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26 プール、それは水着回

 とんでもないことになってしまった合同試合だが、幸い死者は出なかったらしい。

 それもあって少しの間はピリピリしていた学園の空気も今では結構元に戻りつつある。


 が、それにしても戻り過ぎな奴がここにいた。


「だからさ、プールいきましょプール!」


 登校してから出会って開口一番、エリンはそう言って来たのだ。


「どうしてまた急に……それにちょっと前にあんなことがあったのに随分とお気楽な……」

「だからこそでしょ! 気分が落ち込むときは楽しいことをするに限るわ」


 彼女なりの精神安定の方法と言うか、そういう物なのか。

 だとしてもだ。それを抜きにしてももう夏も終わりなのにプールとは……。


「もう10月になるだろ。プールに行くにしては時期がもう遅すぎるような気がするんだが」

「仕方ないじゃない。色々と忙しくて行けて無かったんだから。せっかくだから陽ちゃんも誘って一緒にいきましょうよ」

「それは良いが……」


 恐らく陽は元の世界ではプールとは無縁の生活を送っていたはずだ。

 だから彼女にはプールで遊ぶ経験をさせてあげたいところではある。


「それなら陽とエリンで行って来たらどうだ?」


 なにも俺と一緒である必要も無い。

 そう考えていたのだが……。


――――――


「……どうしてこうなった」


 結果として、俺とエリンにリュウ、さらに桜と陽の計5人でプールに来ていた。

 いや本当にどうしてこうなった?


 まずは陽を誘った。そうしたら俺と行きたいと言う事になって、仕方なく俺も行くことになった。

 そして俺と陽がいくのならと桜も付いてきた。なんでついてきた?

 さらに友達でしょとリュウも誘われ、結果この5人になった。


「なあ、晴翔」

「どうしたリュウ」

「俺、凄い場違い感が無いか?」


 ……確かにそう言われればそうだ。気を抜くと忘れるが俺は女の子ということになっている。

 つまり今この集団は男1女4であり、周りから見ればハーレム状態な訳だ。


「すげえ気まずい」

「……だろうな。色々とすまん」


 彼には悪いことをしたかもしれない。

 エリンとしては普通に友達の一人として呼んでいるのだろうが、それがかえって気まずさに拍車をかけているのかもしれないな。

 

「謝るなよ晴翔。誰のせいでもないだろこれは。というか謝られるとさらにこう、何とも言えない精神的ダメージが……」

「さて、せっかく人気のプール施設に来た訳だし! あれ、乗るわよ!」


 エリンの指さす先にはクソデカいウォータースライダーがあった。

 このレジャー施設の目玉とも言えるそれだが、時期が時期と言うことで並んでいる人はほとんどいなかった。

 と言うかそもそも客自体が少ない。


「二人一組らしいけどどうするんだ?」

「それじゃあ私と陽ちゃんがまず一緒に乗るわね」

「うん、一緒に乗ろう」

 

 そう言う訳で二人がまずスライダーから滑り落ちて行った。

 途中で聞こえてくる声はとても楽しそうで、陽も初めてのウォータースライダーを楽しめているようで何よりだった。


「それじゃあ俺とリュウで行くか」


 桜と一緒に乗るのはこう、防衛本能的なものが絶対にやめておけと囁いてきたので控えることにした。


「私は一人でも構いませんよ。せっかくのクラスメイトなんですし、お二人で楽しんでくださいな」


 桜もそう言うので俺とリュウで組むことになった。


「よっし、掴まってろよリュウ」

「ああ……って、ぅわっ」


 リュウが俺の体に腕を回し、肌に接触した瞬間、変な声をあげながら手を放してしまった。


「ど、どうしたんだ?」

「いやごめん……感覚的には男友達だったはずなんだけどその、さ……晴翔って女の子だからさ」


 リュウの手が空中で行き場を失くしていた。

 

「別に俺は気にしないし大丈夫だぞ?」

「お前が気にしなくても俺が気にするんだよ……」


 仕方ない、交代するか。

 前後を交代し俺がリュウにしがみつく形になった。


「よっし今度こそ行こうぜ!」

「うわぁっ!?」


 リュウの体に腕を回す。と同時にリュウは再び変な声を出した。

 さっきと違ったのはその衝撃でスライダーを滑り始めてしまったことだろう。


「おぉー中々速いな」


 フレイムドラグーンには何度も乗っているし、こういうのには慣れている気がした。けどそれとこれとはまた別だった。

 そもそもスライダー自体久しぶりだからな。中々楽しいじゃないか。


 そしてそのまま滑り終わり、ばしゃーんと水に打ち付けられたところでリュウが何とも言えない表情でこちらに歩いてきた。


「晴翔……お前のためにもこれは言っておくべきだと思うんだ」

「ど、どうしたんだ急に……?」

「晴翔は自分のことをどう思っているかわからないけど、少なくとも周りから見てお前はすっごく、その……可愛いんだよ」

「お、おぅ……?」


 どうして急にそんなことを。それにしても可愛い……か。

 なんだ、この感覚は。むず痒いと言うか何と言うか。

 向こうでも美しいとか麗しいとかは言われていたはずなのに……なんかリュウに言われると少し違う感じがする。

 

 凄い……ゾクゾクする。

 いや待て待て、落ち着け。明らかに健全じゃない感覚だこれは。

 だ、大丈夫か? 俺、ニヤけて無いか?

 

「だからさ、あまり変なことするとこっちも変な気分になると言うか……。さっきも普通に肌触らせてきたし、滑ってる時もその……当たっててさ。ああ、もうこの際言っちゃうけど! その水着も凄い似合ってるんだよ本当に可愛い!」


 エリンに選んでもらったこの水着。どうやら一般男子にとっても似合って見えるらしい。

 ……って、そうじゃ無いだろ今は。

 

 なんか俺が思っていた以上にリュウには負担をかけたようだ。彼には悪いことをしたな。


「あぁ……なんか、色々とすまんな」

「……いや、こっちこそ急にごめん」


 なんだか妙な空気になってしまった。

 まあこれも俺が軽率過ぎたせいではあるんだけども。

 

「どうしたのよ二人共。まだまだこれからなんだし、そんな辛気臭い顔してないで楽しみましょう?」


 ああ、普段は元気過ぎるくらいなエリン。こういう時は凄い助かる。


「私、次は波のプールに行きたい」

「おお、じゃあ早速行こうか」


 陽にその気は無いんだろうが、願っても無い助け舟だった。

 とにかくこの場を移動すれば何とかなるだろう。


 そしてそれは正しかった。

 波のプールで遊んでいる内にさっきの事はきれいさっぱり……とはいかないがある程度は流れて行った。


 そしてその後も皆で遊び倒し、気付けば夕方になっていた。

 と言っても桜と俺はほとんど陽の付添い及び保護者のようなものだったが。それでも初めてのプールを全力で楽しむ彼女を見てるとこっちも楽しくなってくるものだ。


「もうそろそろ帰らないといけないわね。けど、これだけ遊びつくしたんだし後悔は無いわ」

「うん、凄い楽しかった。今日はありがとうエリン」

「えへへっ、そうでしょう陽ちゃん。また来年も一緒に遊びましょうね」


 陽に満面の笑みを向けられて、エリンの顔が目に見えて蕩けている。

 まあわからなくはない。陽の笑顔は万病を癒す。その内、癌にも効くようになる。


 というか来年も誘われることになるらしい。でもそれはそれでいいか。楽しかったのは事実だ。

 陽の楽しむ姿は俺も見たいしな。決してあのゾクゾク感をもっと味わいたいとか、もっと客が多い時期に水着姿を見せつけたいとかでは断じてない。

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