神と名乗る者
神は我々には見えぬ存在である。
自らを神と名乗る者は、私は嘘の化身であると名乗る事に等しい。
そういう物は神の手によって焼かれてしまうだろう。
王国軍本部内の食堂は職員や兵士達でとても混雑していた。
「うわぁ~、テーブル席が満席だな~」。
「本当~、これじゃ食堂で食事をするのは無理そうね」。
「そうだね~、もしよかったら王城内にある食堂で食事しないかい? 」。
ミュージーがスプリングにそう提案していた時、深緑のローブを着用し眼鏡をかけている男が慌ただしそうにテーブル席からやってきた。
「これはこれは~! 国王陛下自慢の精鋭部隊、第一特殊治安部隊ミュージー=フェルナンデス小隊長ではありませんか~! お疲れ様で~す! ささっ! どうぞこちらへ~! 」。
その男は両手を揉み合わせながらミュージーにそう促した。
「え? い、いや...良いんですか? まだ食事中なんじゃ...」。
「いえいえ~! 私達はもう食べ終えたところですから~! はいっ! ”イナフ”っ! ”イナフ”っ! ”イナフ”っ! 」。
その男はミュージーにそう答えながら、テーブルにそう声をかけた。
すると、テーブル上に青白く光る魔法陣が浮かび上がり、そこで食事をしていた人間達の料理や食器が消えてしまった。
「あっ!! お前何すんだよっ!! 」。
「まだ俺達が食べてる途中でしょうがっ!! 」。
「ふざけんなよ!! テメー!! 」。
食事をしていた人間達は憤った様子で立ち上がり、その男に食ってかかった。
「はいっ! はいっ! これから高尚な上官様が食事なさるからっ! 下士官の僕達はとっとと退きましょうね~! 」。
ドカッ!!
バコッ!!
その男はそう言って同席していた兵士達の身体を蹴飛ばしながら退場を促した。
「ってぇ~な!! 」。
「畜生~、覚えてろよ~? 」。
「今度はお前の奢りだからな~? 」。
兵士達はそう言い残し、すごすごと食堂から退散していった。
「ささっ! どうぞ~! 」。
「何か、すいません...。無理矢理席を空けてもらったみたいで...」。
ミュージーは困惑した表情を浮かべながら椅子に腰かけた。
「いいんですよ~! アイツ等はべらべら喋りながらダラダラ食事してたんですから~! 本当に他の人達の事を考えない連中で困ったもんですよ~! 」。
その男は笑みを浮かべながらミュージにそう答えつつ、布巾でテーブルを拭き始めた。
「は、はぁ...。わざわざありがとうございます。え...と? 」。
ミュージーが躊躇した様子を見せると、その男は待ってましたと言わんばかりに眼鏡を光らせながら満面の笑みを浮かべた。
「大変申し遅れましたぁ~! 私はポンズ王国軍の施設部隊に配属しておりま~す! 伍長のメガネと申しまぁ~す! 第一特殊治安部隊のミュージー少尉~! 以後お見知りおきを~! 」。
「は、はぁ...よろしく...」。
「それでは私は失礼致しまぁ~す! どうぞごゆっくり~! 」。
メガネ伍長はそう言ってミュージーに深々と頭を下げると、足早にこの場から立ち去っていった。
(露骨なゴマすりも、あそこまでくると逆に清々しく感じるな)。
ミュージーは小さくなっていくメガネ伍長の背中を見届けながらそう思っていた。




