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9 葛城晴翔は男なのか

 ダンジョン演習での出来事から数日が経ったが、校内はもちろん校外でも奴やその一派が手を出してくることは無かった。

 まあ何も無いなら無いで平和で良いんだけども。


 さて、学園にも慣れてきたしこの世界についても色々とわかってきた所だ。そろそろ陽と桜、それにアルスを探さないとな。

 ……とは言っても手がかりなんてものは全くない訳だが。


 流石にあの時住所とかを聞く訳にはいかなかったけど、名前だけじゃ中々無理があるんじゃないか?

 そもそもこの世界が元の世界とは違う物になっている以上、彼女たちだって元のままとは限らないんだ。

 名前さえ違うものになっていたらもうどうしようもない。


「どうした晴翔、何か考え事か?」

「いや、何でもない」

「そうか……その、それなら良いんだ」


 リュウの様子が少しおかしかった。思えばダンジョン演習の日以降、俺との距離を感じるような気がする。

 何だ、何かしてしまったか。いや何かしてしまったかと言えば思い切りしまくっているんだがな。あんなことがあって今まで通り接することも難しいのかもしれない。


「晴翔おはよう!」


 ……いや、そんなことも無いのかもしれないな。

 少なくともエリンはこれまでと変わらない様子だった。逆にあれだけの事があったんだからもう少しこう、何と言うかさ。あっても良いんじゃないか?


 まあそれはエリンが異端だということにして、問題はリュウの方だ。

 このままだと不味い気がする。あんなことに巻き込んでおいてあれだが、このクラスで……いやなんならこの世界において数少ない友人なんだ。

 ましてやこの世界における一般的な感覚を持ちうる人物であることに間違いはない。関係が悪化するのは控えたい所だ。


 こうなったらこちらから仕掛けてやる。この際、気になることがあるのなら全部ぶちまけてもらおう。


「リュウこそ少し変じゃないか? もしかしてあの時にアイツに何かされたんじゃ?」

「いや、そんなことは無い。無いんだが、その……な」

「どうかしたの?」

「……そっか、エリンは転入してきたからわからないのか」


 ……リュウのその言葉には妙な含みがあった。

 まるで以前の俺を知る者にしかわからないことがあると言ったように。


「そうね。私が晴翔にあったのは転入した初日だから……あれ? そう言えばあの時、晴翔は男用の制服を着ていたような……」

「それだ。それなんだよ」

「……?」


 エリンはリュウの言っている意味がわからないようで首を傾げていた。


「男……なんだよ。晴翔は」

「……リュウ、何を言っているの?」


 何を言っているんだと言った表情でそう返すエリン。実際その通りだろう。今の俺は誰がどう見ても女の子なんだから。

 もっとも中身は男のそれだけども。


「いや、確かにそうなんけどさ。こう……以前までの晴翔は確かに男だったんだよ」

「お前もそう思うか?」


 リュウの後ろから近付いてきた一人の男子がそう言う。どうやらリュウが急におかしくなった訳では無いらしい。

 少なくともこのクラスの人間なら全員がそう思っていてもおかしくは無い状態のようだ。


「盗み聞きしたようでごめん。でも俺もずっと気になっていてさ」

「やっぱりそうだよな? あの時ダンジョンで晴翔に守られている時に体に触れてさ。その、完全に女の子のそれだったんだよ」


 多分マジックプロテクションの時だな。あの時は何があっても二人を守るために無理やり引っ張ったから、その時に接触して違和感に気付いたってことか。


「けど、俺たちの記憶では晴翔は男のはずだ。実際、保健体育や水泳では一緒に授業を受けていた気がする」

「そうだ。そうなんだよ。けど、その時の晴翔の姿が思い出せないんだ。それによく考えたら名前だって男の名前じゃないか」


 どうする……?

 俺が実は中身が男であると言う話をしてしまって良いのだろうか。けどその場合は原因となる異世界召喚に付いても話さないといけなくなる。

 信じてもらえるかは別の問題だが、あまり多くの人に話して良い物とも思えない。


 となればここは俺は一人称が『俺』で男っぽい性格なだけの女の子ということにしておいた方が良い。


「けど俺はこんな可愛い女の子なんだぜ? ただの記憶違いじゃないか?」

「可愛い……そうだな。そうだよな」

「確かに可愛いのはそうだけど、なんかこう頭の奥がモヤモヤするような……」


 二人の視線が泳ぐ。なんだ、俺今変な事でも言って……あ。

 しまったつい余計な事を言ってしまった。

 向こうでは白姫として可愛いとか美しいとか可憐とかなんかそう言う言葉を言われまくっていたからつい癖で。


 ……いや、クソ恥ずかしいな?

 不味い、顔が熱い。頬が赤くなっているのが自分でもわかるぞ。

 なんなら慣れていたはずのこの服装についてもぶり返してきた。椅子に座っているとスカートの中が滅茶苦茶スースーして不安になる。

 大丈夫だ俺、気にするな。今足をモジモジさせようものならより面倒なことになる。耐えろ。


「なに、晴翔。自分で可愛いって言って照れちゃってるの? 流石にあざといにも程があるわよ? ……いやまあ、可愛いのは認めるけど」

「ああ、待ってくれ晴翔! 意識した瞬間に急になんか……!」

 

 リュウの顔も赤くなっていく。

 何この状況……?

 いや俺のせいだけどさ。


「え、じゃあ俺こんな可愛い子の体に触れてたってことか!? おい、これは許されねえよ!」

「ま、待てリュウ。俺は気にしてないから……」

「お前が気にしなくても俺が気にするっつーの!!」


 そう言うとリュウは走って教室を出て行ってしまった。


「……どうしろってんだ」


 結果として、俺のことが男として記憶されているとかなんとかの話はうやむやになった。

 それで良かったはずなんだが、しばらくの間リュウとの距離が遠いままになってしまったのは悔やまれる。


 その後、何事も無い日常が続いて数日が経った頃だろうか。

 俺は再び学園長に呼び出されていた。


「ここに来てもらったのは他でも無い。あの時のダンジョンでの出来事について聞きたいことがあってね」

「ですよね」


 やはりこうなるか。薄々そうなるだろうとは思っていたが。


「君たちから聞いたことを魔法省に記録されている情報と照らし合わせてみて、少し気になることがあったんだ。まず君は彼の爆発魔法をマジックプロテクションなる魔法で防いだ。それは確かかい?」


 これに関してはもう言ってしまったことだから、今さら否定したらかえって怪しまれるだろう。


「はい、間違いないです」

「そうか……実はね、世間一般的には公開されていない情報として『白姫伝承』なるものがあるんだ」

「し、白姫伝承……ですか」


 どういうことだ?

 どうしてこっちの世界にまで白姫に関する事が……いやまだわからない。同じ名前の別人だったりするのかもしれない。


「この伝承について細かくは言えないが『魔法を無効化する魔法』が存在しているんだ。もっとも私たち国家魔術師が数人がかりで再現しようしても出来なかったから、実在しているのかどうかは怪しまれているがね」


 魔法を無効化する魔法……か。間違いなく向こうで使ったマジックプロテクションの事が伝わってるってことだよな。

 けど、白姫伝承について詳しくわからない以上は何とも言えないな。


「偶然にも君が使った魔法と瓜二つな訳だが、何か関係があったりするかな?」

「……いえ、俺にはわからないですね」

「ふむ、そうか。ただまあ白姫伝承についてはまだわかっていないことが多い。君と直接的に関係があるとも言い切れないのも確かだ。これに関してはさらなる調査が必要になるな。その時はまた君にも協力を頼むことになるだろう」


 結局、核心的なことは言われなかった。だが少なくとも俺と伝承との関係が怪しまれていると言うことには変わらないだろうな。

 それにただでさえ俺は一度生き返ったというとんでもない要素を抱えている。人知を超えた存在だと思われても仕方がない所ではあるんだよな……。

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