで見回し、さきほどよりは多少表情を和らげたものの、それでも通す気はないらしい。

「なるほど、フォン長官のご子息でしたか。あなた様だけならお通しできます。しかし、城主様のご命令は冗談ではありません。これほど多くの難民が一度に流れ込めば、城内に収容する場所などございません。混乱でも起きた場合、いったい誰が責任を取るのです?」


「何ですって? たかが難民が数人入った程度で、城内が混乱するというのですか?!」

 拒絶された途端、アルベルトの顔がさっと赤くなる。


 そのまま言い返そうとしたところで、俺はそっと彼の肩へ手を置いた。

「もういいですよ。アルベルト、あなたは先に城へ入って、食糧と薬草をいくらか買ってきてください。俺たちは城外で待っています」


 アルベルトは少しだけ迷ったようにこちらを見た。

 それから、俺の後ろにいるあのペイセ馬へちらりと視線を向け、何か言いかけて、結局は飲み込む。最後は小さく頷き、銀の徽章をしまい込むと、そのまま早足で城門へ向かった。

 兵士隊長が手を振ると、門番たちがわずかに道を開ける。

 アルベルトの姿は、ほどなく門の奥へ消えていった。


 それから、だいたい三十分ほど経った頃だった。

 城門のあたりが急に騒がしくなる。

 最初に飛び出してきたのは、完全武装の兵士が数名。続いてさらに多くの民兵が現れ、人混みをかき分けて一本の通路を作っていく。

 その中を、深い青の貴族用長衣をまとった中年の男が、アルベルトに付き添われるようにして歩いてきた。

 顔立ちは厳格で、こめかみには白いものが混じっている。アルベルトにどこか似ていたが、その目にはさらに強い威厳が宿っていた。


 その男は難民の列をひと通り見渡し、最後に最前列にいた俺へ視線を止めると、小さく頷いた。

「コロン閣下でいらっしゃいますかな。私はアルベルトの父、ロレンツォにございます。事情はすでに息子から伺っております」

 その口調は非常に整っていて、軍人らしい硬さの中にも、貴族特有の抑制が感じられた。

「皆さまの入城は認めましょう。ただし、まずは城東の民兵営地に滞在していただきます。人員の確認と記録が完了し次第、順次解放いたしましょう。――何かご異存は?」


「ありません」

 俺は首を横に振った。

「中へ入れてもらえるだけで十分です。ありがとうございます」


 ロレンツォは軽く手を振り、続いて門の守備兵へ何事かを低い声で言い含めると、そのまま振り返って去っていった。

 アルベルトは父と一緒には戻らなかった。

 城門のそばにそのまま立ち、兵士たちに導かれて難民たちが順に中へ入っていく様子を見守っている。その顔には、どこか満足そうな微笑みが浮かんでいた。


 俺が馬を引いて彼のそばを通り過ぎたとき、軽く彼を見て笑う。

「ありがとうございます、アルベルト」


「い……いえ。これしきのこと、騎士たる者として当然の務めにございます!」

 彼はわずかに顔を赤らめ、慌てて表情を引き締めた。

 けれどその視線は、しっかりと俺の後ろにいるペトラのほうへ流れている。

 だが当のペトラは、トーヴと何やら小声で話していて、まるでアルベルトの存在に気づいていない。

 その瞬間、彼の顔に浮かんでいた満足げな色が、目に見えてしゅんと萎んだ。


 俺は小さく溜め息をつき、手綱を彼へ差し出した。

「それと、馬もありがとう。そろそろ元の持ち主に返しておきます」


 アルベルトは一瞬、何を言われたのか分からなかったような顔をした。

 それでも反射的に手を伸ばして手綱を受け取る。まるで俺が自分から返してくるとは、考えてもいなかったらしい。

「い……いや、その……乗り心地は、いかがでしたか?」

 いかにも気にしていないふうを装おうとしているが、声が少しぎこちない。


「悪くなかったですよ。いい馬です」

 俺はそう言って、馬の首を軽く叩いた。

 ペイセ馬は大きく鼻を鳴らし、俺の掌へ自分から頬を擦りつけてくる。


 その光景を見たアルベルトの目には、さっき以上の驚きが広がった。

 子どもの頃から一緒に育った愛馬が、たった二日でよそ者にここまで懐くなど、まるで信じられないのだろう。

 だが、彼はそれ以上何も問わなかった。

 ただ馬を引いたまま、その場で立ち尽くしている。トーヴとペトラが歩いていく方向を見ては、またこちらを見て、何度か口を開きかけては閉じる。どう振る舞えばいいのか、自分でも分からなくなっているようだった。


「家に戻らないんですか?」

 俺は先にそう声をかけた。


「え? あ……は、はい。戻ります。すぐに」

 自分の名前を呼ばれて、ようやく何かの空想から引き戻されたみたいに、彼は慌てて答えた。

 そのまま鞍へひらりと跨る動作は、さすがに綺麗だった。だが、手綱を引く前にふと思い出したように動きを止める。

 そして鞍の横から革の包みを一つ外し、俺へ差し出した。


「これは……?」

 受け取って中を見ると、何冊かの絵本が入っていた。


「ああ……それは、その……子ども向けの本です」

 彼は少しだけ目を逸らし、不自然に咳払いをした。

「モーニングデュー村の子どもたちが、就寝前になるとどうしても物語を読めとうるさくてですね……。恐れ入りますが、閣下――もしくはどなたかに、寝る前に一頁だけでも読んでいただければと存じます。ご安心ください。だいたい五分もあれば、彼らはすぐ眠りますので」

「分かりました。こちらでうまくやっておきます。安心してください」

「そ、そうですか……では、よろしくお願いいたします」


 俺は彼へ頷き返し、その包みを持ったまま、少し離れた難民の隊列へ向かって駆け出した。

 だが、二歩ほど進んだところで急に立ち止まり、振り返る。

「そうだ、アルベルト! 明日、薬草と食糧、忘れずに持ってきてくださいね! 代金のほうは、俺のほうで何とかしますから!」

「え? あ、はい! 承知しました! すぐに手配いたします!」


 ……


 双流城の東にある民兵の駐屯地は、城門からそう遠くなかった。歩いて十分ほどで着く距離だ。

 駐屯地そのものはそれほど広くなく、広さでいえばサッカー場の半分ほどしかない。だが、数十人の難民を収容するには十分だった。しかも夜になると、アルベルトの父親が追加の天幕まで届けてくれた。

 そのおかげで、皆ひどく感激していた。

 ――これでようやく、安心して眠れる。

 そんな空気が、隊のあちこちに広がっていた。


 難民たちの寝床を一通り整え終えると、俺は誰にも気づかれないよう、こっそり外へ抜け出した。

 向かう先は、もちろん――双流城の冒険者ギルドだ。


 城の中央に建つその建物は、チカ町にあったあの貧相な木造のギルドとは、比べものにならないほど立派だった。

 青みがかった灰色の花崗岩の外壁。

 軒下には八本もの太い彫刻入りの石柱。

 鉄板で補強された樫の大扉。

 その前には、広々とした石畳の広場が広がっている。

 おそらく、誰もが戦の気配を嗅ぎ取っているのだろう。

 すでに深夜だというのに、双流城の冒険者ギルドはまだ煌々と明かりが灯り、人の流れも絶えなかった。

 鎧姿の傭兵たちがひっきりなしに出入りしている。

 人間、獣人、ドワーフ――中には純血のエルフの姿まで見えた。

 ただし、彼らの顔に浮かぶ表情に、安堵や気楽さの類はほとんどない。

 皆、どこか張り詰めた顔をしていて、足取りもせわしない。空気そのものが重かった。


「クソが! ゴブリン斥候の買い取り値がまた下がってやがる! 耳二つで銀貨一枚だと!? 先月の半額じゃねえか! このままじゃ、誰が好きこのんで野外で命張るってんだよ!」

 出口から出てきたばかりの、顔中髭だらけの大男が、周囲の視線も気にせず怒鳴り散らした。


「最近はゴブリンが増えすぎてるらしいぞ。そこら中に湧いてるもんだから、ギルドのほうで相場を下げたんだとさ」

 隣にいた仲間が肩をすくめ、どうでもよさそうに答える。


「増えてるなら、なおさら値上げしろって話だろうが! あの緑皮どもはウサギじゃねえんだぞ、数が多いほど危険なんだよ! 事務室で茶なんかすすってる連中に、冒険の何が分かるってんだ!」

 大男は言えば言うほど腹が立つらしく、顔を真っ赤にしていた。


「はいはい、もうそのへんにしとけって」

 痩せた背高の仲間が、面倒くさそうにその腕を引っ張る。

「そんな元気あるなら、明日は南西のほうへ行ってみようぜ。あっちの小さな町もいくつか襲われたって話だしな……」

「行ってたまるか! それなら商人の護衛でもやったほうがまだマシだ! 少なくとも命を腰にぶら下げて歩かなくて済むからな!」


 こんなやり取りを、俺はたった数十歩歩くあいだに何度も耳にした。

 不満。

 疲労。

 焦燥。

 戦争の影は、もう確実にすべての人間の頭上へ垂れ込めている。

 たとえこの堅牢な城壁の内側にいたとしても、そこから完全に逃れられる者など、一人もいないのだ。

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