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ゴブリンを甘く見るな!――元最強ギルドマスターの俺がゲーム序盤に転生、未来知識を武器に見習い傭兵から成り上がって王になるまで  作者: 窮北の風


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第20話 任務引き渡し

 大柄な男の言葉が落ちた直後、冒険者ギルドの中には次第にざわめきが広がっていった。


「その依頼、俺も見たことあるぜ。報酬はたった銀貨三十五枚。見向きもしなかったな。緊急任務に変更されりゃ、追加で金貨一枚だ。こいつ、その金貨狙いじゃねえのか?」

「仮に本当だとしても、あのケチで有名なカッセが、臨時のメンバーにこんな大金を任せるか?」

「まさか全滅したんじゃ……この若造、本当に嘘つきなのか?」


 最初に口火を切った大男は、周囲の同調を得て、ますます得意げになった。わざとらしく咳払いを一つし、いかにも事情通といった顔で語り始める。


「お前ら知らねえだろうがな、俺はあいつらの隊の内情をよく知ってる。隊長のカッセがかろうじて弓を二本撃てるくらいでな、他の二人――半獣人とドワーフは、どこからも拾われなかった余り物だ。実力なんてたかが知れてる。」


 そこで一度言葉を切り、声を落としながらも、わざと全員に聞こえるように続けた。


「それにな、ゴブリンの軍勢ってのは、あのチビの緑虫だけじゃねえ。中には強力なエリート戦士もいる。俺でも勝てるかどうか分からねえ相手だ。」


 そして、斜めに私を見下ろし、口元を歪める。


「そんな連中に、あいつらが敵うと思うか?……俺の予想じゃあな、お前らはゴブリンに遭遇して、力不足で全滅。お前だけが生き残った。犬みてえに命からがら逃げ帰ってきて、慌てて報告して、さっさと金だけ受け取って逃げようって魂胆だろ?」


 言い終わると同時に、ホールのあちこちで含み笑いが漏れた。


 ……


 そのとき、低く抑えた声が、カウンターの奥から響いた。


「レシオ。ここは私の管轄だ。事実がはっきりするまでは、口を閉じていろ。」


 ケンだった。


 白髪の老人はカウンターの奥からゆっくりと姿を現し、鋭い視線でレシオを睨みつける。年齢を感じさせる風貌ではあるが、その立ち姿はまっすぐで、威圧感すら漂わせていた。若い頃、軍にいたという話も納得できる。


 だが、レシオは鼻で笑った。


「はっ、偉そうな態度はやめとけよ、ジジイ。今のお前は、双流城の民兵教官様じゃねえんだ。」


 そして、カウンターに向かって「パシン」と音を立て、何かを叩きつける。


「それに俺も、ただの戦士じゃねえ。」


 一瞬、空気が変わった。


 テーブルの上に置かれたのは、深い灰色の円形の徽章。

 一見するとやや大きめの硬貨のようだが、その表面にはロニクス王国の紋章――翼を広げたグリフォンが刻まれている。その下には、細かな文字。


 それを見た瞬間、周囲の冒険者たちの表情が変わった――戦士協会の職業認証章。


 等級は最下位の「鉄級」。

 だが、このチカ町のような辺境では、それすら持つ者はごくわずかだ。

 つまり、レシオは、すでに「職業者」だ。


 周囲から向けられる視線は様々だった。

 驚嘆。

 羨望。

 中には、豊満な体つきの女性冒険者が、さりげなく髪をかき上げながら、彼に近づく姿もある。


 レシオはそれを当然のように受け入れ、徽章の縁を撫でながら、傲慢な口調で言った。


「だからよ、ジジイ。態度には気をつけろ。でなきゃ、“職業者への侮辱”って名目で決闘を申し込んでもいいんだぜ?そのときは、年寄りだからって手加減はしねえからな。」


 さらに肩をすくめ、軽く笑う。


「まあ、俺はお前のためを思って言ってやってんだ。騙されて恥かくよりマシだろ?」

「……貴様……!」


 ケンの顔色が青ざめる。


 十年前なら、間違いなくこの場で叩きのめしていただろう。だが、彼の視線は、ふと自分の左手首へと落ちた。そこには、何もない。怒りは何度か揺れ動いたが、やがて静かに消えていった。


 ……


 私はその一部始終を、黙って見ていた。そして、ようやく口を開く。


「これ……さっきあなたが言っていた、ゴブリンのエリート戦士の武器ですよね?」


 ガン――


 背中に背負っていた布巻きの大剣を外し、カウンターの上に置いた。


 重い金属音が、静まり返ったホールに響き渡る。


 その場にいた全員の視線が、一斉にそれへと向けられた。


 黒布に包まれていて全貌は見えない。だが、人の背丈ほどもあるそのサイズと、台を押し沈めるほどの重量。それだけで、十分すぎる証明だった。


 ギルドの中は、水を打ったように静まり返った。


 レシオの得意げな笑い声は、まるで喉を締め上げられたかのように途中で途切れた。


「て、てめえ……適当に拾ってきたガラクタで……」

 声にわずかな動揺が混じる。それでも強がるように言い返した。


「見せてみろ。」


 最初に動いたのはケンだった。すぐに横にあった拡大鏡を手に取り、カウンターの前へ歩み寄る。


 一重、二重――黒布が慎重にほどかれ、下から鈍い金属の光が現れる。


 剣身は幅広く、成人の手のひらほどもある。

 烈火に焼かれたせいで黒く変色しているが、それでも元の鍛造の質の高さは隠しきれない。


 刃にはいくつか欠けた痕跡。

 そして鍔には、粗削りながらも力強い刻印――ゴブリン特有のトーテム紋様。


 ケンは老眼鏡をかけ、拡大鏡越しにじっくりと観察する。

 切っ先から鍔まで、刃先から血溝に至るまで、すべてを見逃さない。


 かつて双流城で民兵教官を務めていた彼は、並の冒険者とは比べものにならない経験と眼力を持っている。

 その経歴ゆえに、剣を握れなくなった後も、ロニクス王国からチカ町の冒険者ギルドの管理を任されているのだ。


 そして彼は知っている。


 ――ゴブリンの中には、確かに“精鋭個体”が存在することを。


 かつて彼自身、その一体を討伐したことがあった。


 あの時、彼は民兵二十人を率い、三名の重傷者を出しながら、ようやくその怪物を仕留めた。


 戦後の調査で分かったのは――それらは通常のゴブリンとは比較にならない知能を持ち、専用の武器や装備を扱うということ。


 そして、その特徴は一目で識別できる。


 ……


 一分も経たないうちに、ケンは顔を上げた。


 すぐには口を開かない。まずは、息を呑んで見守る周囲の冒険者たちを見渡し、最後に私へ視線を向ける。


 そして、静かに告げた。


「間違いない。これはゴブリン精鋭戦士の専用武器だ。」


「なっ……!?」

「本物なのか?」

「じゃあ、ゴブリン軍侵入の話も……本当かもしれないぞ。」

「まさか、あの雑魚みたいな小隊が精鋭を倒したってのか?」

「いや……精鋭自体が大したことなかったんじゃ……レシオの実力も案外――」

「おい、声が大きい!」


 ざわめきが一気に広がる。


 だがその内容は、さっきとはまったく別物だった。


 レシオはその場に立ち尽くしたまま、顔色を青から白へ、白から赤へと変えていった。拳はぎりぎりと音を立てるほど握り締められている。


 つい先ほどまで彼の周りで愛想を振りまいていた女冒険者も、いつの間にか数歩後ろへと下がっていた。


 私は振り返り、静かに彼を見つめた。


「小隊の他のメンバーについてだが――」


 一度言葉を切る。


 声は低く抑えたが、その場にいる全員にしっかり届くように。


「確かに、お前の言う通りだ。……全員、死んだ。」


 ギルド内が静まり返る。


「だが――」


 一語一語、はっきりと告げる。


「彼らは俺が報告に戻る時間を稼ぐため、最後まで前に立ってくれた。」


「だから、さっきの言葉は取り消せ。」


「そして……彼らを侮辱するな。あの勇敢な冒険者たちを。」


 本当の死因を知っているのは、私だけだ。


 だがどうであれ、彼らがゴブリン討伐に貢献したのは事実だ。どんな理由であれ、その功績が否定されるべきではない。


 それに、死者に名誉を与えることは、残された家族へのわずかな救いになるかもしれない。


 ケンが歩み寄り、私の肩を強く叩いた。


「いい仲間だったんだな。」


 周囲の冒険者たちも次々とうなずき、表情には明らかな変化が浮かんでいた。

 そしてレシオを見る目には、露骨な軽蔑と距離が混じる。


 レシオもそれに気づいたのだろう。


 先ほどまでの勢いは完全に消え、顔を真っ赤にしながら、乱暴に顔をそらし、こちらへ歯を剥いた。


「てめえ……!」


「“戦士”に向かってその口の利き方か? 死にてえのか?」


 その声には露骨な威圧が込められていた。


 周囲で見ていた者たちは一斉に口を閉ざし、さっきまで小声で嘲笑していた連中も、気づかれないように入口の方へと下がっていく。


“鉄級”とはいえ、正式な戦士。

 その身体能力は、この場の九割以上を圧倒する。


 ――だからこそ、彼は強気でいられる。


 力こそがすべて。

 拳の強さこそが発言権になる世界。


 視線が集まる。


 探るような目。

 面白がる目。

 疑う目。


 だが、私の心は一切揺れなかった。

 まるで何も聞こえていないかのように、私はカウンターへ歩み寄る。

 そして、あの大剣の柄にそっと手を置いた。


 次の瞬間――


 ぐっと握り込み、そのまま持ち上げる。


 周囲の視線が一斉に見開かれる。


 およそ三十キロはあるであろう巨剣が、まるで木の棒のように――


 片手で、軽々と頭上へ掲げられた。


 切っ先は天井へ向けてまっすぐ伸び、微塵の揺れもない。


「戦士?」


 私はゆっくりと振り向く。


「“鉄級”だと?」


 冷え切った視線で、レシオを見据えた。


「それが、どうした。」

今日はこの一章だけの更新~。ボリュームたっぷりの一話です。

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