第1話 厨二病、世界を殴る
それは、黒歴史になるはずの夜だった。
中学二年生の俺は、自室の床にチョークで巨大な魔法陣を描いていた。
円、三角、意味の分からない文字。
ネットで調べた「それっぽいやつ」を、全力で再現している。
「……来い。
異界の理よ、我が呼び声に応えよ――」
ローブ代わりのパーカーを翻し、俺は両手を掲げた。
「我に力を!!」
――その瞬間。
部屋が、光った。
「……え?」
眩しさに目を閉じ、次に目を開けた時。
俺は、白い空間に立っていた。
目の前には、やたら神々しい女性。
「ようこそ。選ばれし者よ」
「……え、女神?」
「そう。あなたの詠唱、
偶然とはいえ条件を満たしていました」
「まさか……魔法、成功?」
胸が高鳴る。
やった。俺、魔法使いだ。
「あなたには力を授けましょう」
女神が指を鳴らす。
目の前に浮かぶ、半透明の表示。
【戦闘力:530,000】
「……?」
「一般人の平均は5です」
「……魔法は?」
「ありません」
「ないの!?」
ツッコミを入れる暇もなく、足元が崩れた。
「え、ちょ、待――!」
⸻
次に目を開けた時、俺は森の中に立っていた。
木々、土の匂い、風。
どう見ても異世界だ。
「……マジで転生したのか」
感動していると――
「きゃああああ!!」
女性の悲鳴。
「!」
反射的に走り出す。
音のする方へ。
そこには、
ゴブリンに追い詰められている女性がいた。
「くっ……!」
剣を構えているが、明らかに劣勢。
俺の頭に、いろんな感情が一気に押し寄せる。
(助けたい)
(戦闘力、試したい)
(助けた後、仲良くなれるんじゃ……?)
よし。
「離れろ!」
俺はゴブリンの前に飛び出し、拳を握った。
「いくぞ……!」
――右ストレート。
ドンッ!!
次の瞬間、
ゴブリンの顔は消えた。
いや、正確には――
ゴブリンごと、後方の森が無くなっていた。
「……」
静寂。
「……え?」
俺は自分の拳を見る。
「……強すぎない?」
後ろを見ると、女性も唖然として立ち尽くしていた。
数秒後。
「……」
彼女は、ゆっくり自分の服を見下ろす。
そして――
「……ちょっと」
低い声。
「……え?」
「今の衝撃で、服、破れたんだけど」
「……え!?」
俺は慌てて視線を逸らす。
「ご、ごめん!
そんなつもりじゃ――」
「正座」
「はい」
気づけば俺は地面に正座していた。
顔を赤くした彼女が、腕を組んで睨んでくる。
「助けてくれたのは感謝するわ」
「はい……」
「でも」
一歩近づいてきて、叫ぶ。
「力加減を考えなさい!!」
「……はい!!」
森に、説教の声が響いた。
――こうして俺の異世界生活は、
魔法より先に、
怒られるところから始まった。




