35 闇に飲まれしモンスター再び
さあて、先手必勝。まずはこっちで新たに手に入れた複合魔法を喰らってもらおうか。
「フレイムランス、サンダーボルト」
生み出した炎の槍に雷を纏わせていく。
「グルルゥ……」
奴もこっちを視認したみたいだが、もう遅い。
「そおぃっ!」
雷のチャージが終わったと同時に奴へ向けて槍をぶっ放した。
「グゲァッ!?」
「ど真ん中に命中したな。今のは中々効いただろ?」
フレイムランスによって爆発が発生したせいで奴の姿は確認出来ないが、今の一撃はかなりの威力だったはずだからな。きっと良い感じに削れているはず……。
「ッ!? あっぶね!」
突然、凄まじい殺気が全身を襲った。
咄嗟にその場にしゃがんだその時、頭のすぐ真上を奴の爪が掠って行った。
それにしても、あの攻撃を受けてこれだけすぐに反撃してくるとはな。一応ダメージ自体はしっかり負っているみたいだが、動きを止める程では無かったってことか。
「中々骨が折れそうじゃねえか」
こっちの世界ではしばらくぬるま湯のような戦いばっかだったからな。久しぶりになんというかこう、心が躍るぜ。
「せっかくの面白そうな戦いなんだ。すぐにやられてくれるなよ?」
「グルゥゥゥ……グァァ!!」
多少警戒していたようだが、その後すぐに飛び掛かって来た。
まっすぐに俺の首を狙った一撃。良いね、狩人としての洗練された動きだ。
「だが、俺の視界内での一撃としては遅い……遅すぎる!」
奴の爪を剣で弾き、体勢を崩したその隙に懐に潜り込む。
「そぉら! 弱点が丸出しだな!」
この手の生物は大抵が腹を搔っ捌けば死ぬ。ので、これでも食らいやがれ。
「オラァッ!」
思い切り剣を突き刺す。
堅い外皮を貫通し、柔らかい肉を切った手ごたえがしっかりとあった。
「グガアァァァッ!!」
「効いてるな……っと、危ない危ない」
痛みによるものか、それとも単に腹の下にいる俺を吹き飛ばすためか、奴はその場で暴れ始めた。
向こうでの戦いからしてコイツの攻撃で致命傷になることは流石に無いだろうが、それでも攻撃を喰らわないに越したことはないからな。ここは離れておくに限る。
「魔法攻撃自体は通るみたいだから、次はこれでも試してみるか」
剣を鞘に納めた後、両腕に魔力を込める。
そして光属性の矢を無数に飛ばすライトニングアローと、闇属性の矢を同じように無数に生み出して飛ばすダークアローを混ぜ合わせる。
炎属性と氷属性の相反する魔法を合わせるとあの威力になるんだ。光属性と闇属性を混ぜ合わせてもきっと良い感じに火力が上がるんじゃねえかな。
「よし、後はコイツを撃ちだせば……ぁ?」
生み出した矢を奴に向けて放とうとしたその時、破裂音と共に俺の右腕が吹き飛んだ。
「は……? 何が、起きて……うぐッ!?」
一瞬隙が出来てしまったからか奴が突っ込んできた。
幸い大したダメージでは無かったものの、そのまま後方に吹き飛ばされてしまった。
「あの野郎、何の躊躇いも無く吹き飛ばしやがって……。さて、とりあえず状況の確認か……」
吹き飛んだ右腕を見る。
……二の腕の真ん中辺りから奇麗に無くなっているな。どうやら内側から弾け飛んだみたいだ。そんだけ派手に吹き飛んでるからか出血も酷い。
この体は痛覚が弱まっているから痛みはほとんど無いが、流石にこのままは不味いよな……。
にしてもどうするか。このレベルの損傷は俺の使える回復魔法じゃあ即座には治せない。
本職の持ってる超級回復魔法なら一瞬なんだろうが、生憎と俺は器用貧乏。そんな大層な回復魔法は使えない。
とは言え、応急処置にはなるから回復魔法自体は一応使っておこう。
「ヒールレイン……やっぱ治りはしないか」
回復効果のある雫が辺りに降り注ぐ。
こっちの世界なら何か違う挙動をしないかと期待したがそんなことはまったく無く、ただ出血が収まっただけだった。
はぁ……ドラゴンの攻撃でもここまでにはならなかったのに、急にどうしてこんなことになったのか。
いや、そんなことは後で考えよう。今はこの腕で奴とどう戦うかだ。
右腕を失ったとなると剣も使えない。いや左腕で振れないことも無いが、それが通用するような相手じゃないからな。
「とかなんとか考えている内にも……ってか」
奴がジワジワとこちらへ距離を詰めていた。相手が手負いでも油断はしないってか。
左手で魔法を発動させても良いが、ここで同じく吹き飛びでもしたらマジでどうしようもなくなるからな……。
となれば後は腕を使わない攻撃手段か……何かあったか?
「おっと、考えてる最中に攻撃すんじゃねえ……! いや戦闘中に悠長に考えてる方が悪いか」
奴の攻撃は苛烈さを増している。恐らくここで一気に決めるつもりなんだろう。俺だって相手が欠損レベルでダメージを負っていたら責め続けるしな。
「あ、そうだ」
手を使わない攻撃方法ならある。
アイテムウィンドウから選択したものをそのままぶち込めばいい。
「そうときたらっと、まずはこんなもんか?」
幸いにもアイテムウィンドウ内には大量の装備アイテムが蓄えてある。と言ってもほとんど使わないものではあるが。
それらを大量に実体化させて奴の方へと飛ばす。
絵面はさながら、どこぞの金ぴか王様だな。
「グルゥ、グガァッ」
無数に飛び出て行くナイフや剣、さらには斧に槍まで。中には魔法が封じ込められた杖もあるからか時折爆発が起きたり雷が落ちたりしている。
「とどめはコレだ……!」
今まで飛ばしてきたのはどれもレアリティが低いものたち。と言っても俺自身の投擲判定にでもなっているのか、俺のステータスを参照しているらしくダメージとしては申し分ない。
そしてそこにとどめを刺すべくこの武器を投入する。
「最高レアに設定された魔剣だからな。存分に味わってくれよ」
こいつはレイドボスであるブラッドスパイダーの討伐報酬として手に入る魔剣だ。数値自体は最高レアの中でも中の下と言った感じだが、その特殊能力は中々に強力なんだよな。
なにしろ接触した相手の移動速度を低下させ、与えたダメージの一部を回復すると言うシンプルながらも使い勝手のいいものだ。弱い訳がない。
そんな代物を今コイツにぶつけてやろうと言う訳だ。
「じゃあな」
「ググァッ」
撃ちだした魔剣が奴の脳天に突き刺さる。
少しの間、奴の体がビクビクと痙攣したかと思えばあっという間にその姿はきれいさっぱり消滅した。
「ふぅ、終わったな……うん?」
奴の姿が消滅するのと同時に、地面に何やら魔法陣が現れた。
「これ、このままで良いのか……? うぉぉっ!?」
一瞬目の前が真っ白になる。
「な、なんだ!? 何が起こったってんだ!?」
「晴翔……!?」
視界が晴れた時、そこにはトウヤとあの魔物ハンターたちがいた。
どうやらダンジョンの外に出てきたらしい。
「おい、その腕……!」
「これか? よくわからないがいきなり吹っ飛んじまってな」
「なんだって? ……クソッ、やはり一人で行かせるべきでは無かった!」
自分を窘めるようにトウヤはそう叫んだ。
俺にとってはそんな大げさな物でも無いんだが……いや、欠損して帰ってきたら誰でも驚きはするか。
「まあまあ、心配すんなって。明日には戻ってるからよ」
「……なに?」
「回復魔法をかけ続けてればその内生えてくるから大丈夫だって」
「……晴翔、君はやはりその……随分と規格外なんだな」
ああ、そっか。この反応が普通か。
「なんにせよ、無事……とは言い難いが生きて帰ってきてくれて安心した。ひとまず晴翔は休んでいてくれ。諸々の後処理はオレがしておこう」
「トウヤがそう言うならそうさせてもらおうかな」
別に俺はまだまだいけそうだが、あまり無理言っても彼を困らせるだけだろう。
ここは彼の言葉に甘えようじゃないか。




