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30 並行異世界と世界の調停機能

 ヴォイドと名乗る男の説明によれば、まず彼は普通の人間では無いとのことだった。

 複数に渡る世界……彼曰く「並行異世界」の記憶を同時にいくつも保有する者……それらを纏めてヴォイドと呼ぶらしい。

 そしてそのヴォイドの持つ記憶の内の一つにおいて、とある世界が滅ぶ運命を迎えたのだと言う。


 それだけならば無情ではあるが勝手にしてくれとしか言いようがない。どちらにしろこっちから干渉できないのならどうしようもないし。

 だが問題はその世界とこの世界に関わりがあるというものだった。


 まずこの世界は俺の元居た世界とは違うものらしい。

 いや、薄々どころかかなりそんな感じはしていた。そもそも魔法とか魔物とかそういうのは存在しなかったはずだしな。


 とは言え完全に別の世界と言う訳でも無く、元の世界と混ざりあっているような状態のようだ。

 だから陽や桜、アルスなんかは俺の事を覚えていたということか。それに世界の大部分が同じなのにも納得はできる。


 それくらいには関係性のある世界が滅びた以上、この世界も似たような原因で滅びを迎える可能性が高いのだとか。

 そうなってくると世界が滅ぶとかいう話についても妙に信憑性が出て来てしまう。と言うのも、ここ最近やたらと強力な魔物が発生するようになっているらしい。

 

 その点で言えば、以前タナトスが見つけた召喚魔法もどうやらこの白姫教団の仕業だったようだ。その時の召喚にもこの強化された魔物が利用されたみたいだな。

 どうりで腕利きの魔物ハンターでも勝てなかった訳だ。


 それに関して問い詰めたところ、学園を襲った時と同じく何としてでも俺を確保するためだと言う答えだけが帰ってきた。

 まあ、これで一つわかったことがある。

 

 それは、コイツらは恐ろしく真剣で、それでいて凄まじく冷酷だということだ。

 世界を滅びから救うためならどんな手でも、それこそどれ程の犠牲を払ってでも勝率の高いものに賭ける……そんな雰囲気を感じる。


 それがわかった以上、怒りとかもどこかへ吹き飛んじったな。

 俺がどれだけ怒った所で必要な犠牲だったと言うだけで、ヴォイドはそれ以上を口にする事は無かった。

 正直まともに相手するだけ無駄だろう。そもそもの価値観が違う。


 あとは白姫伝承とかいうものについても話していたな。

 あれもヴォイドの持つ記憶を元に作られたもののようだ。だが俺がいたアーステイルとはまた少し違う世界のことなのか細部が違って伝わっていた。

 いや、もしくは色々な世界での白姫の活躍が混ざり合っているのか。


 なんにせよここまでの大事なんだ。そりゃ政府によって秘匿もされるわ。

 と言うかこんなヤベー組織が政府公認なのが本当にさぁ……。

 はぁ……どうしたもんか。あれだけのことをした奴らに協力するのはこう、気分的に嫌な所がある。


「我々としても世界が滅ぶのを指を咥えて見ている訳にはいかないのです」

「ええ、そうでしょうね。でなければここまでの事はしないでしょうし。ですがいくらなんでもやり過ぎなんですよ」

「……晴翔の言い分ももっともだ。俺だってできるなら、こんなことはしたくなかった……!」


 トウヤの顔が曇る。それもそのはずか。妹が通う学園を何度も襲っているんだ。なんなら何度か直接危ない目にあっているし、気が気じゃ無かっただろうな……。

 

「だが、それでも……世界が滅びればすべてが終わってしまう。エリンを救うにはこうするしか無かったんだ……許してくれとは言わないが、どうか力を貸して欲しい。お願いだ……」


 ……彼の目は本気だった。

 久しく忘れていたこの感覚。向こうではこの目を何度見ただろうか。

 妹のために全てを投げ捨てられる……そんな覚悟を感じた。


 そんな覚悟で頼まれちゃ、断るにも断れねえよな。


「……わかりました。俺にできる範囲でなら、力を貸しますよ」

「本当か……!?」

「うぉっ」


 勢いよくトウヤに抱き着かれ、体勢を崩しかける。


「ありがとう……本当に、どれだけ感謝してもしきれない……!」

「世界が滅ぶと困るのはお互い様ですし、エリンを助けたいのも同じですから」


 結局、力を貸すことになってしまったな。

 だが後悔は無い。ヴォイドの言う事が真実ならば、少しでも情報を得るために協力した方が良いのも事実だ。

 それにもし彼が嘘をついていたとしても、どちらにしたってこんな危ない教団を放っておくわけにはいかないからな。

 それなら近くで監視した方が良いに決まっている。


「それでは早速、我々の策を伝えましょう」


 そう言うとヴォイドは部屋の中央にある大画面に資料的なものを映し出した。


「魔物が強力になりだした原因は既に検討が付いているのです」

「これは……」


 画面に映る映像……それには見覚えがあった。


「なんで、コイツが……『闇に飲まれしモンスター』がこの世界にいる……?」


 ドス黒い巨大な魔物の姿をしたそれを忘れるはずも無かった。

 アーステイルで何体も狩り倒したその姿と全くもって同一な魔物が映像には何体も映し出されていた。


「ご存じ……でしょうね。どの世界においても白姫によって闇の魔物は倒され、世界は救われたと伝わっておりますので」

「だが、それならどうしてコイツが……」

「世界の調停機能……とも言うべきものでしょうか」


 世界の調停機能……?

 初めて聞く概念だ。


「晴翔殿によって闇に飲まれしモンスターはその全てが討伐され、アーステイルなる世界は救われた。しかし、闇に飲まれしモンスター自体が調停機能なのです。それを無理やりに排し、人々を救った結果……別の世界にも影響が出始めた。我々はそう認識しております」

「……だがそれなら、どうしてよりにもよってこの世界に」


 別の世界に影響を及ぼすと言ったってアーステイルとこの世界には共通点なんてほとんどないじゃないか。

 なんなら全くの別の世界だと言っても過言では無いはずだ。


「白姫……いえ、この場合は晴翔殿と呼んだ方が適切でしょうか。晴翔殿があの世界に召喚された術式、あれが恐らくこの世界との縁を結んでしまったのでしょう。しかし世界が違い過ぎるためにいくら調停機能と言えど直接影響を及ぼすことは出来なかった……」

「それならばこの世界には影響が出ないはずなのでは……?」


 彼の言う通りなら縁があっても世界自体が遠すぎれば影響を及ぼせないことになる。


「ええ、そうなのです。普通はそうなるのでしょう。ですが、今回は違ったようです。晴翔殿も気付いているはずです。この世界の違和感に」

「……魔法や魔物の存在……か」

「ええ、そうです。調停機能はこの世界に別の世界を混じり合わせることで影響を及ぼせるまでに無理やりにでも近づけたのでしょう」


 世界が違い過ぎるから世界そのものを変えて近づける……いや、いくらなんでも想像以上に何でもありじゃないか。

 いや、世界の調停機能だなんて大層な概念なんだ。それくらいやってのけるんだろう。


 そんな中でも少なくとも原因となるものが見えているのは良い傾向だ。目に見えない物を負い続けるよりもひとまず闇に飲まれしモンスターを狩ればなんとかなる。

 それがわかっているだけ大分動きやすい。


「どの世界においても白姫はある時を境に姿を消しています。ですがそれ以降その世界や近い世界が滅びたという記憶はありません。つまり、今回のように遠い世界を跨いで影響を与えることの方がイレギュラーということです。ですので今この世界が滅ぶことを食い止められれば……」

「負の連鎖を止められる……ということですね」


 そうすれば正真正銘、世界の危機は去ることになる。


「では改めて、晴翔殿のそのお力を我々のために……いえ、世界のためにお貸しください」

「ええ、望むところですよ。俺が世界を救ってみせます」

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