魔力は人の心を表現する
魔力を持つ者が怒る時、その魔力は炎の様に立ち上る。
嘆く者の魔力は生霊の様に彷徨う。
感傷的になればなる程、魔力は暴れ狂う。
だから、魔力を持つ者は用心しなければいけない。
ミュージーとブリッジは聖歌隊の控え室へやって来たが、そこには誰一人もいなかった。
「まだ、他の人達は戻ってきていないようだな」。
ミュージーはそう言いながらテーブルの上に置かれた紙コップとお菓子に視線を向けた。
「まだ舞台上で演出してると思う」。
「演出…? 」。
「うん、今回のコンサートは演劇を取り入れたミュージカルコンサートなの。私の出番はこれからなんだけどね」。
ブリッジはそう答えながら近くにある椅子に腰を下ろした。
「そうか、教団の方も色々やってるんだな」。
ミュージーは両腕を組み、室内を見渡しながらそう相槌を打った。
「ねぇ、ミュージー。話は変わるんだけど…」。
「ああ、何だい? 」。
ブリッジは神妙な表情を浮かべながらミュージーに話を切り出した。
「ミュージーが騎士団の方に移動するって本当の話なの? 」。
ブリッジの言葉を聞いたミュージーも、神妙な表情を浮かべてブリッジに視線を向けた。
そして、ブリッジも真剣な眼差しでミュージーの顔を見つめ返した。
「その事が上層部の方で話し合われているとは聞いていたが、現時点で僕が軍の方から転勤の通告を受けていない。その通告を受けていない以上、今は何とも言えないよ」。
「もし、騎士団の方へ転勤するって話になったら、ミュージーはどうするの? 」。
ブリッジが続けてそう問いかけると、ミュージーは困惑した表情を浮かべた。
「どうするって…それは指示に従うしかないだろう。軍の転勤に関しては僕の一言ではどうにもできない事なんだし」。
「そっか…」。
ミュージーの答えを聞いたブリッジは納得した様子で小さく頷いた。
「僕の事が修道院の方でも話題になってるのかい? 」。
ミュージーがそう問いかけると、ブリッジは再び小さく頷いた。
「修道院内は分からないけど、少なくとも修道女達の間ではミュージーの話が噂になってるみたいなの。貴族とか上流階級層出身の騎士団へ入るのか、それともポンズ教団の騎士団に入るのか…みたいな感じで」。
「僕は貴族や富裕層出身じゃないから、そっちの方向はあり得ないな。一応、教団関連の騎士団になるのではないか…とは聞いているけどね」。
ミュージーが淡々とした口調でそう答えると、ブリッジは安堵したような表情を浮かべて溜息をついた。
「そうなんだ、それじゃあ…施設の時みたいに…。また、一緒に暮らせるのかな…? 」。
ブリッジはうつむきながら静かな口調でそう言うと、ミュージーは険しい表情を浮かべた。
「どうかな? 教団騎士団の拠点地は王国各地にあるわけだから、何処へ配置させられるかは分からない。もし、僕が騎士団の方へ転勤する事になるのであれば、僕達が育った施設もあるユズポン大聖堂の“聖ポンズ騎士団”になるのではないかと思うけどね」。
「でも…そうなって欲しいなぁ」。
ブリッジはうつむいたまま微笑を浮かべてそう呟いた。




