魔力は光
神が注ぐ光こそ魔力である。
魔力は信じる者の希望であり、喜びでもある。
ミュージーが事務局の室内に姿を現した時、軍服を着用している一人の軍事職員が歩み寄ってきた。
「御疲れ様です、ミュージー少尉」。
「御疲れ様です、取次ありがとうございます」。
「只今、スプリングさんは応接室にいらっしゃるので案内します」。
「どうも」。
ミュージーが軍事職員にそう言いながら応接室へ入ると、その一室で白衣を着たスプリングがソファーに座っていた。
「勤務中なのに、御邪魔しちゃってごめんなさい。昨日借りた服を返しに来たわ」。
スプリングはソファー立ち上がりながら、白い紙袋をミュージに差し出した。
「いや、僕もあっちこっち王城内を歩き回ってるからね」。
「大変そうね~」。
「はははっ! もう慣れたさっ! ...それより、わざわざ来てくれて申し訳ないね~。君の方こそ勤務中だったんじゃないのかい? 」。
「ううん、休憩中だし移動も魔法陣使うだけじゃない? 」。
「そうなんだけど...上着なら別に転送してくれるだけでもよかったのに」。
「まぁ、口頭で話した方が効率が良いと思ってね」。
「効率...? 」。
ミュージに怪訝な表情を浮かべながらスプリングにそう聞き返していた時、紙袋の中から一冊のノートを取り出した。
「...ん? ノート? 」。
ミュージーがそのノートを開くと、魔法陣に関する解説等が細かく書き記されていた。
「...これは? 」。
「特級魔術師の認定試験対策に私が書きまとめたノートよ。まぁ、正確に言えば転写魔法でコピーしたノートよ。食堂でも一応解説はしたけど、他にも出題されやすいところとか要点も記載されてるから勉強のフォローになるんじゃないかと思ってね」。
「いいのかい? このノート借りちゃって? 」。
「ううん、そのノートは差し上げるわ。それに、ミュージー少尉はなかなか勉強する時間が取れないんでしょ? 同じサカモト教官の研究室で講義を受けている学友として、何か助けにならないかと思ってね」。
スプリングは微笑みながらそう言うと、ミュージーは満面の笑みを浮かべながらそのノートの内容を見つめた。
「ありがとう! 助かるよ! ぱっと見でも凄い分かりやすいし、字も凄く綺麗だから勉強も捗りそうだな~! 」。
「そ、そんなオーバーに喜ぶ事でもないんじゃないかしら...? 」。
嬉々として様子でノートを見ているミュージーに対し、頬を赤らめるスプリングはうつむきながら照れ隠しをしている様子を見せつつそう言葉を返した。
「いやぁ~! テキストから要点をまとめ切る事ができてなかったんだよ~! 本当に助かったよ~! それに上着が無いとお見...っと! 」。
「...? 」。
ミュージーが突然言葉を詰まらせると、スプリングは不思議そうな表情を浮かべた。
「いや、実は軍の方で食事会の予定があってね~。ちょうど軍服が必要だったんだよ」。
「あら、それは危なかったわね~。今日、上着を返せて良かったわ~。それに...」。
スプリングは鎧を着用しているミュージーの身体を興味津々な様子で眺め始めた。
「普段は大学で会うから軍服姿のミュージー少尉しか見た事無かったけど、武装した姿を御目にかかるのは何か新鮮ね~」。
「はははっ! 確かにっ! そういえばスプリングさん、眼鏡をかけてないですね。今日もコンタクトレンズですか? 」。
「ええ、研究によっては眼鏡が曇っちゃうのよ~。それに、研究の時はゴーグルを装着するから眼鏡が邪魔になって面倒臭いのよね~」。
「なるほどね~、それに...」。
ミュージーはそう言いながらスプリングの上半身を見下ろしながら悪戯っぽく笑った。
「...? 」。
スプリングは怪訝な表情を浮かべながら、ミュージーと同じく自身の身体を見下ろしていると...。
「...っっ!! 」。
顔を真っ赤にして自身の身体を抱きしめ、怒った様子でミュージーを思い切り睨め付けた。
「こ、今回はちゃんと着てるわよっっ!! もうっっ!! 」。
「はっはっは~! 冗談っ! 冗談ですよぉ~! 」。
ミュージーはそう言って自身の頭を撫でながら高笑いをした。
「ふんっ!! 馬鹿っっ!! 」。
スプリングはすっかりヘソを曲げてしまったようで、両腕を組みつつミュージに背を向けてしまった。




