横暴に力を取り入れようとする者よ
その小さな器では身体も木っ端微塵に弾け飛んでしまうだろう。
そして、その者の人生も必然的に終わる。
王立ポンズ大学内の教室、その大学のポンズ神学部に在籍しているマインは講義を受けている最中であった。
「はぁ...」。
そんなマインは浮かない顔で溜息をつきながらテキストを眺めていた。
(これからもお見合いしていくのかなぁ...。何か憂鬱だなぁ...。私だって普通に恋愛したいし、心から好きって思える人とお付き合いしたいよ...。お父様もお母様も、何で私の相手まで決めちゃうのよ~! 恋愛くらい自由にさせてよぉ~! もぉ~! )。
マインはそう思いながら頬を膨らませ、不満そうにしかめっ面で机上の睨んでいた。
「…という事で、本日はユズポン大聖堂からアングリー神官長が御越しになられました。それでは神官長、どうぞ」。
教壇に立っている講師がそう言うと、壇上付近の地面に敷かれた魔法陣からアングリー神官長と黒いローブを着用した数人の修道士達が浮かび上がってきた。
「どうもどうも~、皆様おはようございます」。
日焼けした坊主頭のアングリー神官長は、笑みを浮かべながら目の前で講義を受けている学生達に挨拶をした。
「今回は特別講義という事で、ポンズ教団で運営している児童養護施設に関してアングリー神官長が直々に話をしてくださります」。
講師がそう説明すると、アングリー神官長が教壇に立って話を始めた。
「児童養護施設とは簡潔に申し上げますと、何らかの原因で身寄りがない子供達をポンズ教団が受け入れて支援するための施設という事です。この施設ではその子供達のために食事や就寝場所の提供を行っております。教育環境や学習は勿論の事、子供達の就職や進学に関しても教団がサポートをしていく流れとなっています。そして、就職や進学を望まない子達は修道院内で修道士や修道女として、神様への奉仕活動を我々教団と共に行っていく事が原則となっております。これは、ほんの一例ですが...」。
アングリー神官長がそう話すと、修道士の一人が学生たちの目の前に魔法で特大のスクリーンを召喚した。
そのスクリーンの中には歌いながら踊っているブリッジの姿が映し出されていた。
「皆さんは御存知だと思いますが、彼女はブリッジ=ブックさん。ブリッジさんはユズポン大聖堂内にある児童養護施設で育ちました。両親を亡くした彼女は施設で育ち、現在は我々と同じく神様に奉仕する修道女としてユズポン大聖堂内の修道院で生活しておられます。彼女は幼い頃から御芝居や歌が大好きで、女優や歌手という一面も持っている...というのは皆さんが一番知っておられる事だと思いますね」。
アングリー神官長が苦笑しながらそう話すと、席からも笑いが湧き起こった。
「さて、次の方ですが...」。
切り替わったスクリーンの画面には銀の鎧と白いマントを着用し、片腕に銀の兜を抱きかかえている一人の若い兵士が厳かな表情を浮かべて立っていた。
「...! 」。
マインは映像に映し出されているその男を見て驚愕した。
「彼の名前はミュージー=フェルナンデス。彼もブリッジさんと同じく児童養護施設で育ちました。彼の御両親は同じく軍人出身でいらっしゃったのですが、当時のポンズ王国は戦時中でした。それで、物心つく前に御両親は戦地で亡くなってしまい、ミュージーさんは施設で過ごす事になりました。ミュージーさんは真面目で何事にも一生懸命に物事をこなす素晴らしい青年です。彼は本を読む事や勉強が大好きで、幼い頃から魔術の勉強を熱心にされる勤勉家でした。そんな彼は亡くなった御両親と同じ軍人としての道を歩む事になりました」。
(そういえば、ミュージーさんの生い立ちとか聞いてなかったな~。だって、みんながミュージーさんとずっと恋バナで盛り上がってたんだもん)。
マインが心の中でそう思いながらもアングリー神官長の話は続く。
「正義感の強い彼は自分の親がそうであったように王国を護るためには自身が強くなり、その王国の平和のためにも王国軍の一員として従事していく事が父と母の血を受け継いできた自分に与えられた運命なのだと話されました。正直、平和とはいえ彼が軍人としてのキャリアを歩む事に関しては、我々も立場が立場ですからそれはもう葛藤したのですが...」。
(ミュージーさんには御家族は戦地で...そのミュージーさんも...。ミュージーさん、どうして軍人になったのかしら? 本当に運命や平和のため…? )。
マインはそう疑問を抱きつつ、アングリー神官長の話を静かに聞いていた。




