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18 流石に目立ちすぎたってこと

 あれだけの事があったからか、次の登校日に早速俺は学園長室へと呼び出された。

 まあ……そうもなるよな。


「それで晴翔君、何か言う事はあるかい?」

「……学園長も人が悪いですね。こうなってくると、もはや何を言っても悪手ですよね?」

「ははっ、それもそうだね。流石にあれは目立ちすぎだよ」


 ショッピングモールでの一件。魔導銃を使って殺傷事件を引き起こしていた逃亡犯に少女が捕まったかと思えばそのまま返り討ちにしてしまったんだ。

 誰がどう考えてもおかしいしあまりにも目立ちすぎるのは明らかだった。


「けど今回に関しては仕方のないことでもあったからね。むしろあの状況でよく被害を抑えられたものだ。君がいなければ確実にたくさんの人が殺されていただろうに」

「ではお咎めなしということで」

「待ちたまえよ。流石にそう言う訳にもいかないんだ。と言うのも、これだけ目立ってしまうと君の異常性に気が付く者も出てくるかもしれない」


 それは困る。そもそもそうならないためにもこの学園にいるようなものだ。

 だが現にネット上では俺の話題で持ち切り……今からどうこう出来る話なのか?


「そこで良い話があるんだが……もちろん君のためにもなるさ」

「……ひとまず話を聞きます。判断はそれからでもよろしいですね?」


 俺の返答を聞いた学園長はニッコリと笑みを浮かべる。普段のカリスマ溢れる雰囲気とは違う可愛らしい笑顔。

 ……だからこそ不穏だった。


 そしてその感覚は的中だったようだ。


「と、言う訳だからさ。今度行われる剣術学校との合同試合に参加してくれないかな?」


 学園長の言う良い話。それは合同試合において俺が強力な魔術師であると言う事を公にすると言う事だった。

 あまり目立ってはいけないと言う俺の扱いからは一見矛盾しているように思えるこの提案だが、彼女の言い分もそれなりに理解は出来る物だった。


「簡単な話だよ。既に出回ってしまった物を消すことは出来ない。けど、それを新しい形として上書きすることは出来る。要は合同試合に優秀な魔術師として参加し『異常な強さを持つ未知の少女』では無く『学園所属の優秀な魔術師』と言う形に上書きするっていうことさ」

「簡単に言いますけど、それって結局俺と言う異常な強さを持つ存在がいることに変わりは無いですよね?」


 学園長の言うこともわかる。少なくともSNS上での今の扱いからは大きく変わるだろう。

 だがそれは結局のところ異常な強さを持つ生徒が出来上がるだけだ。


「そこで我が学園のネームバリューを使う。東都魔法学園であればそれだけの生徒がいてもおかしくはない……世間的にはある程度これでなんとかなるものだよ。そのために君には試合中に使用する魔術を制限してもらうけどね」

「それなら確かに可能性はありますけども……」


 どちらにしろ突っぱねる訳にも行かないし、させてもくれないだろう。

 結局俺は彼女の提案を聞くしか無かった。

 

「そうそう、この話はあくまで君と私の間での秘密だからね。君が合同試合に出るなんてことが知られたら大事になりかねない。色々な意味でね」


 部屋を去る間際、学園長はそう言ってきた。

 元より漏らすつもりは無い。彼女の言う通り色々と面倒事になるのは確実だろうからな。


 ……そのはずだったのだが。


『速報! 剣術学校との合同試合にまさかの高等部1年が!?』


 どういう訳か数日後にはそう言った内容の学校新聞が張り出されていた。

 あれだけ言ってきたんだし学園長自らが情報を流した訳では無い……と思いたい。


「おいおい、この剣術学校ってあの超強豪校の東都剣術学校だよな? そことの合同試合で高等部が参加って……いや流石に無い無い。死ぬだろ普通に」

「だよなー? いくらなんでもこれはガセ」


 とは言え、聞こえてくる会話的には全くと言って良い程信じられていないようだ。

 それはそれで新聞としてどうなんだ……。


「何を言っているんですか君たちは!!」

「うわでた」

「我が新聞部の持つ諜報能力は世界一ィ……のはずなんですよ!」

「はいはい、いつも誤報をありがとさん」


 どうやら新聞部の部員に聞かれていたようだ。あの感じだといつも似たような感じの与太話を書いているのだろうか。


「あっそこの君!」


 っと、その本人に目を付けられてしまった。


「初等部の方ですか? ええと、勘違いしないでくださいね。この学園の新聞は面白いし、正! しい! んです!」


 すまん、もうその言葉を信じられそうにないんだ。

 

 ……だが今回に限っては高等部である俺が参加することはあっている。

 諜報能力がどうとか言っていたが本当に学園長との会話を聞かれていたとしたら少し不味いな。

 ……でもそれならその情報も載っているか?

 

「この際せっかくですし、あなたも新聞部に入部してみては……」

「いえ結構です」

「そんなぁ」


 食い気味で否定する。

 彼女の感じだとその新聞部ってのも碌でも無さそうな所かもしれない。憶測で物を言うのは良くないのかもしれないが、それは向こうも御相子かもしれないしな。


 結局その場から逃げるように立ち去ったことで事なきを得た。……得たんだよな?

 まあ得たと言う事にしよう。そうでないと困る。

 そしてその後は何事も無く授業を終えることが出来、無事に帰宅出来た。


 いや、嘘だ。学園にいた時は滅茶苦茶に視線を感じた。SNSで話題になっている少女と俺がそっくりだったんだからそうもなる。

 だから無理やり人を避けて帰って来た。


「ふぅ、色々とあって精神的に疲れたな」


 この体は肉体的な疲労を蓄積させない。だが精神的な疲労となると話は別だ。 

 これだけのことが立て続けに起こると流石に摩耗するってものだ。特に向こうにいた時とは全く違う方向でのすり減りだからな。全くと言って良い程に免疫が無い。


「晴翔様、ご報告があります」

「ああ、タナトスか」


 ベッドに倒れ込むのとほぼ同時に、タナトスがどこからともなく現れたのだった。


「おや晴翔様、随分と可愛らしいご恰好ではありませんか。天使すらも霞むようなその可憐なお姿……とてもお似合いです」

「何を言って……」


 疲れで上手く回らない頭をフル回転させて今の状況を整理した。

 帰って来たすぐに風呂に入って、その後エリンと買った寝間着を着てベッドにダイブ。そして今にいたる。


 ……待て、寝間着?


「ま、待て……これは違うんだ! これはエリンに買わされたもので……!」


 今俺が着ているのは女の子用のフワフワパジャマだった。間違いなく今までの俺が着るはずの無い物。 

 エリンに選んでもらったものだし、せっかくなら着ないと勿体ないと思っていた矢先にこれだ。あまりにもタイミングが最悪過ぎる。


「ご謙遜なさらずともよろしいのですよ? 晴翔様の可愛らしさは私が誰よりも存じあげておりますとも」

「そういうのをやめてくれって話なんだよぉぉっ」


 慣れたと思っていたが、まだまだ全然そんなことは無かったようだ。

 だがこのままではいけない。決して彼のペースに飲まれてはいけないんだ。


「……それで報告というのは?」

「おっと失礼いたしました。森の探索を行った結果、召喚魔法の残滓を確認いたしましたので報告を」

「召喚魔法か……」


 残滓だけだと状況証拠にしかならないが、もしかしたらあの強力な魔物たちは何者かによって召喚されたのかもしれないな。

 だがそれならどうしてハンター協会はそれを公表しない?


「ええ、私でもギリギリ感知出来るかどうかの所でしたので危うく見逃す所でした。どうやら相当腕の立つ魔術師が隠蔽を行ったようですね」


 それならハンター協会が気付かなかったと言う可能性も捨てきれないか。

 とは言え、当分はカンター協会も疑ってかかった方が良いだろうな。


「ありがとうタナトス。引き続き何かあったら報告してくれ」

「承りました、マイマスター」


 そう言うとタナトスは影の中へと沈んでいった。

 ……これ、気付かない内にアイツに覗かれてたりしないよな?

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