09 昇格試験
「ハルさん! 闇に飲まれたフィールドウルフを討伐したというのは本当ですか!?」
ギルドへ行くなり受付嬢がそう言って来た。この感じだと恐らく奴の扱いには相当手を焼いていたんだろうな。
「はい、倒しましたよ。まあ俺一人の力ではありませんが」
嘘は言っていない。恐らく倒すだけで有れば俺一人でも出来た。だが周りへの被害を考えた場合、あの時の俺だけでは駄目だった。その点でもギラとの出会いは俺にとってかなり重要だったと言えるな。
「やはり本当なんですね……。シルバーランクの冒険者複数人でも倒しきれなかったあの怪物を本当に倒してしまうなんて。もはや貴方はアイアンランクに……いえ、ブロンズランクにも収まらない存在です」
「そんな、それほどでもありませんよ……?」
あまりに受付嬢の気迫が凄すぎて少し尻込みしてしまう。
「こうなればすぐにでも昇格試験を行うべきです。貴方のような冒険者をアイアンランクに置いておくとまた同じように闇に飲まれた存在が出てきた時に困りますからね」
「そんないきなりランクを上げられるものなんですか?」
出来るならそうして欲しい所ではある。ただ流石にズルというか、余計な問題を生んだりしないか?
「大丈夫です。以前にも特例でランクを上げた冒険者はいますので。そのためのルールもきっちり作ってありますよ」
なるほど。ゴールドやプラチナランクになった者たちの中にそういった人がいたんだろう。
ルールとして存在しているのならば拒む必要も無い。是非受けさせてもらおうじゃ無いか。
「それならば是非、その昇格試験受けさせてもらいます」
そうして俺はアイアンランクから一気にシルバーランクへ上がるための昇格試験を受けることになった。
「昇格試験の内容はワイバーンの討伐、及び撃退だ。試験について他に何か聞きたいことはあるか?」
「討伐方法に特に指定はありませんか?」
「無い。どんな方法をとってでも討伐か撃退を成し遂げることが出来ればその瞬間合格となる」
なるほど。制限が無いのなら俺の本領発揮だな。魔法と近接戦闘の両刀戦法が火を噴くぜ。
「もう無いか? それでは開始とする!」
試験官を担当するギルド専属冒険者のその声と同時に試験は開始された。
と言ってもしばらくはワイバーンの住む場所を目指して移動するため、特にこれと言って気になることも無いだろう。
一応そこに到達するまでの実力も考慮しての試験だとは思うが、案の定何事も無くワイバーンの飛び交う渓谷へとたどり着いた。
よし、まずは一匹だけおびき出そう。基本的には相手は一体の方が良い。その方が狙いが絞れるし、イレギュラーも発生しにくくなる。
陽動だしまずはファイアボール辺りで良いか。
「炎の魔素よ、我の力となりてその姿を示せ。赤き烈火の如く全てを燃やす炎の球、ファイアボール!」
ああ長い。やはり詠唱は長い。それにこう……恥ずかしい。流石に現代日本生まれの一般男性の精神でこの詠唱はちょっとくるものがあるって。
見た目が幼女ってのも相まって、もはや中二病幼女だよこれ。
とかそんなことを考えている間に俺の放ったファイアボールは上手いことワイバーンの横を過ぎ去り、無事に一匹だけこちらへと誘導することに成功した。
「よし、後は……!」
鞘から剣を抜き、こちらへ飛んでくるワイバーンに対して地を蹴って距離を詰める。そして奴が炎を吐こうとした瞬間にその首元へと潜りこみ、そのまま体重をかけた一撃で肉を斬り裂いた。
「……思ったよりも呆気なかったな」
ワイバーンと言えばファンタジーにおいてもかなり上級の扱いになることが多い。
実際ゲームにおいても中盤以降に出てくるそこそこの難易度のモンスターだったはずだ。
だが今の俺にかかればワイバーン単体では相手にならないようだ。
易々と首を斬り落とされたワイバーンは力なく崩れ落ちその姿を消失させた。そしてその代わりにと言うべきか、ワイバーンがいた場所には魔石が残っている。
この辺はゲームとは違う点だ。倒したら消失して経験値とアイテムがドロップするところまではゲームと同じ。だが魔石なんていう物は知らない。
[魔石はモンスターの体内で生成される魔力を帯びた結晶です。基本的にモンスター以外からは入手することが出来ず、特に脅威度の高いモンスターの落とす魔石は魔道具や武器の材料として重宝されています]
そういう物なのか。思い返せばスライムやフィールドウルフを倒した時にも魔石がドロップした。どうやらそれがこの世界での常識らしい。
しかしそうなると気になるのは、闇の勢力によって暴走させられたモンスターを倒した時には魔石が出なかったことだな。
恐らく闇に飲まれることで何かしらの影響があるんだろう。だがそれが具体的にどういったものなのかはまだわからないな。
[闇の勢力についてはまだ謎が多く、魔石が消失する理由も判明していません]
「やっぱりそうなんだな」
まあその辺はさらに情報を集めないといけなさそうだ。
「ふむ……まさかこれほどまでとはな……」
魔石について考えこんでいる俺の元に、試験官がそう言いながら俺の方に近づいてくる。言い方からして合格なのはほぼ確定的に明らかだろう。
「これで試験は終了ですか?」
「ああ、そうだな。そして結果はまごうこと無き合格だよ。……それにしてもハル殿は戦士なのか? それとも魔術師なのか?」
「それはどういう……」
妙な事を聞いてくるな。と思ったが、そう言えば冒険者登録の時のあの石板には職業については出なかったんだっけか。
いやちょっと待てよく考えたら職業って何だ?
俺たちの職業って冒険者じゃないのか?
もしかしてその辺もゲームとシステムが違うのだろうか。
[ゲーム内における職業はあくまで儀式魔法が用意した勇者としてのテンプレートでしか無く、特に上級職においては実際にこの世界に存在する訳ではありません]
……なるほど。となると俺のゲーム内での職業……特に上級職であるバトルマジシャンの名を言ったところでまるで意味が無いと言う訳か。
「俺は……両方ですよ」
そう言うしかない。他に言いようがない。
「両方……そのようなことがあるのか。だがあれだけの戦いっぷりなんだ。正直信じざるを得ない……か。いやすまない、変な事を聞いてしまったな」
試験官はそれだけ言うとそれまで通りの雰囲気に戻った。とりあえず彼の疑問への答えとしては間違えていなかったのだろう。
まあとにかく昇格試験に合格したのは事実だ。これで俺は一気にシルバーランクになったって訳だな。
とりあえず進展したってことで良いんだ。色々と考えるのは今じゃなくても良いはずだし、これで闇の勢力についての情報集めも捗るってもんだぜ。
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