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11 魔物ハンター

 ああ、酷い目に遭った。

 確かにこっちに来てからはそれなりに時間が経っていたが、まさかその間に桜があんなことになっていたとは。

 

「どうしたんだ晴翔、なんかえらく疲れているみたいだけど」

「あ、ああ……ちょっと……な」


 リュウは心配そうに俺の顔を見てくる。

 とは言え流石に桜のこともリュウに言う訳にはいかないからな。適当に濁すことしか出来ないか。


「ならまあ、良いんだけどよ」


 そう言うとリュウは自らの席に座った。

 あの時以来距離を感じていたリュウだが、時間が経ったことで少しはマシになっていた。

 もっとも最初のような男友達のような距離感では無くなってしまっていたが。


「けど調子が悪いんなら早めに保健室に行っておいた方が良いんじゃないか? 今日は確か外部から現役の魔物ハンターが来て対魔物戦術の授業をしてくれるんだったろ」

「……そうだったな」


 数日前からクラスが沸き立っているのは感じていた。

 リュウの言うように外部から魔物ハンターがやって来て授業をしてくれるというのだから、当然と言えば当然だろう。

 感覚としてはプロのスポーツ選手とかが直々に授業をしてくれるのと似たような感じなのかもしれない。


 だが、俺は知りたくない事実を知ってしまったからな。

 恐らく今日やってくる魔物ハンターの中に……桜もいる。彼女の言っていた魔法学園の授業の手伝いというのは恐らく今日の事なんだろう。


 だからこそ憂鬱だった。

 彼女の事だ。下手をしたら人目を避けてHARU成分なるものの吸収を行う可能性がある。

 あれ自体ヤバイ代物なのに、それを万が一にでも人に見られでもしたらもう終わりだ。


 しかし無情にも時間は過ぎ、とうとうその時は来てしまった。


「先日から言っていたと思うが、今日は魔物ハンターと共に対魔物戦術の授業を行う。実際に魔物の出る森へと行くわけだから各々覚悟して臨むように」


 こうして退魔物戦術の授業の時間が始まった。

 具体的な内容としては、実際に野生の魔物が出る森へと遠征しそこで戦い方を学ぶということだ。

 ダンジョン演習と違いこちらは魔物と戦うことがメインの授業であるため、より危険と言えるだろうな。


 もっともそれを始めて知った時は不思議に思ったもんだ。果たしてそんな危険な森がそこら中にあるのだろうかと、あの時の俺は疑問を抱いていた。

 だが色々と調べた結果驚くべき事実が判明したんだよな。


 この世界、元の世界に似てはいるものの細かい所が違うらしいからな。その最たる例として、そこら中に元の世界では見たことの無い森や渓谷が生まれているというのがあった。 

 そこには大量の野生の魔物がいて、定期的に人の住むエリアにやってきては人を襲っていくと言う。

 

 だからこそ魔物ハンターやハンター協会という物があるんだろうな。

 で、魔法学園や剣術学校にもその技術を伝えて後進の育成をしていると。

 事実、魔物ハンターはその危険性があるからか実入りは良いらしい。そうでもないとわざわざやらないだろうけどもね。


「学園の皆さんは私から離れないでくださいね」


 と、そこでもはや聞きなじみのありすぎる声が辺りに響く。

 声のした方向を見るとそこには桜がいた。気づかれないように出来るだけ後ろに回るか……。


 見れば桜はアーマーナイトの保有スキルであるバリアフィールドを発動させていた。

 このスキルはパーティ全員を余裕で覆える程の大きな防御バリアを張るスキルだったはずだ。確かにこれがあれば後衛が安全に活動出来るって訳だな。

 恐らく協会としては前衛で戦って欲しかったのだろうが、流石にそれは桜自身が断ったのだろう。


「な、なあ晴翔……なんか凄い魔力を感じるんだけど大丈夫なのか?」

「ん? あぁ、これは桜が発動させているスキルだから問題ないよ」

「スキル……? それに桜って誰なんだ?」


 ……しまった。

 つい流れでそのまま言ってしまった。


「いや、まあ……その、あれだよあれ」


 駄目だ、こんなので話を反らせるはずが無い。


「あぁ……色々とあるってことだな。流石にもう慣れたぜ」

「……本当にありがとう、リュウ」

 

 幸いにもリュウは深堀りしないでくれた。

 属性適性の時と言いダンジョン演習の時といい、流石に色々とありすぎて慣れてくれたのかもしれないな。


 その後は道中で魔物に襲われることも無く、無事に演習予定地へとたどり着いた。


「この辺りには強い魔物はいない。だがそれでも危険なことに変わりは無いため注意するように……おっと、早速おでましのようだな」


 前衛で戦うと思われる巨大な大剣を担いだ男は何かに気付いたのか剣を抜いて辺りを見回し始めた。


「な、何……?」

「もしかして魔物か……?」


 その様子を見た他の学生たちも各々の武器を抜いて辺りを警戒し始めた。

 東都魔法学園には優秀な者が集まると言うだけあって、こういう時の反応も行動もかなり落ち着いている。

 下手をしたら向こうで出会った新人冒険者なんかよりも全然場慣れしているのかもしれないな。


 俺も一応どの方向にも攻撃できるようにはしておくか。

 

「……来たぞ!!」


 男の声と共に数体の魔物が森の奥から走って来るのが見えた。

 しかしそのどれもがアーステイルでは見たことの無いものだった。

 やはりこっちの世界だともうアーステイルのモンスターの知識は使えないのかもしれない。


「アツシはそっちのを頼んだぞ!」

「おう! エミはバックアップをよろしく頼む!」

「わかったわ!」


 前衛の二人が前へ出ると共に、魔法使いと思われる女性が杖を魔物に向けて待機していた。

 

「フンッ!!」


 男が体重を乗せて大剣を振り下ろす。そしていとも容易く目の前の魔物を斬り裂いたのだった。

 あの一切の余計な物を感じさせない洗練された動きからして、彼はかなりの経験者と見えるな。


 もちろん武器の性能も良いんだろう。

 前衛の二人が使っている武器からは魔力を感じるし、何かしらの加工でも施されているんだろうか。


 その後も凄腕と思われる魔物ハンターである彼らによって良い感じに魔物たちは討伐されていった。


「と、まあこんな感じで戦うことになるが……」


 大剣使いの男は簡単にそう言うが、それは酷なものだろう。

 実際、ほとんどの学生はポカンとしている。今回の戦いの全てを目で追えた者など、きっとほんの少ししかいないだろうな。


「す、すげえな……あっという間に全部片づけちまった……。特にあの大剣使いの人なんかヤバいぞ……!」


 そしてリュウはその少しの内の一人だったようだ。

 彼からは時々勘の鋭さのようなものも感じていたが、恐らく能力の高さに起因するものと考えていいだろう。

 どうしよう、今後ボロを出したら取り返しがつかない所まで踏み込まれてしまうかもしれない。


「お、俺たちに出来るのか……? あれが……?」


 ただ大半の学生はそんな反応になっていた。

 

「別に今すぐにこれを目指せとは言わないよ。俺たちだって最初からこうだった訳では無いからな。少しずつ経験を積んで、強くなり続ければ良いんだ」


 と、もう一人の男がフォローするようにそう言った。

 それを聞いて他の学生たちも良い感じにやる気を刺激されたようだった。


「さて、それじゃあここに簡易キャンプを設営して本格的に特訓といこうじゃないか」


 こうして学生を交えた対魔物戦術の授業が本格的に始まった。

 とは言っても魔物が現れるまでは特にやることも無いため、しばらくは現役の魔物ハンターに色々と質問をする時間となっていた。


 魔物との距離の詰め方や逆に距離の取り方。魔物の探知方法に現地で集められる薬草についてや魔法の効率的な使い方など、魔物との戦いに必要な色々な情報を聞き取っていた。


 と、そうして和気あいあいとしていた時だった。遥か遠くの方に異常な大きさの魔力を感じた。


「……!」

「晴翔、どうかしたのか……? いや、何かあったんだな?」

「……ああ、そうだな。リュウは桜……あの鎧を着ている女性の所に皆を集めてくれ」


 リュウにそう伝えると、彼はすぐに皆を集めて桜の元へと移動した。

 それとほぼ同時に魔物ハンターたちもこの異常な魔力に気付いたようだった。


「なんだ……この気配は……!?」

「こんなの初めて……一体どんな魔物なの……?」

「けどこの辺りにこんなに強いのがいるって話は聞いたことが無いし、事前に確認した時だってそんな反応は無かったはずだ……!」


 どうやら彼ら程の実力者でもこの大きさの魔力を持つ魔物にそうそう出会うことは無いらしい。

 はあ、よりにもよって遠征中になんでこんなことに……。俺が向こうに飛んで行けばすぐに解決だろうが……そう言う訳にも行かないよな流石に。


「……こっちに近づいているのか。お前ら、戦闘の準備をしろ! 」


 このままどこかへ去ってくれれば良かったが、どうやら戦闘は免れないようだった。

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