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21 準決勝

 タイミングの関係か、幸い更衣室には誰もいなくて助かった。

 俺の裸を見られるのはまだいい。それ以上に他の女子生徒を万が一にも見てしまう訳にもいかないからな……。


「おお、戻ってきたのか」


 元の席に戻り、次の試合が始まるのを待つ。


「二回戦は一回戦以上に白熱した戦いになるだろうからな。楽しみだぜ」

「そうだな。リュウが言っていた有力選手も全員勝ち残っているんだろ?」


 最初にリュウが語っていた選手は全員何の問題も無く一回戦を勝ち進んでいた。

 そうでも無ければ期待される程の存在にはならないだろうし当然と言えば当然か。


 その後、何事も無く二回戦は始まり、気付けば俺の試合になった。

 のだが……。


『晴翔選手の対戦相手は棄権するとのことですので、不戦勝となります!』


 どうやら一回戦のさっきの試合で思ったよりもやり過ぎてしまったのか、対戦相手が勝負を降りたらしい。

 勝ったということには変わりは無いんだろうが、何かこう……違うよな。物足りないと言うかコレジャナイ感と言うか。


 そしてその後も面白いカードは無く、ついに準決勝にまでなってしまった。


「ついにこの時が来たんだ……最強と言っても良い先輩たちが戦う時が……!」


 リュウの息が荒くなっている。決して試合を見逃しはしないといった様子で前のめりになってアリーナの中心を見つめていた。


『とうとうやってまいりました準決勝! 剣術学校側は『音速』の名を持つ黛選手! 対して魔法学園側は『最高火力』、足立選手です!!』

「ウォォォ!! 足立先輩ィィ!!」


 足立の名が呼ばれた瞬間に魔法学園の男子生徒たちが叫び始めた。

 純粋な応援と言うよりかはこう……推しへのそれな風味だ。


「きゃあぁぁっ! 黛先輩ぃぃっっ!!」


 それに対し、剣術学校側の女子生徒も黛なる生徒が出てきた瞬間に黄色い声援を発し始めた。


 この二人……両学園のアイドル的な存在なのだろうか?


「久しぶりだね、黛。いきなりで悪いが、私が勝たせてもらうよ」

「それはオレのセリフですよ。あの時の借り、きっちりと返させていただきます」


 何かしらの因縁があるのか二人の間にはバッチバチの火花が散っているように感じた。もちろん実際には何も発せられてはいないが、それだけの圧が二人からは出ていた。


『それでは両者位置に付いて……始め!!』

「こちらか行くぞ! 一斉射撃……!!」


 試合開始と共に足立が速攻で攻撃を開始する。

 周囲を飛んでいる砲塔から強力な雷魔法が発動し、それが黛の元へと飛んで行く。


『おぉっ!! 試合開始間もなく、足立選手の魔法が黛選手に放たれました!』

「……ッ!」


 しかしその雷撃は黛に当たることは無かった。

 当然だが足立の狙いは正確だった。それに威力も凄まじい。これが今までの試合であったなら今の一撃でとっくに終わっているだろう。


 だがそうならない。それだけ準決勝はレベルが高かった。


「ふぅ……危ない、攻撃速度と精密性が前よりも遥かに高くなっているではありませんか」

「それはお互い様だろう? 黛の移動速度だって以前に見た時よりも遥かに向上している。少なくとも以前の君では今の攻撃を避けられなかったはずだよ」

「それはそうですね。……けど、今の攻撃で確信が持てましたよ。今のオレであれば足立、貴方に勝てると……!」


 今度は黛の方から仕掛けた。

 彼が地を蹴ったかと思えば、次の瞬間には足立の目の前にまで潜り込んでいた。


「甘いよ!」


 それを予期していたのか足立の周囲を浮かぶ砲塔が一斉に黛の方を向く。


「させません!」

 

 それに対抗するように黛はレイピアを使い、足立が攻撃をするよりも前に砲塔を斬り落としていく。


「速いッ!? だが!」


 いくら黛の移動速度と斬撃速度が凄まじく早かろうと、彼女の周りに浮かんでいる砲塔の数はかなり多い。

 当然全てを斬り落とすことは出来ずに反撃を受けてしまった。


「ぐっ……!」

『何と言う事でしょう! 閃光がとんでもないことになっており戦闘状況がわかりません! 黛選手の動きも速すぎて目で追う事も出来ません!』

「おい、ふざけんな! それでも実況か!?」

 

 足立が魔法を放つたびにとてつもない閃光が放たれる都合上、この試合は裸眼ではまともに見られたものでは無かった。

 それだけでは無く黛の速度もとんでもないことになっている関係上、まともに目で追える者も少ないだろう。


 もはやこの試合、まともに見ているのは俺と学園長辺りだけか……?


「ああ、なんも見えねえ! こんなに凄い試合なのに!」


 リュウも流石に見えていないようで滅茶苦茶に悔しそうにしていた。


「やるじゃないか……まさか私の砲塔をこんなにも削って来るとはね」

「ええ、そうでないと話になりませんから……しかし、これは思った以上に……」


 両者共に若干疲労の色が見え始めていた。

 足立の方はあれだけの攻撃をあの頻度で行っているからか魔力の消費量が凄まじいんだろうな。

 黛の方もあの速度を出し続けるのは体への負荷が大きいのか、かなり息があがっていた。このままだとダメージが蓄積するよりも先に体力切れを起こすだろう。


「オレもあなたも、仕掛けられるのはせいぜいあと一回程度でしょう……」

「そんなことは無い……と、言いたいところだけどね。やっぱりバレちゃうか」

「フッ、今度こそ勝てると思ったんですけどね」

「おいおい、まだ終わっていないと言うのに諦めるのかい?」


 そんな気は無いということがわかっているだろうに足立はあえてそう煽る。

 だがそれは決して黛の事をバカにしている訳では無かった。どちらかと言えば鼓舞するような、そんな雰囲気だ。


「ハッ、言われっぱなしも癪ですし……最後の一撃、見せて差し上げますよ」


 そう言うと黛は全身から強い魔力を発し始めた。純粋な身体能力自体もかなり高い彼だが、魔力を使ってさらなる強化を施すのだろう。

 だがそれは諸刃の剣。あまりにも高すぎる身体能力はその体が耐えられない。


「来い、黛! 私も今持てる全力で迎え撃とう!!」


 そんな黛に負けないくらいの強大な魔力が足立とその周りの砲塔から発せられた。

 一部の砲塔は既に半壊しているが、それでもあと一撃を放つくらいは出来そうな程の圧を放っていた。


『おや、あれは何でしょう……!?』


 そうして今にも二人の全力がぶつかりそうだというその時、突然実況の声がアリーナ内に響いた。

 明らかに二人の戦いとは関係の無いそれに会場内の生徒たちは皆困惑している。


「上だ! 上に何かいるぞ!」


 その時、誰かがそう叫んだ。

 するとその瞬間、皆が一斉に上を向きその正体を確かめようとしたのだった。


「……あれは、ドラゴンか?」


 あまりにも高くを飛んでいるからか全体像は良く見えない。

 だが大きな体に二つのこれまた巨大な羽……そのシルエットは向こうの世界で見慣れたそれと同じだった。

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