5 厄介な事に巻き込まれた
「それはつまり、俺を退学させるということですか?」
「そういうことになるね。残念だけど」
目の前の男は何の感情も見せず、怖いくらいに淡々と話し続ける。
アーステイルの冒険者ギルドでくってかかってきた奴らの方がよっぽ人間らしさを感じるな。
「理由をお聞きしても?」
「簡単な話だよ。この学園に僕以外に爆発属性持ちはいらない。それだけさ」
なるほどそういうことか。要は出る杭はあらかじめ打っておくとかそう言う話ね。
だが生憎とこちらもそう簡単に学園を離れる訳にもいかない。まだまだこの変わってしまった世界について知りたいことだらけなんでね。
「わかりました。ではお断りします」
「おいてめえ! 断れる立場だと思ってやがんのか!?」
「誰が口を開いて良いと言った」
「ぅ゛っ……す、すまねえ……」
一瞬、ほんの一瞬だけ男の周りの空気が重くなった。
それのせいか今にも殴り掛かって来そうだった男は今にも死にそうな程にガクガクと震えながら後ろへと戻って行く。
「連れがすまないね。けど、君の存在は僕にとって邪魔なんだ。君に退学の意思がないのなら少し痛い目を見るかもしれないけど大丈夫、殺しはしないよ」
それだけ言い残して男とその取り巻きは離れて行った。
その後、そのまま昼飯を食べ続けていたらリュウがやってきた。
「な、なあ大丈夫か……?」
「大丈夫って?」
「さっき大豊先輩に絡まれてただろ?」
ああさっきのあの男か。大豊って言うんだな。
「爆発属性がどうとか言っていたよ」
「大豊先輩はこの学園唯一の爆発属性持ちだからな。きっとさっきの晴翔の魔法を見て、将来的に邪魔になりそうだからって今の内に潰そうとしてるのかも」
「ああ、そんな感じの事を言っていた。この学園から消えてもらうとか」
「そんな……」
リュウは心底気の毒そうに俺の事を見てくる。
なるほど、あの大豊とかいう男の子の学園内での扱いが何となくわかってきたな。
「大丈夫、俺は退学するつもりは無い」
「晴翔がそうでもアイツはやると決めたことは絶対にやるんだよ。それこそどんな手を使ってでもね」
どんな手を使っても……か。そうだろうな。
大豊と言う名を聞いた時に覚えがあると思ったが、この東都魔法学園に多額の出資をしている大企業が確か大豊商事だった。
となれば彼はきっとそこの息子とかなのだろう。
だからその力を使って色々としてやる気なんだろうな。証拠とかも全部もみ消してくると思って良さそうだ。
上等だ。そう簡単には俺はやれないということを思い知らせてやろう……と思ったけどそう言えば目立つなって言われてるんだった。
目立つ爆発を引き起こして、そのせいでまた目立つことをすることになるのか……。流石になんか言われそうだ。
まあ、とにかくしばらくの間は気を付けた方が良いな。いつどこで仕掛けてくるかもわからないし。
「ちょっと、なんなの!?」
突然、聞き覚えのある声が食道に響いた。
「あれって、エリンじゃないか? それと……嘘だろ大豊先輩だ」
リュウの見ている先、そこにはエリンと大豊の一派がいた。
「マジかよ、たった一日で二人も目を付けられちまうなんて……」
「ちょっと行って来る」
「え、晴翔!?」
リュウが止めようとするが、流石にこのまま彼女を放置する訳にもいかないだろう。
「君の能力なら間違いなく僕と吊りあう。僕と来い。その方が絶対に君のためにもなるはずだ」
「だから私は興味ないから!」
「エリン、どうしたんだ?」
「あれ、晴翔? えっとね、この人……大豊先輩がずっとしつこく追って来るのよ」
今ちらっと聞こえた感じだと結構ヤバそうな執着な気はするが……エリンの方はただただしつこいだけだと思っているようだな。
「おや、君たち知り合いだったんだね。まあそれは良いさ。彼女の能力は目を見張るべきものがあるんだ。僕と一緒にいた方が確実に彼女のためになる。君もそう思うだろう?」
「だから私のためって何よ。私の意思は関係無いの? 外でも噂になってるのよ。大豊商事の息子が色んな女の子を集めては駄目にしてるって」
「何だって……?」
大豊は取り巻きの方を見る。
……ここからでもわかる。その視線は意思が弱い者であれば見られるだけで呼吸困難になってしまう程の圧があった。
「い、いや俺らはしっかり後始末やってますぜ……!」
「それを今ここで言ってはいけないことくらい、わかるよな?」
「ひぃっ!?」
あまりにも取り巻きの知能が……自ら墓穴を掘っていることにも気づかないのか。
優秀な人間を集めていると言う訳じゃなく、あくまで恐怖とか権力とかそう言ったもので有象無象を支配しているだけか。
「はぁ……どうやら一筋縄ではいかないようだね。けど君たち、今日の事は絶対後悔することになるよ」
「もし彼女に何かした時には、俺も黙っていませんよ」
「……君こそどうなっても知らないよ」
そんなあまりにも捨て台詞過ぎるものを残して大豊たちは去って行った。
「一体なんだったのよ……」
「何というか、随分と勇気があるよねエリンは」
俺も今の圧倒的な能力が無かったらへりくだるしか無かっただろう。それくらいの圧をあの男は放っている。
恐らく魔術師としての能力もかなり高いんだろう。ただの親の七光りと言う訳では無さそうだ。
それを最初から突っぱねるなんて並大抵な精神力じゃ出来ない。
「大丈夫か?」
それから少ししてリュウがやってきた。見たところ大豊一派がここから離れたのを確認してから近づいてきていた。だいぶ用心しているようだ。
うん、薄々思っていたけどもリュウのこの行動の方が恐らく正しいんだろうな。
「ああ、今は特に何もされていないよ」
「今は……?」
「あの感じだと間違いなく今後、何かして来るだろうな」
どちらにしろ俺自身既に目を付けられていたんだ。そこに彼女が追加されたくらいで何も問題は無い。
「エリン、これからしばらくは一緒に帰ろうか。あの辺りで迷子になってたってことは家も近そうだし」
「え、どうして?」
「……このまま彼が手を引くとは思えないからね。用心しておくに越したことはないよ」
訂正、勇気があるのでは無くただ単に無鉄砲なだけかもしれない。
まあそう言う事もあり、しばらくの間彼女と共に下校することになったのだが……そこで驚いたのが彼女が住んでいるのが俺と同じマンションであるということだった。
「まさか同じマンションだったとは」
「なんだか凄い偶然ね」
「でもこれなら君を安全に送り届けられるよ」
これで少なくとも登下校中なら彼女が狙われても守ることができる。
「それじゃあまた明日」
「またね晴翔」
……さて、とりあえずこれでエリンは安心だろう。一応兄と二人暮らししているらしいし、よっぽどの事でも無ければ簡単には手出しできないはず。
ということで、後始末と行くか。
「なあ、いるんだろ?」
マンションから出て気配の元に近寄りながらそう言う。
「……気付いていたのか。それならどうして出てきたんだ? マンションの中にいれば警備システムだってあったろうに」
すると怪しげな男が出てきた。十中八九、大豊の回し者だろうな。
「簡単な話だよ。俺に喧嘩売ったことの意味を教えようと思ってね」
「はぁ? お前みたいな小さいのがどうやってオレに勝とうってんだ。どうせ爆発も何か細工したんだろ?」
相変わらずこの見た目は舐められるな。けどそのおかげで初手は油断してくれる。
「なら試してみるか?」
「良いだろう。オレの魔法は」
「ライトニングスラッシュ」
「……は?」
男が魔法を放つ前に先制してライトニングスラッシュを撃ち込んだ。
「ぐぁっぁあっぁ!? な、なんなんだその魔法……!? そんな属性、見たことも聞いたこともねえぞ!」
しまった、下級魔法なら大丈夫だと思ったけどそもそも光属性自体が珍しいのか。
まあでもそれならそれでこのまま生かして返して、俺に手を出すことの危険性を流布してもらうか。
「まだ、やるか?」
「……ぅぁあっぁ!!」
少し殺意を込めた目で見ると男は速攻で逃げて行った。上手くいけばこれでしばらくはそう簡単に襲ってこなくなるはずだ。