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23 対ドラゴン

 アリーナ内が絶望に包まれていく中、ドラゴンが再び攻撃の兆候を見せていた。


「不味い……防御魔法は剥がれたばかりだ。再展開にも時間がかかる……万事休すなのか?」


 学園長の焦りは本物だった。これまでのような飄々とした、どこか掴みどころのないそれでは無かった。

 それだけ非常事態と言うことなんだろう。


 こうなったらもう、やるしかないか……。


「悪いなリュウ、少し用事が出来ちまった」

「なっ、今この状況でか!?」

「ああ。けど大丈夫、このまま他の人と一緒に避難してくれ」

「……わかった。絶対に生きてまた会おうな」

「当たり前だ。それじゃ」


 そう言ってリュウと別れた後、アリーナの中心へと向かった。


「晴翔君……君も逃げた方が良い。もっとも、今から逃げてなんとかなるのかもわからないがな」

「いえ、その必要はありませんよ」


 体内の魔力を右手に集中させながら学園長の前へ出る。


「……それで、またハチャメチャに目立つことをしてしまうんですけど……もうこの際しょうがないですよね?」

「それは……いや良い。何か策があるのだろう? 責任なら私が取る。だから思い切りやってくれ」


 学園長の許しも得たので、いっちょ派手にやってしまうとしよう。

 ひとまずは奴の攻撃から皆を守る。こちらから仕掛けるのはそれからだ。


「マジックプロテクション」


 まずはマジックプロテクションをアリーナ全体に発動させ、皆を魔力による攻撃から防ぐ。

 先程の攻撃でわかったが、ドラゴンのブレスは半分くらいが魔力で構成されているようだからな。これだけでも威力を半減できる。


 さらに念には念を入れて、ブレス攻撃自体をかなり上空で爆発させるとするか。


「フレイムスピア……!」


 右手に集めた魔力を凝縮し、一本の炎の槍を作り出す。

 中級魔法とは言え、攻撃範囲を代償にしているからか射程と威力は上級魔法に匹敵する。コイツならあのドラゴンのブレスを射抜けるはずだ。


「……今だ!」


 ドラゴンがブレス攻撃を行ったと同時に上空へ向かって炎の槍を飛ばす。

 そしてそれは放たれたブレスに接触し、盛大に爆発させた。余波こそ地上に届いているものの、直接的な被害は無いだろう。


「……凄まじい威力だな」

「そうでしょう? 俺の本気の一撃ですからね」


 もちろん嘘だ。だがこう言っておけばこれ以上の詮索はされにくくなる……はず。


 っと、このまま悠長にしている場合じゃないな。

 このまま攻撃を許していたらこちらがジリ貧なのは変わらない。やっぱりドラゴンを直接叩かないと戦いは終わらないか。


「フレイムスピア!」


 もう一度フレイムスピアを発動させて炎の槍を作り出し、ドラゴンへと向けて跳ばす。

 ブレスの予備動作も無いし命中するはずだ。


「よし、やったか」


 予想通り炎の槍は奇麗に命中し、着弾すると共に派手な燃焼を引き起こした。

 いくらクソ強いドラゴンと言えどあれだけの熱量に晒されれば流石にダメージを負うはず……。


「あ、あれ……?」


 だが現実は違った。炎と煙が晴れた時、ドラゴンは結構ピンピンしていた。

 正直想定外だ。もう少しダメージが入るものだと思っていたが……。


「これほどの魔法でも駄目なのか……。はっ、ははっ……どうやら私たちは大きな勘違いをしていたようだな」

「が、学園長……?」


 突然学園長が笑い始めた。状況が状況だし、とうとう狂ったか?


「人間がどれだけ強力な魔法技術を持とうが、生物としての格が違い過ぎれば勝ち目が無い……。考えてみればわかることだった。だが……」


 そう言うと学園長は杖を握り直し、それをドラゴンに向けた。


「どうせなら最後まで足掻いてやろうじゃないか」


 どうやら戦意喪失という訳では無いようだ。とは言え、これは思った以上に厄介そうだぞ。

 威力だけで言えば上位魔法に匹敵するフレイムスピアが効かないとなるともう超級魔法しか……いやでも流石に威力がデカすぎて最悪他の場所に被害が出る。


 そもそもドラゴンに炎が効きずらいってだけかもしれない。アーステイルのゲームでもドラゴンは炎属性で設定されていた。

 この場合、水属性ダメージが上昇するんだったか……けどこれはあくまでゲームの設定だしな。この現実世界においてあのドラゴンにもその仕様が通用するとは到底思えない。


 と言うかあの高さを狙える高威力な魔法だと結局被害が拡大しそうで軽率に使えないし。

 ああ、向こうの世界って魔法を使いやすい環境だったんだな……。


 ……さて、困ったぞ。元はと言えば俺の使える魔法に「中威力以上、超高威力以下」のちょうど間が全く無いせいではあるんだけども。


「晴翔君、君に頼みがある」

「何でしょうか?」

「一つ試したいことがあるんだ。複合魔法と言うのだけどね」


 複合魔法……聞いたことの無い概念だった。

 恐らくアーステイルの世界には無く、この世界独自の概念なんだろう。


「これは魔法同士を組み合わせることで威力や射程を遥かに向上させることが可能になるという技術でね。私と晴翔君程の術者の魔法を組み合わせれば、それはもう相当な物になるはずだ」

「そんなものが……なら早速やりましょう!」


 そんな便利な物があるのなら最初から言ってくれって感じだが、まあそれが出来ない理由が何かしらあるってのがこの世界の常だしな。


「そうだな……だけど一つ、難点があるんだ」


 やっぱりあるのか……。


「この複合魔法は両者ともに膨大な魔力を消費する。失敗すれば暴走を引き起こし、誘爆するだろう。私と君の複合魔法ともなれば失敗時のリスクも大きい。だが成功すれば確実に……とは言えないが、あのドラゴンを葬ることができる可能性は高いはずだ」


 複合魔法か。威力上昇がどれくらいなのかにもよるが、今ここで提案してきたってことは少なくとも失敗さえしなければこの辺り一帯が吹き飛ぶなんてことは無さそうだ。


「わかりました。やりましょう」

「そう言うと思っていたよ」


 学園長は既に魔法発動の準備を進めていた。俺が乗って来るのは最初からわかっていたんだろうな。

 いや、どちらにせよ乗ってこなければ彼女一人でも攻撃を続ける気だったか。通用しなくとも最後まで足掻き続ける。それこそが人間の意地って奴なのか。

 ……正直向こうでの俺はあまりにも強すぎて忘れていた感覚な気がする。


「行くぞ晴翔君! レッド・エクスプロージョン!」

「ええ、やってやりましょう! フレイムスピア!」


 互いの発動した魔法が前方で混じり合っていく。俺と学園長の魔力が溶けあっていくのを感じる。


「ぐっ、凄まじい魔力だ……だが! 成功させて見せよう!」

「ッ!!」


 二人の魔力が一つになったと感じたその時、真っ赤だった炎の塊は青く変色し、凄まじい勢いでドラゴンの方へと飛んで行った。


「成功だ……!」


 これで終わる。

 そう思ったのもつかの間、俺たちが放った魔法はドラゴンに命中する直前で爆ぜたのだった。


「なん、だと……?」


 学園長の顔が青くなっていく。彼女程の人間であってもこれほどに想定外が続くとまともではいられないんだろう。


 しかし妙だ。何か不自然だった。

 ドラゴンはブレスを放った訳では無かった。それよりも何かをした素振りすら無かった。

 まるで無から爆発したかのような、そんな印象だった。


 ……これ以上あのドラゴンを放っておくのは危険な気がする。直感でしかないが、そう感じた。

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