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14 髪型をチェンジ

 昨日は酷い目に遭った……という感覚だけが残っている。何故だか細かいことを覚えていない。

 どうやら心を無にすることで俺の意識は平静を保っているらしい。


 そんなこともあって桜によるHARU吸いには徐々に慣れつつあるのだが、それとはまた違う問題が俺の体に起こっていた。


「うわ、なんだこれ……」


 顔を洗おうと鏡の前に行くと、何と言えば良いのかわからない程に頭がとんでもないことになっていた。

 具体的には髪が爆発している。だがまあ、確かにこれだけ長い髪だとたまにはこうなるか。


「うーん?」


 しかし厄介なことに水で流そうが櫛で整えようが、何をしても戻らない。

 今まではこんなことにはならなかったはず。こっちの環境が影響しているんだろうか。

 

 ……とは言ってもこの状態で登校する訳にもいかないしな。

 毛量に関しては結べばどうにかなりそうだが、生憎とヘアゴムのようなものはこの部屋には無い。

 少なくとも元の俺は男なのだから当たり前と言えば当たり前だ。


 だがそうなると困るな。流石に輪ゴムで止めるのは駄目な気がする。

 男でもそれが髪に良くないことだってのは流石にわかるぞ。


「……あっ」


 そうだ、マップ機能が使えるんだからアイテムの取り出し機能だって使えるよな。


「よし、やっぱり使えた」


 マップを表示するのと同じように、アイテムウィンドウの表示も何の問題も無く可能だった。

 そうなればゲーム時代に入手したアバターアイテムでちょうどいいのがいくつかあるはずだから探してみるか。


「あったあった。こいつを……こうしてっと」


 ずっと使わずにアイテム倉庫の肥しになっていたアクセサリーを取り出す。俺の髪色とは正反対の黒色を基調としたシュシュだ。

 ガチャで出てきたものの、他のアバターアイテムとの相性が良くなかったからずっと使っていなかった。

 それを使って頭の後ろで髪を結んだ。


「うん、中々良いんじゃないか?」


 所謂ポニーテールというものだろう。普段の長髪を下ろしている状態とはまた違う雰囲気にはなったが、これはこれで悪くない。

 何しろ顔が良いからどんな髪型でも似合ってしまうのかもしれない。

 このままいくつかポーズでも決めたい所ではあるが、時間の余裕はそんなに無いからな。残念だが学園へ向かうとしよう。

 



「あれ? 晴翔、髪型変えたのね」

「ああ、なんだか今日は異常に髪がボサついてな……」


 今にも爆発しそうなくらいに広がっている毛先をエリンに見せる。

 最低限纏まってはいるものの、何か衝撃が加われば爆発しそうな程には毛先が暴れ狂っていた。


「あー確かに今日は特に魔力嵐が強いからね」


 それを見たエリンは魔力嵐なら仕方がないと言った風に納得していた。

 そう言えばこの世界には魔力嵐なるものがあるんだったな。内容としてはそのまま砂嵐とかにおける粒子が魔力に置き換わっているようなものだったか。

 朝のニュース番組にも魔力嵐予報なるものもあったような無かったような。


「きっと晴翔は保有してる魔力が多いから特に影響を受けちゃうのね」

「そういう物なのか?」

「ええ、私も昔はそれはそれは恐ろしいことになっていたわ。けど髪が纏ってる魔力を外に逃がす効果のあるトリートメントが発売されてからは大分マシになったわね。……もしかして晴翔、使ってないの?」


 俺の表情を見て何かを感じ取ったのかエリンは困惑しながらそう聞いてきた。

 彼女の言う通り、俺が普段使っているのは部屋にあったシャンプーだけだった。魔力嵐対策のトリートメントどころかそもそもトリートメントを使ってすらいない。


「……ああ、使ってない」

「驚いた……むしろそれで良くその髪を維持出来たわね。それなら今度一緒に買いに行きましょう? 晴翔に合いそうなのを選んであげるわ」

「助かるよ」


 俺としても魔力嵐が酷くなるたびに毎回こんなことになるのは避けたい。


「おはよう晴翔……って、お前その髪型……」

「リュウ、おはよう。俺の髪型がどうかしたのか?」


 席へとやってきたリュウはどこか様子がおかしかった。

 何と言うか、視線が行ったり来たりしている。


「いや、普段と大分イメージが違うから驚いちまってな」

「そうか。確かに普段は下ろしているからな」


 リュウにそう言いながら、後ろにまとめている部分を前へと持ってくる。

 思えばこうして自分の髪をまじまじと見るのも久しぶりな気がするな。毛先こそその魔力嵐とやらでボサ付いているものの、髪自体はサラサラでかなり触り心地が良い。


「んなっ……!?」

「ん……? どうしたんだ?」

「いや、何でもない。何でもないんだ」


 一瞬、リュウの視線が俺の首筋に向かっていた気がする。

 何だろうか、何か付いているのか?

 

 ……いや、違う。

 妙にぎこちないリュウの反応。そして規則性の無い視線。

 そうだ。思えばクラスに入った瞬間から妙な違和感は始まっていた。やたらと視線を感じたのは今覚えば俺のこの姿に……。


「晴翔……?」

「な、なんだ……!?」


 リュウの声にふと我に返る。

 そして周りを意識してしまったせいで、より一層視線が気になり始めてしまった。

 普段の下ろしている髪型では見られることのない俺の首筋やうなじは今、何の隔たりも無く露出されている。

 その事実に気付いてから妙な恥ずかしさがやってきてしまった。


「ねえ晴翔……? その、それって意識してやっているの?」

「意識ってなんだよ……?」


 いやわかっている。俺の一連の流れがあまりにもあざとすぎる行為だと言うことは俺自身が何よりもわかっている。

 だがすまない。これは素だ。何故か。俺が男だからだ。未だに女の子として見られることへの完全な耐性を得ている訳じゃあないんだ。

 英雄の少女として祀り上げられるのと純粋な女の子として見られるのはこう……決定的に何かが違うんだ。


「はぁぁ……これはとんでもないわね。でも晴翔のそう言う所も私は好きよ。可愛いし」

「ま、待ってくれ俺はそう言うつもりでは」

「あなたがそのつもりじゃなくともねぇ……」


 エリンはねっとりとした視線で俺の全身を見てくる。


「このまえの陽ちゃんとのこともあって、改めて晴翔のことを見てみると……随分と人間離れした可愛さなのよね。それこそ作り物みたいな」


 この姿がアバターキャラであることにエリンは感づいているのか……?

 いや、流石にそれは無い。いくら容姿が整っていたとしても、その人体が作り物だなんて普通は信じないだろう。


「こんなにも可愛い子が可愛いことをしていたら、流石に周りも無視できないってものよ」

「……そうか。そうなんだな」


 そうだ……彼女の言う通りだ。力だけじゃない。こっちではこの姿自体が目立ってしまうんだ。 

 考えてみればその通りか。俺が寝る間も惜しんで作り上げた最高に可愛いアバターキャラなんだからそりゃ可愛いに決まっている。

 だがそのせいで今こうして俺は……!

 深夜テンションのままノリノリでキャラクリをしていたあの頃の俺を全力でぶん殴ってやりたいところだ。


 その後、男女問わずクラス中の視線が俺に向いたかという所で始業のチャイムが鳴り、そのまま一限の授業が始まったのだった。

 全員どこか身が入っていないような気がしたが、きっと気のせいでは無いだろう。

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