24 ドラゴンの正体
しかし妙だな。爆発が起こる時に発生した魔力……どこかで感じたことがあるような気が……。
「晴翔君!」
「え?」
気付けばドラゴンが急降下してきていた。
俺としたことが隙を晒すなんて。流石に平和ボケし過ぎたかもな。
「フレイムウォール」
炎の壁をドラゴンの前に展開する。あれだけの戦闘力なんだ。流石にそのまま飛び込んで来る程、見切り発車ということは無いだろう。
とは言えヤツの方からやってきたのであれば好都合。射程に難がある魔法もこの距離なら問題なく当たる。
「相変わらず凄い魔力だ……だがこれでも時間稼ぎにしかならないだろう……。何か、手はあるのかい晴翔君?」
「確証は無いですが……まあ、やるだけやってみますよ」
心配そうにこちらを見る学園長にそう返し、奴に通用しそうな魔法を発動させる。
「イグニブレイド!」
魔法を発動させると同時に炎の剣が大量に召喚され俺の周囲を回転し始めた。
この魔法は炎の剣をこれでもかという数作り出す中級魔法だ。一本一本の威力はそこまででも無いが攻撃速度と制圧力ならお手の物。
……だがどちらにしろこの威力では奴の防御は突破できない。
そこでだ。
さっき学園長と行った複合魔法をこのイグニブレイドに行ってみるとしよう。
「ぶっつけ本番だが、試す価値はあるよな」
大量の炎の剣を一本に集約していく。すると物凄い轟音とともに剣が巨大になって行った。
こんな状態は始めて見たが、見たところどうやら上手くいっているようだな。
「後はこいつをぶつけてやれば……!」
ちょうどフレイムウォールが消え、奴の姿が見えた。
こんなんをぶつけられれば流石の奴もただじゃ済まな……。
「……は?」
近くまで来ていたからか奴の顔がはっきりと見えた。その姿を見た瞬間、一瞬思考が止まってしまった。
「どういうことだ……君は、大豊なのか?」
今こうして目の前にいる奴は確かに大豊の顔をしていた。
形状はドラゴンに近いものになっているしほのかに面影が残っているだけだ。
見ようによってはバイオなハザードにおける変異体のようになっていたが……確かにアイツのそれだった。
そうか。あの妙な感覚。感じたことのある魔力だとは思っていたが、大豊の野郎のそれだったんだ。
「なんでお前が……」
「やっと気づいたのかよ」
「……どういう状況かはわからないが、こうして再び出てきたってことはそう言う事で良いんだよな?」
奴がどうしてドラゴンになっているのかはわからない。だが一つ言えることがある。
あれだけのことをして、あんなことになって、それでもなお俺の前に出てきたと言うことは相応のことをしでかそうとしているってことだ。
「アリーナの他の皆を襲ったのは何故だ? お前の目的は俺じゃないのかよ」
「確かにそうだね。けど、どうせなら僕をこんな目に遭わせた学園の連中にも復讐してやりたいじゃないか」
「復讐も何も自業自得だろうよ」
「……はぁ、そうだな。そう言うと思った。だから僕はこの力を使って、僕が正しいんだと言う事を証明する」
そう言うと奴は再びブレスを吐く動作を行った。
この距離で攻撃されれば俺は大丈夫でもアリーナにいる皆は無事では済まない。
「不味いぞ晴翔君、この距離では私たちどころか皆が巻き込まれてしまう!」
「そうはさせない!」
作り出した巨大な炎の剣を奴にぶち込む。
その瞬間、それは奴のブレスと衝突して大爆発を起こした。
「マジックプロテクション!」
即座にマジックプロテクションを発動させる。だが今回はアリーナを覆うのではなく、奴を囲むように展開させた。
これで爆発を中に閉じ込める。上空にいた時は距離が遠すぎて使えなかった方法だがこの距離でなら問題ない。
「無駄だよ!」
バリア内の爆発が一瞬にして消える。
まるで最初から爆発なんて無かったかのように静けさだけが残った。
「なんだ、今のは……?」
「残念だけど僕に爆発は効かない。この体になって僕は爆発そのものを操れるようになったんだからね」
「……なるほど、一筋縄ではいかなそうだな」
奴に攻撃が全く通らなかった理由が分かった気がする。
今まで俺たちが行った攻撃は全て爆発を起こしていた。それがまともなダメージになる前に奴は爆発そのものを消していたってことか。
正直、厄介極まりない能力だ。敵対する上で無効化系が一番面倒くさいって。
「学園長、貴方は他の皆と一緒に避難してください」
「だがそれでは君が……生徒を残して私が逃げる訳にはいかない」
「お気持ちはわかりますが……薄々気付いているのではありませんか?」
「……」
俺がそう言うと学園長は少しの間黙ってしまった。
彼女自身ももうわかっているはずなのだ。自分では大豊には勝てないと。そして自身よりも俺の方が遥かに実力が上だと言うことに。
だがそうだとしても、学園長として生徒を残して逃げるなんて出来るはずが無い。
それはわかる。けど、正直な話……彼女がこの場にいない方が戦いやすいのは事実だった。
「……わかった。君を信じるとしよう」
「ありがとうございます」
「こうまでするんだ……絶対に、ぜーったいに負けるんじゃないぞ?」
「はい。もとより負ける気なんてありませんよ」
俺がそう言い終わると同時に学園長はアリーナの外へと飛んで行った。
「良いのかい? せっかく2対1だったのに数の有利を捨てるなんて、よっぽど死にたいんだね君は」
「なに、一人の方が戦いやすいだけだ」
「強がりもそれまでだよ。見たところ、君の魔法はそのほとんどが爆発を引き起こすものだ。一応それ以外も使えるようだけど、そもそも威力が足りないよ。僕のこの体には通用しない。だから君は僕には絶対に勝てない」
奴の言う事は一部正しかった。確かに俺が今まで行った攻撃はその全てが爆発を引き起こすものだ。
一応状況判断はしっかりしているようだな。それにそれら以外の魔法についてもいくつか知っているようだ。
けど、それらはあくまで俺の情報の一部に過ぎない。
「一つ勘違いをしているから教えてやるよ」
「なんだい? 今更ハッタリかな?」
奴は余裕を崩すことなく俺の言葉にそう返した。
……その余裕、俺が崩してやろう。
「俺が使う魔法は爆発魔法だけじゃないんだ。例えば……フォールオブフロスト」
「なに……?」
巨大な氷の塊を生成する中級魔法を発動させ、奴の頭上に氷塊を生み出した。
「どうなっている……お前は爆発属性と火属性の2属性使いじゃ……」
「だからそれが勘違いなんだよ。別に俺が使えるのはその2つだけじゃない」
「ふ、ふざけるな……3属性の使い手なんてそうそういるもんじゃない……! そうだ、きっと何かトリックがあるんだろう?」
目に見えて奴が焦り始めた。どうやら本当に俺の事を2属性使いだと思っていたようだ。
「じゃ、トリックかどうかその身で確かめてみな」
そう言い、奴の頭上に作り出した氷塊を落とす。
「ぐっ……エクスプロージョン!!」
氷塊がぶつかる寸前、奴は爆発魔法を発動させて氷塊を内側から爆発させて木っ端みじんにした。
「は、はは……どちらにしろ僕の爆発魔法の前にこの程度の魔法は無意味なんだよ……!」
「そうか。じゃあ次行こうか」
「なっ……!?」
間髪入れずに魔法を発動させる。
「マッドミサイル」
発動と共に俺の周囲の地面が砕け、土とコンクリの混じり合った棘が大量に作り出された。
「土属性まで……ありえない、絶対にありえない!!」
奴の表情がどんどん曇って行く。ああ、良いね。凄く良い。
勝ちを確信していた所から絶望に染まって行くサマを見るのはやっぱりそそるものがある。
さて、どこまで耐えられるか見せてもらおうか。