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第4章 遺体の切断と処理


 処理屋の仕事を目にしてから三日後、谷村から再び電話があった。

 「今度は……別の方法や。見とくか?」

 その声は低く、どこか試すような響きを帯びていた。


 場所は西淀川区の工業地帯。昼間は大型トラックが行き交うが、夜は人影が途絶える。指定された廃工場の前に着くと、谷村が既に待っていた。背後には二人の若衆が立ち、無言で周囲を見張っている。


 工場内は暗く、コンクリートの床に油染みが広がっていた。奥には古びた業務用焼却炉が鎮座している。かつて産業廃棄物を処理していた設備らしいが、今は堂島組が“別の用途”で使っているという。

 鉄の扉の前には、ブルーシートで覆われた長方形の物体。シートの下からは、かすかな血の匂いが漏れていた。


 谷村が顎で合図すると、若衆がシートを外す。

 そこには裸の男の遺体があった。二十代後半、刺青の一部が焼け焦げている。胸と腹に複数の刺し傷、首には深いロープ痕。

 「こいつ、昨日の夜に“始末”した。名前は言えんが、組を裏切って警察に情報を売っとった」


 処理の手順は迷いがなかった。まずは遺体を大型のまな板台に乗せ、腰と膝の関節に刃を入れる。ギシッという骨の軋みと、肉を裂く鈍い音。

 四肢を分離すると、次に頭部を切り離す。切断面からは温かい血がじわりと流れ、コンクリートに暗い水溜りを作った。


 切断が終わると、若衆二人が鉄製のスコップで部位ごとに焼却炉へ放り込む。

 炉の中では、既に燃料が赤々と燃えており、投げ込まれた肉がジューッと音を立てて黒く縮んでいく。脂が溶け、炎が一瞬勢いを増す。

 谷村は俺の横で腕を組み、淡々と言った。

 「焼却やと、時間はかかるけど薬品より“後腐れ”がない。骨も灰にして、最後は海に流すだけや」


 だが、この夜はもう一つ別の現場があった。

 焼却炉の処理を終えた後、俺たちは南港の埠頭へ移動した。港の端には掘り返されたばかりの土の山があり、ショベルカーが停められている。

 そこには、まだ“加工”されていない別の遺体が横たわっていた。年配の男で、首から上が既に無い。胴体には細かい切り傷が無数に走り、死後に何者かが刃物で刻んだ跡だった。


 「こいつは見せしめや。首は別ルートで晒す」

 谷村の声が夜風にかき消される。

 遺体はそのまま深さ二メートルほどの穴に投げ込まれ、石灰をたっぷりと振りかけられる。石灰は腐敗を抑え、臭いを遮断するためだという。

 上から土を戻すと、ショベルカーが均し、まるで何もなかったかのような平地が出来上がった。


 俺は足元の土を見つめながら、尋ねずにはいられなかった。

 「……こうやって消えた人間は、何人ぐらいいる?」

 谷村は短く笑った。

 「数えたことあらへん。けど、この土の下には“組の歴史”が眠っとる」


 その言葉は冗談にも聞こえず、むしろ誇らしげですらあった。


 事務所へ戻る途中、谷村が車内で小声で言った。

 「この二つの処理……どっちも最近増えとる。理由はわかるか?」

 「KASTORIか」

 「正解や。あれは客を殺すだけやない。売り手同士も信用を壊す。坂東も、昨日焼いた裏切り者も、全部あの薬に触っとる」


 助手席の窓から見える大阪港の水面が、街灯に揺れていた。

 焼却、土中、薬品——方法は違えど、消える人間は同じ。

 そして、消えた風俗嬢たちも、きっとこの循環の中に飲み込まれている。


 俺の耳の奥で、幻聴がまた囁く。

 “お前の番も、近い”


 それは、ただの病の声か、それとも本物の警告か——まだ俺には分からなかった。

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