第22章 静寂の中のささやき
事件から数日が過ぎ、大阪の街は一見穏やかさを取り戻していた。だが、その静けさはあくまで表面的なものであり、深層には依然として緊張が渦巻いていた。
藤森は自宅の狭いリビングで、新聞の社会面をじっと見つめていた。そこには萩原クリニックの摘発と人体実験の告発記事が大々的に掲載されていた。世間の関心は高まり、政治家や警察の責任追及も始まっていた。
だが、藤森の心は晴れなかった。あの狂気の医師を止めたとはいえ、完全な終わりではないことを直感していた。背後にある黒い影は、まだ街のどこかで息を潜めているのだ。
ある晩、藤森の携帯が鳴った。画面には「匿名」の表示。警戒しつつも電話に出ると、低い声が囁いた。
「終わりではない。真実の一端に触れただけだ。次の扉を開ける準備をしろ」
電話は切れ、藤森の胸に冷たい恐怖が走った。
一方、真希もまた別の疑惑の糸を手繰り寄せていた。警察内部の不正や、資金の流れに絡む人物の名前が浮かび上がり、その範囲は広がる一方だった。
「これ以上の捜査は、簡単ではない」彼女は独り言をつぶやいた。
「でも、止められない。あの患者たちのためにも」
そんな時、高坂からの連絡が入った。彼の声は以前よりもしっかりしており、施設での出来事を淡々と語った。
「私はまだ生きている。あなたたちの力が必要だ」
藤森と真希は、それぞれの場所で静かに決意を新たにした。終わりなき戦いの始まりを。




