鏡を見よ
鏡は貴方の顔だけでなく、貴方の心も映し出されている。
日頃から自分と向き合いなさい。
「ほらっ! マインっ! 貴方はミュージー様の御相手なんだからっ! ちゃんと、ミュージ様と御話ししないとっ! 」。
「う、うん...」。
マインははにかみながらそう答えるも、ミュージーに話しかける事に躊躇している様子であった。
「ごめんなさ~い! この子、お見合いは今日が初めてなんですの~! 」。
「あ、そうだったんですか...。実は僕も初めてなんですよね」。
ミュージーがそう答えると、付添人達は口を自身の手で覆い驚いた様子を見せた。
「あら~! そうでしたの~? 」。
「でも、ミュージー様は恋愛経験が豊富そうですし、こういう場とかは慣れていらっしゃるのではありませんの? 」。
「いや、恋愛らしい恋愛は全く...。それに、今は仕事や学業に追われてて恋愛の事もあまり考えれてないというか...」。
「えぇ~!? こんなに素敵なのに~! 」。
「勿体無いわぁ~! 」。
「はっはっは~! ミュージー君は王城内で勤務しながらも王国の国防大学で勉学に励んでいるからね~! なかなか恋愛の方は集中できないんだよね~! 」。
気を取り直したカノー団長は、再び高笑いをしながらミュージーをフォローした。
「まぁ~! 御忙しいのに大学にも通われているんですのね~! 」。
「素敵だわ~! 」。
「い、いや...。なかなか王城内から出られないので、普段は通信講義を受けています」。
「はっはっは~! ところで、マイン様は王立ポンズ大学に通われているんですよね~? 」。
カノー団長は不意にマインにそう話を振った。
「え、ええ...」。
マインは恥ずかしそうな様子でうつむきながらそう答えた。
「大学では何を専攻されているんですかな? 」。
「は、はい...。私はポンズ神学を専攻しております...」。
「ほう~! ポンズ神学をしているんですか~! ポンズ神学ではどのような勉強をされているのですかな? 」。
カノー団長は笑顔を浮かべてマインに続けてそう問いかけた。
「えと...聖書の解釈とか、ユズポン大聖堂で修道院の方々と慈善活動に参加させていただいております...」。
マインがそう答えると、カノー団長は感心した様子で両手を叩き始めた。
「素晴らしいっ! 御令嬢は学問だけでなく教団の慈善活動にも参加されているとはっ! 上流階級という立場におごる事なく、慈善活動に取り組んでおられるマイン様は大変慈悲深い御方ですな~! はっはっは~! 」。
「い、いえ...。そんな大した事は全然...」。
マインはうつむいたままカノー団長にそう答えた。
「マインっ! ほらっ! ミュージー様の御相手をちゃんとしないとっ! 」。
「そうよっ! 今日はミュージー様が御相手なんだから、しっかりとおめかししてきたんでしょっ!? 」。
「そうそうっ! 今日のためにドレスもヒールも新調したし、装飾具も揃えてきたわけだし~! 」。
「...付添人の私達もだけどね」。
「だ、だって...」。
マインは困惑した様子で背中を押している付添人達に視線を向けた。
(まぁ、相手側もお見合い初めてって言ってたし会話も少しぎこちないから、この雰囲気のままやり過ごせば滞りなく無事に終えられそうだな。問題は相手側の付添人達だけど、今は失礼の無いよう相手に合わせておくとしよう)。
ミュージーはグラスに口をつけながら、お見合いが問題無く終わる事を願っていた。




