焦る事はない
進み続けていれば神がいずれは与えてくださる。
ミュージーとマインは施設周辺に設置されていたベンチに腰かけていた。
「いやぁ~、まさかマイン御嬢様がこの施設にいらっしゃったとは思いませんでした~。そういえば、お見合いの時にもおっしゃられてましたが、教団の慈善活動に参加されているんですよね? 今日はその学校活動の一環で御越しになったのですか? 」。
ミュージーがそう言うとマインは小さく頷いた。
「ええ、今日はこの児童養護施設のお手伝いをさせていただいております」。
「そうだったんですか~」。
「えと、この間ユズポン大聖堂のアングリー神官長様から御聞きしたんですけど...。ミュージー様はこの児童養護施設で幼少期を過ごされたんですよね? 」。
マインがそう問いかけると、ミュージーはやや驚いたような表情を浮かべた。
「はい、軍の士官学校へ入学するまでは、ずっとこの施設で過ごしていました」。
ミュージーはマインにそう答えると、目の前にある白い施設を懐かしそうに見上げた。
「そうだったんですか...」。
「先程、アングリー神官長から御聞きしたとおっしゃってましたが、神官長とは聖堂内で話されたりとかするんですか? 」。
「ええ、聖堂でもですけど...アングリー神官長様は定期的に講義のため大学へ御越しになるんですよ」。
「ほうほう」。
「この間も神官長様が講義をされまして、その際にミュージーさんの事も話されておりました」。
マインがそう言うと、ミュージーは目を丸くして意表を突かれた様子を見せていた。
「...僕の事を? 」。
「ええ、この児童養護施設に関しての講義がありまして、その時に施設出身者であるミュージーさんの事を神官長様が話されておりまして...」。
ミュージーはマインの言葉を聞くと、照れ臭そうに自身の頭を撫でた。
「たはは~! 大学の講義で自分の事が話されてるなんて、なんかちょっと恥ずかしいですね~! 」。
ミュージーが苦笑いをしながらそう言うと、マインは神妙な表情を浮かべて首を横に振った。
「そんな事ありませんわ。御両親を亡くされてミュージーさんは苦労されたのに、真面目に勉学や魔術の訓練に励まれて立派じゃないですか」。
「ははは、それしか施設でやる事がなかったというか...。そういえば、お見合いの時に生い立ちを話してませんでしたね...あっ! そうそうっ! 遅くなりましたが、この間のお見合いはありがとうございます」。
ミュージーがそう言って頭を下げると、マインも慌てて頭を下げた。
「い、いえいえっ! こちらこそありがとうございましたっ! 」。
「いやぁ~、僕もお見合いが初めてだったんですけど、まさか代理という形で参加する事になるとは思いませんでした~。申し訳ないです、マイン御嬢様も初めてのお見合いだったのに...僕なんかで」。
ミュージーがそう言うと、マインは慌てて首を横に振った。
「と、とんでもないっ! 私なんか全然話せなかったですしっ! 色々と気を使わせてしまって申し訳ありませんでしたっ! 」。
「いえいえ、そんな...。普段から王城内で仕事漬けだったんで、良い気分転換になって楽しかったです」。
「御仕事大変なんですね...」。
「ははは、自分があと三人は欲しいですね~」。
「へ、へぇ...」。
「ええ、本当にもう...」。
「...」。
「...」。
この後、特に会話が盛り上がる事も無く二人の間にしばらく沈黙が流れた。




