第24章 牙をむく街
大阪の夜は一層冷え込み、街全体が鋭い刃物のように研ぎ澄まされていた。藤森と真希は、地下に潜るようにして闇の深部へと足を踏み入れていた。彼らの目的は、組織の中枢へ繋がる情報を掴み、裏社会の根源を叩くことだった。
闇市の喧騒をかき分けながら、二人は密かに狭い路地へと入った。そこには、薄暗いバーが軒を連ね、店の中からはかすかなジャズの調べが漏れている。
「ここが入り口か……」藤森は目を細め、息を潜めて言った。
真希はバッグからスマホを取り出し、暗号化された通信アプリを立ち上げる。
「連絡はこれだけだ。あとは現場で判断するしかない」
彼らは一軒の扉を押し開け、中に入った。空気は煙草の臭いとアルコールの混ざった独特の匂いで満ちていた。バーテンダーが無言で視線を送り、奥の席に通した。
その席には、黒いスーツに身を包んだ男が座っていた。
「お前たちが噂の藤森と真希か」男は微笑んだが、その瞳は冷たく、殺気を秘めていた。
「そうだ。君の名前は?」藤森はゆっくりと質問した。
男は笑いながら答えた。
「俺の名前は不必要だ。ただし、俺はこの街の牙だ。切り裂き、奪い、支配する者だ」
話はすぐに本題に移った。黒幕が画策する次なる計画、その規模と影響は想像を絶するものだった。カストリの原料を使い、より強力な薬物を拡散させ、街全体を支配しようとしているという。
「そして、障害者施設も、その拡散の最前線だ。そこから広がる感染は、組織の力を増大させる燃料となる」
真希は顔を強ばらせた。
「そんなこと、絶対に許せない」
男は冷ややかに笑い、テーブルに手を置いた。
「お前たちには選択肢がある。今すぐ手を引くか、永遠に消されるかだ」
藤森は拳を握り締め、静かに答えた。
「俺たちは、誰も見捨てない」
その瞬間、バーの扉が激しく開き、複数の男たちが銃を持って乱入してきた。火花が散り、銃声が響き渡る。
藤森と真希は咄嗟にテーブルの下に身を伏せた。
「撃て!」男たちが叫び、混乱の中で血の匂いが立ち込めた。
だが、その混乱の中で、二人の絆は一層強まった。
「ここで終わらせるわけにはいかない」真希の瞳が鋭く光る。
激しい銃撃戦の最中、隠された真実が次第に暴かれていく。裏社会の闇、国家の陰謀、そして人体改変の恐怖。すべてが交錯し、彼らを待ち受ける未来は一層不透明となった。
銃声が止み、静寂が訪れたとき、バーの中には生き残った者だけが息を潜めていた。藤森は傷を押さえながら立ち上がり、静かに言った。
「これが、俺たちの戦いの始まりだ」




