魔力は如何なる力にも勝る
魔力は神によって生み出された力。
如何なる力に屈する事は無い。
「…はぁ」。
王城内に存在する特殊治安部隊の基地。
午前中、基地内で事務作業をしているミュージーは自分のデスクで溜め息をついていた。
(参ったな…。昨日、パルス長官にあんな事を頼まれるとは…。お見合いなんてした事無いし、それどころか女性と付き合った経験なんて一度も無いんだよなぁ〜。何か気が滅入るなぁ〜)。
「小隊長、どうしたんですか? さっきから溜め息なんかついてたりして」。
隊員が怪訝な表情を浮かべながらミュージーにそう問いかけた。
「あ、いや…。昨日、大学の方で特級魔術師の模擬結果が出たんだが、その点数が悪くてね…。ちょっとブルーになっているんだよ」。
ミュージーは咄嗟にそう誤魔化すと、その隊員は納得した様子で何度も頷いた。
「ああ〜! いや、でもそれはしょうがないですよ〜! 各自に就寝時間があるとはいえ、この二十四時間厳戒態勢の王城内に勤務する特殊治安部隊の小隊長が大学に通うなんて普通では考えられないですよ〜! そりゃ、講義を受けるどころか勉強する時間も取れないでしょ〜? 」。
「まぁ、通学は職柄難しいから、普段は王城内で通信講義を受けてるからな。今のところは何とかなっているが…あ」。
隊員にそう返している時、ミュージーはある事に気付いて表情を曇らせた。
(マズイな…。お見合いって事は、自分は軍人だから軍服着ていかなくちゃいけないんだよなぁ〜。昨日、スプリングさんに上着を貸しちゃったから、早くそれも回収しておかないとな〜)。
「小隊長…? どうかしましたか? 」。
突如、話す事を中断して考え込んだミュージーの様子を見て、隊員は怪訝な表情を浮かべながら問いかけてきた。
声をかけられたミュージーは、我に返った様子で微笑を浮かべながら隊員に視線を向けつつ首を小さく横に振った。
「いや、何でもない。それより、今日の部隊内連絡でも話したが、来週は王国軍本部の関係者との食事会が予定されている。当日は不在だから、王城の事は宜しく頼むよ」。
「はッ!! 」。
隊員から威勢の良い返事を聞き、ミュージーが頷きながら手元にある書類に視線を戻した時…。
「…? 呼び出しか…? 」。
装着している防具のグローブから青白く光る魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣の中から黄色い光を放つ四角いディスプレイが現れた。
「…王城の事務局からだ」。
ミュージーは魔法陣の上に浮かぶディスプレイに映し出された文字を見つめながらそう呟くと、グローブに浮かぶ魔法陣に向けて声をかけた。
「こちら第一特殊治安部隊のミュージーッ!! 」。
『こちら事務局、ミュージー少尉御疲れ様です』。
「御疲れ様です」。
『只今、王立ポンズ魔術総合研究局のスプリング=リヴァー様がミュージー少尉に御用があるとの事で来訪されておりますが…』。
「すぐにそちらへ向かいます」。
『了解です』。
「…そういう事だから、しばらく席を外すよ」。
通信を切り上げたミュージーは隊員達にそう言い残し、足早に部隊の基地から出て行った。




