魔力は恵みの雨
魔力は神の手によって天から降り注ぐ。
地上にいる我々が魔力を有しているのも、神による恵みの雨を受けているからである。
(スプリングさんって真面目で隙が無いような人だと思ったけど、意外と抜けてるところもあったんだな~。それに、パニックになってたスプリングさんも結構面白かったし)。
ミュージーはそう思いながら王城内の通路を歩いていると、複数の軍人達がこちらに向かってきた。
「お、ミュージー君。お疲れ様」。
黒髪をオールバックにし、サングラスをかけている長身の中年男がミュージーに手を挙げながら声をかけてきた。
その男の近くにはカバリツ副司令官と数人の鎧を纏った兵士達、そして軍服を着た若そうな小柄な男が立っていた。
「はッ!! お疲れ様ですッ!! タカ総司令官ッ!! カバリツ副司令官ッ!! 」。
ミュージーはその場で敬礼をした。
「...ん? ミュージー君、上着はどうしたんだい? 」。
カバリツ副司令官は怪訝な表情を浮かべながら、白ワイシャツ姿のミュージーにそう問いかけた。
「はッ、大学の講義を共に受けていた学生が実技試験の際、転送魔法の誤作動を引き起こしてしまいまして...。それで魔法をかけられた私の上着が何処かに転送されてしまい、現在も捜索中です」。
ミュージーがそう答えるとタカ総司令官が納得した様子で頷いた。
「ああ、それは災難だったね。早く見つかるといいね」。
「はい」。
ミュージーがタカ総司令官にそう言った時、小柄で痩せ型の男はまじまじとミュージーの顔を見つめていた。
(この人は、確か...)。
ミュージーは自身を見つめるその男に見覚えがあった。
「そうだ、ちょうどよかった。長官、この兵士は第一特殊治安部隊で小隊長を務めているミュージー少尉です」。
タカ総司令官は長官と呼んでいるその男にミュージーを紹介した。
「おお~、君がミュージー少尉か~」。
色白い顔にとても軍人とは思えない細身で華奢な身体つきの男は、興味深しげな様子でそう言いながらミュージーを見つめ続けていた。
「ミュージー君、この御方は王国防総省外局の対魔獣危機管理局で長官を務められているパルス=イン中佐だ。貴族出身のパルス長官はゼナイレ家の伯爵も務められている。今日は打ち合わせがあったんだが、長官がわざわざ王城の方まで足を運んでくださったのだ」。
続けて、タカ総司令官はミュージーにパルス長官と呼ぶその男を紹介した。
「はッ!! テンポ=ジャイアン国王配下第一特殊治安部隊ッ!! ミュージー=フェルナンデスと申しますッ!! パルス=イン長官ッ!! 御目にかかれて誠に光栄ですッ!! 」。
ミュージーは直立不動でパルス長官に敬礼をしながらそう自己紹介をした。
「ミュージー少尉の事は本部やウチの局でもちょくちょく聞いているよ~。王国防長官の器を持った秀才なんだって~? 君がいれば、しばらくは王城の方も安泰だね~」。
「はッ!! 私には勿体なき御言葉でございますッ!! 」。
「それにイケメンだし、背もとっても高いね~。身長はどのくらい? 」。
パルス長官はミュージーの身体を見つめながらそう問いかけた。
「はッ!! 一九〇センチでありますッ!! 」。
「おぉ~! 大きいね~! よしっ! 決めたっ! 」。
パルス長官は自信満々な様子で大きく頷いた。
「長官...? 」。
タカ総司令官は怪訝な表情を浮かべてパルス長官を見つめていた。
「ミュージー少尉、折り入って一つ頼みがあるんだ~! 」。
「はッ!! 何なりとッ!! 」。
「僕、今度お見合いの予定があるんだけど、代わりに君が出てほしいんだ~! 」。
「...はッ? 」。
ミュージーはパルス長官の言葉に表情を曇らせた。




