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台湾人です、日本文学が好きから、練習として日本語で文章を書き始めた。
ご意見や感想があれば、是非お教えください
冷たい雨粒がレーベンの髪と肌に降り注ぎ、濡れた漆黒の髪を伝って滴る水は、地面に淡紅色の水たまりとなって広がっていった。
「四人か?」
闇の中から、男の声が静かに現れた。彼が声を発するまで、その存在はまるで世界に認識されていなかったかのように、靜寂な夜と完全に溶け会っていた。
雨の中に立っているレーベンという名の殺し屋に向かって、彼は歩みを進めていた。それでもレーベンの立ち位置からは、相手の顔どころか身体の輪郭さえもはっきりとは見えなかった。
だが、レーベンには男の正体をはっきりと分かっていた。だからこそ、ごく自然に会話を続けていった。
「ターゲットは一人だけだ。他は巻き込まれたものだ。」
「奴らが少し気の毒だとは思わないか?」
「いや、別に。あんな奴と一緒にいるような連中だから、どうせいいものじゃないさ。」
「随分とお気楽な主観だな。」
「まさか俺に客観的な思考を期待しているのか?」
レーベンは手にした短刀を振りかざし、刃に付いた血を払った。銀色の輝きが闇の中で一瞬煌めく。そしれ彼は四つの命を奪ったばかりの凶器を、手慣れた動作で腰の鞘に収めた。
「ま、別に悪くはないだろう?僕たちみたいな連中にとって、一番大事なのは自分の信念と価値観だ。既存の枠に従う必要なんてどこにもないな。」
「何それ?また何か難解な大義でもたれ流すつもり?」
「別にそんな難しい話でもないだろう。ただお前が全然考えようとしたこともないんだ。」
「まあ、そうかもな。だって俺、ロイエさんみたいに頭が良くないし、脳の容量は限られてるからさ。」
レーベンは少し嘲るように言った。ロイエと呼ばれる男は、心地よさそうに白く綿のような吐息を吐き出し、意味ありげな微笑みを浮かべた。
「まさか、これからもずっと感情や直感などだけで物事を決めていくつもりか。」
「それはダメか?」
「それを判断するのは僕じゃない。僕はお前の親でも師でもないし……いや、たとえそうだったとしても同じだ。それは、僕や誰かが決めることじゃない。お前自身が決めるべきものなんだ。」
「なら、俺は今のままでいい。」
「……まあ、それでもいいか。」
足音を立てながら、ロイエは暗闇から一歩踏み出した。月光に照らされてようやくその素顔が浮かび上がる。どこか軽薄さを含みつつも沈着な面差し。髪の隙間から覗く瞳には、深い知性と冷徹さが宿っており、彼が歩んできた並々ならぬ過去を物語っているかのようだった。
無意識のうちに身についた癖なのか、ロイエはいつも影の中に身を置きたがり、自分の顔を安易に人に晒さないんだ。
しかし、今目の前にいる生者はレーベンただ一人であり、もはや気にする必要はない。
「雨はちょっと冷たいな。」
「なんで傘をささない?」
「こうしたほうがカッコよくない。」
「……」
「冗談だよ。そんな目で僕を見ないで。実はさっき襲われたんだ、復讐のために来た連中に。傘を武器代わりに使ったから、壊れちゃってさ。」
「復讐?襲われ?ロイエ先生が?そんなバカな!普段の言動は頭おかしいじゃないかって思うくらいだけど、任務の時はいつだって慎重で、外に出ると顔すらあまり人に見せないもの。」
それを耳にしたレーベンの表情に、一瞬、予想外の動揺が浮かんだ。
そして、ロイエは起きた事実について淡々と補足を続けていく。
「確かに余計な一言はあったが……まぁ、言ってることは間違ってない。要するに、奴ら本当の狙いは僕じゃなくて、お前なんだ。」
「俺?」
「あいつらは事前にお前の今夜の行動を調べていたらしく、この辺りで待ち伏せしようとしたんだ。ところが僕のことをお前と勘違いしたってわけさ」
「はあ?何それ?俺だって自分の目標を間違えるわけない!」
「おそらく、家族や友人、あるいは恋人がお前に殺された連中だろう。でもお前の姿を直接見たこともなく、断片的な情報をつなぎ合わせて動いていただけだからな。」
ロイエは慣れた手つきで片手をポケットに差し入れ、小さな紙箱を取り出した。親指で器用に蓋を弾き、雪のように白い一本のタバコをくわえた。
細かい雨が降りしきる中それに火を点け、深く一息吸い込んで、タバコの先端が一気に短くなった。
そしてロイエはゆっくりと憂いを帯びた白い煙を吐き出した。
「お前、今後はもっと慎重にしたほうがいいぞ。」
「……そうするね。」
レーベンは傍らへ歩み寄り、この前地面に投げ捨てた傘を拾って広げた。
「僕も傘の中に入れてくれないか?」
「この傘じゃ小さすぎるから、無理。」
「ひどいな。僕の傘は誰かのせいで壊れたのに。」
「あれは俺のせいじゃないだろ?」
「一応間接的な原因だろう。それに、もし僕があいつらを止めてなきゃ、お前今日の任務は失敗してたかもよ?。」
「……わかったよ。じゃあ、酒を奢ってやろうか。」
「よっしゃ!」
レーベンはこれ以上言い返すのを諦めたようにため息をつき、ロイエは年齢にそぐわない子どものようにはしゃいで喜びの声を上げた。
レーベンは鞘を軽く振って雨水を払い、コートの内側に収めた。足を踏み出して、この血の匂いが濃厚に残る場所を後にして、次の目的地へと向かおうとした。
「本当に傘の中に入れてくれないの?」
「男二人が一つの傘をさすのは気持ち悪いから、嫌だ。」
「ひどいな。」
二人の影はすぐに薄暗い路地の奥へと消えていった。雨の中、冷たくなった四つの遺体だけが残され、天の慈悲を受けているように……