人を殺めてはいけない
人類に裁きを下すのは神のみである。
他人に危害を加える者は必ず神からの裁きが下る。
「いや、実は本部である王国防総省の人事司令部から、君に“聖ポンズ騎士団”の方へ転勤させる事を提案されているんだよ」。
「“聖ポンズ騎士団”...? ポンズ教団内で活動している騎士団の事ですよね? 」。
ミュージーがそう問いかけると、カバリツ副司令官は神妙な表情のまま小さく頷いた。
「うむ、まだ軍の方では提案のみの話で留まっているから、現時点では何とも言えんのだが...。まぁ、君も知っているとは思うのだが、近年は我々の王国軍と教団の関係が...あまりよろしくないのでね。それで、教団の施設内で育った関係性のある君を加入させて溜飲を下げたいのか...そこら辺は正直私もよく分からんがね」。
「はぁ...」。
ミュージーは困惑した様子でそう相槌を打つと、カバリツ副司令官は咳払いをしつつ話を続けた。
「まぁ、この部隊は何だかんだでやる事は多いし君も大学で勉強している身だし、騎士団での活動の方が環境的にも勉学に集中できるかもしれないな。それに、君もまだ若いし騎士団なんていうポジションは一般、特に平民出身の軍人ではなかなかつけるもんじゃないからな。この機会に経験してみるというのも、良いかもしれんぞ? 」。
「は、はぁ...」。
ミュージーが返答に困った様子で引き続き相槌を打つと、カバリツ副司令官はソファーから立ち上がって自身の片手をソファーに座っているミュージーの肩に置いた。
「とりあえず、君にそういう話があるという事は知っておいてくれたまえ。まぁ、先程も言ったように提案に留まっている話だから、もしかしたら無かった事になるかもしれんしね」。
「はい」。
ミュージーがそう返事をすると、カバリツ副司令官は納得したように小さく頷いた。
「まぁ、そういう事だから...わざわざ呼び出してしまって申し訳なかったね」。
「いえ、失礼します」。
ミュージーはそう言って立ち上がり、カバリツ副司令官に一礼して退室した。
「...」。
カバリツ副司令官は神妙な表情を浮かべたまま、ミュージーが通り抜けていった出入口扉をしばらく見つめていた。