29 白姫教団
エリンの兄さんに案内された場所は教会……の地下だった。
「おいおい、マジか……」
外からの見た目は完全にただの教会だった。だがいざ地下へ案内されてみると驚いた。
何しろ見たことの無い装置だらけだったからな。
恐らくマジックアイテムの類なんだろうが、仕組みとかに関してはマジで理解できる気がしない。
「ようこそ白姫教団へ。白姫様……いや、晴翔殿とお呼びした方が良いですかな」
奥へと進むと使徒との戦いを指揮してそうなエリアがあり、そこで一番高い位置にある椅子に座っていた一人の男がそう言ってきた。
明らかに他の人とは違う貫禄と言うか威圧感と言うか。恐らく彼がこの教団を指揮する存在なんだろうな。
「……貴方が白姫教団の代表で良いんですね?」
「その認識で構いません。ここではヴォイドと呼ばれておりますゆえ、どうかお見知りおきを」
「それで、俺に力を貸して欲しいと言うのは……いや、聞きたいことが多すぎる。あなた方の事も含めて、全て話してもらいますよ」
世界が滅ぶだとか白姫教団だとか、正直わからないことだらけだ。
こうなった以上は知っていることを全て話してもらおうじゃないか。
「えぇ、もちろんですとも」
「待ってくれ」
ヴォイドが話し始めようとしたところをエリンの兄さんが止めてしまった。
「彼の力量を疑う気は無い。だが俺は彼が、晴翔が白姫本人だと言うのは信じ切れないんだ」
「……しかしだね。彼の力は常人のそれを大きく凌駕している。それこそドラゴンすらもだ」
「わかっている。わかっているが……」
そう言えばあの時、教団員だと思われる女性が何か話そうとしたのを止めたんだっけか。
それだけ俺を信用していないってことなんだろうが……正直俺だって何でこんなことになってるかわかんねえよぉ。
何が白姫教団だよ。どうしてこの世界に白姫のことが伝わっているのかもわからねえのに教団もクソもあるかよ。
「それならばいっそ、直接戦ってみれば良い」
「えっ」
知らない内に話が進んでいたようで俺とエリンの兄さんは戦う流れになっていた。
「……ああ、わかった。晴翔、すまないが俺と一戦交えてはくれないだろうか」
「ええ、構いませんよ」
断れる雰囲気では無いし、彼の力量ももっと知っておきたいところではある。
少なくとも授業で会った現役ハンターよりも遥かに強いと見て良いだろうしな。
と言う訳で俺たちはさらに地下にある戦闘場へと向かった。
いやどういう構造しているんだこの教会は。
「そう言えばまだ名乗っていなかったか。俺は一ノ瀬トウヤ。知ってはいると思うがエリンの兄だ。今このタイミングで言うのもあれだが、妹が世話になっているようだな。感謝しよう」
「いえいえ、こちらこそ彼女にはよくしてもらってるので」
主に陽に関連するものではあるが、エリンには結構助けられているからな。
「さて、それでは改めて……勝負と行こうか」
「手加減はしなくても良いんですよね」
「ああ、そうでなければ意味が無い」
そう言うとトウヤは剣を抜き構えた。
うん、どうしよう。手加減は無しと言ったものの、建物内で超級魔法ぶっ放すとか正気の沙汰じゃないぞ。
ああ、そうだ。何も俺の手札は魔法だけじゃ無いじゃないか。
バトルマジシャンは器用貧乏。近接戦闘だって出来るんだぞってことで……。
「ッ!」
アイテムウィンドウから剣を取り出すと同時にトウヤの目つきが変わった。
……もしかして俺、何かやっちゃったか?
なんて、言わなくてもわかってる。この能力は恐らくこっちの世界でも異質なんだろう。
「虚空から剣を……その力、やはり白姫の……いやいい。どちらにしろ戦えばわかる話だ」
「はは……詮索しないでいただけるのは助かります。じゃあ、行きますよ」
俺も剣を抜き構える。
その瞬間、辺りの空気が変わった。
肌を伝う殺気。一歩でも動けば首が飛びそうな程に濃縮された威圧感が全身を包み込む。
この状態でも平静を保っていられるのは向こうでの経験によるものか、はたまた勇者としての能力なのか。
「……ッ」
先に動いたのは向こうだった。
一瞬彼の姿が消えたかと思えば、気付いたらすぐ目の前にいた。しかし懐に潜り込まれる前に反応し、剣を振ることが出来た。
しばらく剣を使っての戦闘をしていないからか腕がなまっている気がしなくも無いな。
「こんなにも容易く受け止めるか。最初に見た時から思ってはいたが、やはり大した腕だ」
「ありがとうございます。それじゃ今度はこちらからいきますよ」
剣を握る手に力を入れ、そのまま彼の剣を弾き上げる。
そしてすぐさま体をひねって一撃を叩きこんだ。
「ぐッ……」
とは言え彼もそのままなすすべなく攻撃を受けるなんてことは無く、精密な体重移動で弾かれた剣を振り下ろし、俺の攻撃をギリギリのところで防いでいた。
しかし完全に威力を受け流すことは出来なかったようで、今の一撃で彼の剣は折れてしまった。
「……降参だ。実際に戦ってみて実感した。俺じゃ足元にも及ばない」
「そんな、トウヤさんも十分お強いですよ」
ここでそう言ったところでお世辞にしか聞こえないだろうが、彼の実力は本物だ。
そもそも俺が一瞬でも目で追えなかった時点で向こうで戦ったほとんどの魔物よりも速い。
さらには本気では無いとはいえ俺の一撃を耐えているんだ。
少なくともそんな彼が弱いはずが無い。
こうして彼に認められた俺は改めてヴォイドの元へと連れられ、説明を受けることになった。
「さて、彼も晴翔殿を認めた所で改めて説明をいたしましょう。……とは言ったものの、まずは何から話せばよいだろうか」
「それなら一つ、ああまでして俺を狙った理由を聞かせてもらいましょうか」
世界が滅びるだとか言っているからついてきたものの、こいつらは何度も学園を襲っている。
エリンの兄さんのいる組織だから極力疑いたくは無い。しかし本当に信用していいものなのかどうかも現状わからない。
と言うかそもそも襲ってきたこと自体は許してないしよっぽどのことが無いと許さないが。
「だから言っただろう。学園を直接襲うのはやりすぎだと」
「私自身、乱暴な手だったとは思っていますとも。しかし、もはや悠長にしていられる状態でも無いことをどうか理解していただきたい」
「……それほどまでに大変な状況なんですね?」
ヴォイドの表情は真剣そのものだった。少なくとも愉快犯とか学園に恨みがとか、そう言うのでは無さそうだ。
大豊を駒として使ったのもあくまで白姫の炙り出しに「ちょうどよかった」からでしかないんだろう。
それはそれで無機質な怖さと言うか冷酷さを感じるがな。
「その説明をするためにもまずは教団の発足……及びこの私『ヴォイド』について説明いたしましょう」