第18章 潜む狂気
大阪の街は深い闇に包まれ、雨は容赦なく降り続いていた。ネオンの光が濡れたアスファルトを照らし、色とりどりの反射が路地裏の水溜まりに揺れる。
そんな中、萩原クリニックの地下室では、薄暗い蛍光灯の下で幾人かの被験者たちが横たわっていた。彼らの身体には点滴や電極が繋がれ、モニターが無機質な波形を刻んでいる。
被験者の一人、佐知子は意識が朦朧としていた。彼女は元立ちんぼで、性病を患いながらもカストリの摂取を繰り返していた。
その目は虚ろで、時折小刻みに震える手が苦痛を物語る。
「お願い……もうやめて……」かすれた声が地下の壁にこだました。
萩原医師は冷静にモニターのデータを眺めていた。
「耐性ができてきたな……次の段階に進める」
彼の言葉は科学者の冷徹さを帯び、倫理や人命への配慮は一切感じられなかった。
一方、真希は深夜の捜査室で、過去の事件記録と被害者のプロフィールを洗い出していた。性病の種類、感染経路、使用した薬物の履歴。すべてがリンクし、不可解なパターンが浮かび上がる。
「これは……意図的に感染が広げられている」
彼女は拳を握り締め、画面のデータを指でなぞった。
その頃、片桐は港区の風俗街を歩いていた。そこには身体にあからさまな傷痕を持つ女性たちが行き交い、喉の渇きを訴えるような目で客を待っている。彼の目に映るのは、堕落と絶望の連鎖だった。
「こんな街に未来はあるのか……」片桐は呟いた。だが、その背後で男たちのささやき声が響く。彼らは新たな“実験”の計画を練っていた。
「次の被験者は、障害者施設から選ばれるらしい」
「そこでの拡散力は計り知れん……」
街の闇はさらに深まり、被害者の数は増えていく。警察の動きも活発になるが、相手はあまりにも狡猾だった。情報は錯綜し、捜査は混迷を極める。
そんな中、真希はひとつの決断をした。
「私は、あの施設に潜入する」
彼女は準備を整え、今まさに未知の領域へ足を踏み入れようとしていた。




