第17章 影の連鎖
淀川の河川敷から逃げ去った黒い影は、曲がりくねった狭い路地を縫うように走っていた。夜の闇は深く、薄い霧が漂う中、足音は次第に消えゆく。
その影が辿り着いたのは、廃屋となった古いビル。錆びた鉄の扉を無造作に押し開け、中へと消えた。
一方、藤堂と佐伯は現場に残された暗号の意味を解析しようとしていた。炭で書かれた文字は複雑な象形文字のようで、普通の言語ではない。
「これは……古代の祭祀文か?」佐伯が眉を寄せる。
「いや、もっと現代的な符号かもしれん。これが意味するものを解かねば、次の犠牲者を防げない」
美咲刑事も、独自に動いていた。警察内部の捜査線上には、萩原クリニックと繋がる謎の資金流入が浮かび上がり、裏社会の大物たちの名前もチラついている。
彼女は電話を切ると、デスクの引き出しから古い写真を取り出した。そこには幼い頃の自分と、懐かしい男性の姿が写っていた。だが、彼の素顔は事件に深く絡む人物であることを後に知ることになる。
「なぜ、俺たちはここにいるのか……」藤堂が呟いた。
「選ばれた者だけが見ることができる闇の真実だ」佐伯が答える。
深夜、廃屋の奥では、複数の男たちが集まっていた。彼らは古びたテーブルを囲み、地図や資料を広げていた。中には大国組、北野組、そして海外組織の代表もいる。話し合いは緊迫し、互いに牽制し合いながらも、共通の敵「萩原クリニック」とその背後に潜む黒幕について言及していた。
「このままでは、組織も崩壊する。医師一人の問題ではない。全ては巨大な闇の一部だ」
北野組の幹部が呟いた。
その時、携帯電話が一斉に鳴り響き、会議室は緊張感に包まれた。着信はすべて警察の美咲からだった。
「彼女は我々の味方か、それとも敵か?」
藤堂は硬い表情で言った。
「彼女の情報なしでは、何も進まない。だが、信用は慎重に」
外では雨が再び降り始め、街の灯りを滲ませた。
影はさらに広がり、連鎖していく。止めどなく、底なしの闇が大阪を包み込んでいった。




