恐れるな
神が何時まで貴方の中にいる。
貴方の心が侵される事は無い。
「はっはっは~! ちょっと仕事の件で確認しててね~! 失敬! 失敬! 」。
ミュージーとカノー団長が個室に戻ってくると、付添人達は会話で盛り上がっていた。
「あっ! おかえりなさいませ~! 」。
「はっはっは~! ただいま戻りましたよ~! 何やら楽しそうに会話されておりましたね~! 」。
「ええ~! 付き添われているシアター様と少し御話をしてまして~! 実は私達もパルス様とお見合いをする予定だったんですのよ~」。
「する予定だった...?」。
カノー団長は付添人の言葉に眉をひそめつつそう聞き返した。
「はい~! でも、パルス様の予定が合わなかったり急用が入ったりでお見合いが流れてしまっていたのですのよ~! 」。
「ほ、本当に申し訳ございませんっ! 」。
シアターは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら深々と頭を下げると、付添人達は慌てて首を横に振った。
「いいんですのよ~! 両親が決めたお見合いですもの~! それにパルス様は格式の御高い方ですから、学生の私達ではとても釣り合いませんわ~! だから、今回も取りやめになるんじゃないかと思っていたのですわ~! むしろ、ミュージー様に御相手が変更になって私達は幸運だったかもしれないわね~! 」。
「本当ね~! 」。
付添人達は嬉々とした様子で声を弾ませながらそう言葉を交わしていた。
「はっはっは~! ミュージー少尉は体格も良いし端正な顔立ちだから、軍内の女性職員の間でも大変人気があってね~! そしてッ!! 同じく容姿端麗なこの私こそッ!! ポンズ王国が誇る騎士団“AT05”の団長を務めている高貴な軍人ッ!! 第四代目サクラダ子爵カノー=サンジン...」。
「そうですわよね~! これだけ端正な御顔立ちですもの~! 女性方は絶対に放っておきませんわよね~! 」。
「そうよね~! 」。
付添人達はカノー団長の言葉を押し退け、興奮気味にそう話していた。
「い、いえ...。別にそんな事は...」。
ミュージーは困惑した様子でそう答えた。
「そんな謙遜なさらずに~! 」。
「そうそう! 私達が保障致しますわ~! 」。
「俳優顔負けの御容姿ですわ~! 」。
「は、はぁ...」。
ミュージーは付添人達のテンションにすっかり振り回され、タジタジになっていた。
「...」。
ミュージーの向かい側に座っているマインは、盛り上がっている自身の付添人達に愛想笑いをしつつその様子を黙って静観していた。
「...」。
そして、再び言葉を遮られてしまったカノー団長は、またしても一人寂しげな表情を浮かべつつその場に佇んでいた。




