神の御手に触れた者には大きな力が宿る
そして、貴方自身も人間的に大きく変わる事となる。
マインは自身の付添人を務めた友人達と別れ、門扉を潜り大きな屋敷の出入口扉の前に立った。
すると、地面から青白い光を放つ魔法陣が浮かび上がり、真上に立っていたマインの身体はその青白い光に包まれた。
その光が消えると、マインは白い大理石の床に立っており視界には玄関らしき空間が広がっていた。
「おかえりなさいませ、マイン御嬢様」。
深緑のロングスカートを纏った白髪の老婆が、マインの目の前で深々と頭を下げていた。
「ただいま、お父様はもう帰られているのかしら? 」。
マインは手に持っていた小さなバッグを老婆に預けながらそう問いかけた。
「いえ、旦那様は本日会食の予定がございまして、御帰りは遅くなるとの事です」。
「そう...」。
マインが神妙な表情を浮かべまま老婆にそう言葉を返した時...。
「マイン」。
老婆の後方の螺旋階段から、ベージュのナイトガウンを羽織った年配の女性が厳かな表情を浮かべながら下りてきた。
「お母様、ただいま戻りました」。
マインが会釈しながらそう言うと、マイン母は厳かな表情を崩さず両腕を組みながらマインの身体を眺めていた。
「おかえりなさい、しっかりとおめかししてお見合いに臨んだようね」。
「い、いや...。付き添いの友達が事前に色んなお店を手配してて...。それで、全部任せちゃって流れに身を任せてたらこんな事になっちゃって...」。
マインが困惑した表情を浮かべながらそう答えると、マインの母は小さく溜息をついた。
「今回はゼナイレ家の御誘いという事で受けたけど、パルス=イン伯爵には困ったものね~。伯爵がお見合いの約束を拒まれていらっしゃるという話は聞いていたけど、まさかこのクッキン家のお見合いの約束まで拒まれるなんて...。これは許されない事だわ、お父様が帰ってこられたら話さないと...」。
「...」。
厳かな口調でそう話すマインの母に対し、マインは依然として神妙な表情を浮かべたままうつむき気味に話を聞いていた。
「しかも、お見合いに代理を立てた上に、その代理が中流階級の尉官軍人だなんて...。クッキン家に対する侮辱だとしか思えないわ」。
「...」。
「ところで貴方、今回のお見合い相手とは連絡先の交換はしていないでしょうね? 」。
「はい...」。
マインがそう答えると、マインの母は厳かな表情を保ったまま小さく頷いた。
「それならいいわ...。本当は今回私も付き添いたかったしお見合い自体も見送りたかったけど、介してくださったサクラダ子爵からの御要望もあったので受け入れましたからね。そして、これに関しては口が酸っぱくなる程お話しているけど、今後も異性との恋愛は禁止ですからね? お父様とお母様がしっかりと貴方に見合った殿方を選びますから。それと、友人を介したお見合いに参加しちゃいけませんからね? 」。
「はい...」。
マインはうつむいたままそう答えた。




