神は全知全能
我々人類に完璧や完全を成し遂げる事はできない。
完全,絶対,完璧は神のためにある言葉。
我々人類に関連した絶対とは生きて死ぬという運命のみである。
ミュージ達の会話も弾み、時間は刻々と過ぎていった。
「まぁ~! ミュージ様は御身長は一九〇センチですの~! 」。
「背が御高いとは思っていましたけど、一九〇センチもありますのね~! 」。
「やっぱり背の高い殿方は魅力的よね~! 」。
「素敵よね~! 」。
「はっはっは~! 高身長なのは同じ男の私としても羨ましい限りだよ~! 魔術や錬金術といった、いかなる現代科学でも身長は手に入れる事ができないからね~! そういった点では高身長なのも立派な才能なのかもしれないね~! しかしッ!! 平民出身のミュージー君では手に入れる事が不可能な貴族の称号を得ている私こそッ!! ポンズ王国が誇る騎士団“AT05”の団長を務めている高貴な軍人ッ!! 第四代目サクラダ子爵カノー=サンジン...」。
「私達も貴族の家系出身ですけど、やっぱりミュージー様のような凛々しい殿方の方が魅力的ですわ~! 」。
「そうよね~! 」。
「端正な顔立ちと高身長、それでいて勤勉家なんて素敵ですわ~! 」。
「...」。
(メインディッシュの前まできたか...。しかし、時間が経つのが長く感じるな...。何とかカノー団長と相手方の付添人が積極的に話してるから、自分は相槌打ってるだけで済んでるんだけど...。はぁ~、何事も無く早く終わらないかな...)。
周囲の談笑を聞きながらミュージーがそう思っていた時、テーブル上からメインディッシュの肉料理が浮かび上がってきた。
「あ、あれ...? 」。
ミュージーは怪訝な表情を浮かべながら手前に浮かんできた巨大な肉塊を凝視した。
それもそのはず、他の人達への料理は赤黒いソースがかかったステーキ肉なのに対して、ミュージーに出された料理は表面がこんがりと焼かれた巨大な骨付き肉であった。
「あら~! 」。
「まぁ~! 」。
その骨付き肉を見た付添人達は口を両手で覆い驚愕していた。
「...」。
向かい側に座っていたマインも目を丸くしてその骨付き肉を見つめていた。
「か、カノー団長...一体これは...? 」。
ミュージーが困惑した様子でそう問いかけると、カノー団長は再び高笑いを始めた。
「はっはっは~! 軍の関係者の話だとミュージー君はかなりの大食漢だと聞いてね~! 正直な話、我々が食べている量では物足りないだろう? だから、あらかじめ僕が君のメインは特別メニューにしてほしいとレストランの方に頼んでおいたのさ~! 」。
「は、はぁ...。お気遣いいただきありがとうございます...」。
ミュージーがカノー団長にそう礼を言いながらフォークとナイフを手に取った時...。
「確か、ミュージー君は骨付き肉を軍人らしく素手で骨を掴んで肉を引きちぎると聞いていたんだが...」。
「...え? 」。
ミュージーが困惑した表情を浮かべながらカノー団長の方に視線を向けた。
「是非とも拝見したいな~」。
カノー団長は微笑を浮かべながら続けてそう言うと、ミュージーに向かってウィンクをした。
(なるほどっ! それで周囲の人達をドン引きさせるという事か! よしっ! やってみようっ! )。
察したミュージーは、カノー団長に小さく頷きながら肉塊に刺さった骨を素手で掴んだ。
「それでは、失礼して」。
ミュージーはそう言うと肉塊を持ち上げ、勢い良く肉に噛り付いた。
「...っっ!? 」。
驚愕している女性陣を余所に、ミュージーは黙々と肉塊を頬張り始めた。
「はっはっは~! ミュージー君はワイルドだな~! どんどんと肉の塊が無くなっていくよ~! ところで、先程も触れてはいたんだがミュージー君は大食漢と聞いていてね~! 普段、どんな感じの食生活を送っているんだい? 」。
「ええ、普段は城内の食堂で食事をしています。日常ではなかなか休憩を取る時間が無いし、食べないと途中でへばってしまうので空いた時間で一気に食べるようにしているんです。一日だいたい五食くらいで、多い時は八食の時もありますね~」。
「まぁ~! そんなに御食事されるのですね~! 」。
付添人達は肉塊を引きちぎるミュージーに圧倒されている様子でそう相槌を打った。
「はっはっは~! 五食は凄いね~! まぁ、特殊治安部隊の仕事はかなりハードとは聞いているからね~! ちなみに、一食の量はどのくらいなんだい? 」。
「まぁ、その日によりますけど...最低でも丼物とか三品以上は食べますかね」。
「そ、その食事のサイズも大盛とかかい? 」。
ミュージーの返答にさすがのカノー団長も引いている様子ではあったが、続けてそう問いかけた。
「その上の特盛サイズというのがあって、毎日そのサイズを頼んでます」。
「た、頼む三品以上の食事も特盛かい? 」。
「はい」。
「そ、それを毎日五食以上も...? 」。
「はい」。
「...」。
遂にカノー団長は言葉を失ってしまった。
「ごちそうさまでした」。
そして、ミュージーはあっという間に骨付き肉を食べ終えてしまった。




