悪の囁きに惑わされるな
貴方は神の声に耳を傾けるだけで良い。
神の声は貴方を高みへと導いてくれる。
ポンズ王国の都市ユズポン。
完全武装したミュージーと特殊治安部隊の兵士達は、そのユズポン市内にある王国劇場に集結していた。
「いいかッ!! 最近は反勢力集団の不法侵入が問題になっているッ!! 不審な奴等は徹底的に取り締まれッ!! 」。
「はッ!! 」。
ミュージーが声を張り上げて指示をすると、隊員達はそう応答して四方八方に散らばっていった。
「劇場内の状況はどうだね? ミュージー小隊長」。
同じく鎧を纏った高身長の男がミュージーの下へ歩み寄ってきた。
「はッ!! ベア中隊長ッ!! 劇場内は異常無しでありますッ!! 」。
ミュージーは直立不動でそう返答すると、ベア中隊長は小さく頷きながら辺りを見渡した。
「著名な教団関係者がコンサートに出演する事もあって外も屋内も人が多いが...憲兵と防衛部隊、そして本部隊の第二中隊が警戒態勢に入っているから今のところは問題無いだろう」。
「はッ!! 」。
「しかし、本来は陛下直属の部隊として王城の区域内に常勤していなければいけないはずの我々が...まさか修道院の聖歌隊によるコンサートの警備に駆り出されるとはね。ホント、教団への御機嫌取りも決して楽な仕事ではないらしいな」。
「はぁ...。私も軍からこんな出動命令を受ける事になるとは思ってませんでした...」。
ミュージーはベア中隊長による皮肉交じりの言葉に対し、苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「ところで、こんな所でこんな話をするのもあれだが...。この間、カバリツ副司令官から呼び出しを受けたらしいね」。
「えぇ、まぁ...」。
「そうか、正式に騎士団への転勤が決まったのか? 」。
「いえ、それはまだ...。そういう話が軍の人事の方で議題に上がっていると...」。
「そうか」。
「中隊長も、私の転勤の件を御存知だったのですか? 」。
ミュージーがそう問いかけるとベア中隊長は頷いた。
「ああ、部隊内でも話は聞いていたのだが...。この間、軍の人事司令部の職員と話をする機会があってね。その職員の話によるとポンズ教団派政党の王国議員達が君の騎士団入りを推薦しているらしいぞ」。
「はぁ...。一兵士の転勤に政党が関与しているのですか...」。
ミュージーは腑に落ちない様子でベアにそう答えた。
「ははっ! その職員の話も確証が持てないがなっ! まぁ、噂程度に受け止めておいてくれ」。
「は、はぁ...」。
「おっとっ! こんな所でずっと話なんかしているわけにもいかんな。それじゃ、後の事は頼んだぞ」。
「はッ!! 」。
ベア中隊長は踵を返しその場から颯爽と去っていった。
(しかし、こんなに噂になっていて...実に迷惑な事だな。一体、誰が僕の話を吹聴して回ってるんだ? )。
ミュージーはそう思いながら、半ば機嫌を損ねた様子でその場に佇んでいた。




