神の愛
神が我々に与える愛はその空より広く、海より深い。
つまり、神の愛は永遠なのである。
「マイン=クッキン、王国議員であり貴族院議長を現任しているトミー=クッキン三世公爵の御長女です。その父、トミー公爵は外務大臣,法務大臣,魔術大臣を歴任されており、政界や上流階級の界隈では有権者として名高い人物です。マイン御令嬢は現在二十歳で王立ポンズ大学ポンズ神学部の学生です。今回、私はミュージーさんの付添人を務めさせていただきます」。
目的地へ向かう馬車の中で、ミュージーとシアターはお見合いの打ち合わせをしていた。
「…御尊顔を拝見した限り、御淑やかな女性の印象ですね」。
ミュージーは目の前に浮かんだ黄色い光を放つ四角いディスプレイ内に映し出されたマインという女性の写真を見ながらそう言った。
「おっしゃる通り、マイン御令嬢は大人しく非常に繊細で真面目な御方だと伺っております。以前、パルス様が話されておりましたが、御父上のトミー議員はマイン御令嬢の事を溺愛しておられるようです。それに、トミー議員と度々御会いした際は、マイン御令嬢の自慢話をよくされていたとパルス様もおっしゃられていました。ですので、御承知だとは思いますがくれぐれも御令嬢の機嫌を損ねる事だけはなさらぬようお願いします」。
「了解です」。
ミュージーはシアターにそう返事し、目まぐるしく変わりゆく外の風景に視線を移した。
(まぁ、カバリツ副司令官も上流階級のお見合いは合コンみたいなもんだって言ってたしな。それにしても不安だ...何事も無く終わればいいんだけど...)。
「はぁ...」。
「はぁ~」。
「...ん? 」。
「え? 」。
ミュージーとシアターの深い溜め息がシンクロした時、向かい合わせに座っている二人はお互いの顔を見合わせた。
「あ、いやぁ...。ははは、旦那様は多忙で自由奔放な方なので、こういうお見合いとかも代役を立てたりアリバイ作ったりとかして回避してきたんですよ」。
「パルス長官御自身に結婚願望が御有りというわけではないんですね? 」。
「ええ、旦那様は結婚よりも研究や仕事の方が大事と考えておられますし、ずっと自分の意思関係無く御両親からお見合いを組まれ続けて不満を持たれていたみたいでしたからね。もうお見合いで結婚を決められてたまるかともおっしゃってましたし...」。
「なるほど、そういえばそんな話もされてましたね。つまり、シアターさんはパルス長官のお見合いに関するフォローをしてきたって感じなんですね? 」。
ミュージーがそう問いかけると、シアターは頷きながらうなだれた。
「はぁ...本当に大変なんですよ...。旦那様が僕等の知らない間に話をドタキャンしてたとかも全然あるんで、相手側とのトラブルになった事もあるし...。その都度、僕や執事達が火消しに奔走しなきゃいけないし...。旦那様には早く身を固めてもらわないと気が休まらないよぉ~。何時まで続くんだぁ~! こんな事ぉ~! 」。
うなだれていたシアターは苦悶の表情を浮かべつつ、遂には自身の頭も抱えてしまった。
(貴族に仕えている人間も大変なんだなぁ~)。
ミュージーはすっかり意気消沈してしまったシアターを見つめながらそう思っていた。




