4 もはやお約束
グラウンドに行くと、そこには何やら鎧のような物がおいてあった。
その少し後に授業の開始を示すチャイムが鳴り、精霊騒ぎがあったものの時間通り授業は始まったのだった。
「今回は前回に引き続き属性魔法の適性について学んでいくぞ。基本的に属性魔法はそれぞれが得意とする1属性しか使えない。だが、当然だが例外はある……。佐藤、やってみてくれ」
「はい」
佐藤と呼ばれた生徒は前に出て来て鎧に向かって手をかざした。
「ファイアーボール! アイシクルボール!」
彼がそう言うとそれぞれの手の平から炎の球と氷の球が射出された。
ファイアーボールはアーステイルにあったがアイシクルボールという魔法は知らない。恐らくこの世界の魔法はアーステイルとは無関係なんだろう。
現に向こうの世界のような詠唱を無しに魔法を使っている。向こうの世界とは魔法の仕組み自体が違うのかもしれないな。
……となると俺の魔法ってこの世界だと異質なんじゃ。
「やっぱ何回見ても2属性の同時撃ちってすげえな。俺じゃ絶対出来ないぜ。ピアノとかも両手で弾ける人って凄いよな」
それ同じようなものとして扱って良いものなのか……?
「と、このように例外的に2つ以上の属性の適性を持つ者が稀に存在する。国家魔術師になるための最低条件が『適性属性が2つ以上』であるため、どれだけ狭き門なのかがわかるな。その点、佐藤は最低条件を既に突破していると言っても良い。もし目指すんだったら学園が全力で応援するからな。頑張れよ!」
「はい!」
なるほど、2属性以上の適性があるだけでもかなり魔術師としての道が広がるのか。
となると俺は……どうしたもんか。流石にアーステイルにおける全属性使えます……は不味いよな。
「ではそれぞれ特訓に移れ」
教師のその言葉を聞いた生徒がそれぞれ魔導鎧の元へと向かう。
そんな中、リュウが俺の元へとやってきた。
「なあ、そういえば晴翔の適性って何だったっけ? なんか思い出せないんだけど……」
「それについては私も同意だ」
気付けば教師もすぐそばにいた。
「どういう訳か葛城の記録には適性属性に関しての情報が残っていないんだ」
「それってどういう……」
「わからない。だがこの際だ。葛城の適性属性を確認しておこう」
おっと不味い流れだ。ここで調子に乗って能力発揮なんてしてしまったらもう平穏な学生生活なんてものは全てパアになってしまう。
とは言え、この状況で嫌ですとは言えないからな。そのままの流れでなし崩し的に適性を確認することになってしまった。
さあて、どうするか。
さっきの佐藤の放った魔法の威力を基準にするのなら中級魔法は絶対に不味い。
最低限、下級魔法じゃないと威力が出過ぎる。問題は俺の能力だと下級魔法でも威力が出過ぎてしまうことなんだよな……。
とは言えやるしかない。
「……ファイアーボール」
魔法を発動させた瞬間、手のひらから撃ちだされた火球が鎧に着弾し……小規模ながら爆発を引き起こした。
「なんだ……これは?」
極力、威力は抑えようとした。したんだよ。けど駄目だった。
「この威力……もしやエクスプロージョンか。だがファイアーボールと言っていたし、爆発魔法にしては魔力の残滓が少なすぎる……」
色々と考えている所申し訳ない。これ、下級の火球魔法なんだ。
「……葛城、もしや君の適性は爆発属性なのか?」
……これはどっちだ。素直に火属性魔法だと言った方が良いのか、その爆発属性とかいう物にしておいた方が良いのか。
いやでもこの感じだと爆発属性ってそれそのものが凄い珍しいみたいな雰囲気を感じる。となるとその適性持ちは目立ちすぎるか。
ここは正直にファイアーボールだと言おう。
「いえ、今のは炎魔法のファイアーボールです」
「そうか……いや、中々に凄まじいな。ありがとう、授業に戻ってくれ」
そう言うと教師は校舎の方へと向かっていく。
「なんか、とにかく凄かったな今の。晴翔ってそんなに凄い魔法使えたんだな。知らなかったぜ……」
近くで見ていたリュウは半分呆然としたような状態でそう話す。
不味いな。これは不味い。この世界基準だとあの威力でも相当ヤバいのか。
向こうの世界でずっとドラゴンとか狩ってたから感覚が麻痺していたのかもしれない。俺の魔法ってヤバイんだ。
「ちょっと晴翔、凄いじゃない今の魔法! 今すぐにでも魔物を狩れそうな程だったわよ!」
魔物を狩れそうと言うか、実際に狩っていたからね……。
それからという物、もうお祭り騒ぎみたいなことになってしまった。
優秀な生徒の集まるこの学園であっても高校生時点であれだけの魔法を使えるのはほんの一握りらしい。
結果として俺は一躍クラスのヒーローのような扱いになってしまった。
学園長には目立つなって言われてるけど、これもう仕方ないよな。俺の使える最低威力があれなんだから。
その後、案の定学園長に呼び出された。
「君の適性について気になることがあるんだ」
が、その内容は俺の予想していたものでは無く、属性の適性についてだった。
「ファイアーボールであれだけの爆発を起こしたというのは本当かね?」
「はい」
嘘を言っても仕方ないし本当の事を言う。
「うーむ、適性は火属性と言うことになっているが……あれだけの爆発を引き起こせる炎魔法なんてそうそうないはずなんだ。何か心当たりがあったりするかい?」
心当たり……と言えばもうHARUとしての力しかない。
だがそれを言った所で信じてもらえるかはわからないし、言って良い物なのかもわからない。
せめてナビに助力を求められれば……と無い物ねだりしても仕方ないしな。
「いえ、特にはありません」
「そうか。ただ、私たちは君の味方だ。何かあったら遠慮なく言って欲しい」
そんな訳で学園長との会話は終わった。俺の魔法について異質な何かがあることには気付いてそうだったが、それが異世界由来だと言うのはわからないようだった。
その後、午前の授業を終えて昼飯を食べている最中に何人かの集団がやってきた。
そしてそのリーダー格と思われる男が話しかけてきた。
「君が晴翔君だね?」
「はい、そうですけど」
見たところ今の俺が属しているクラスよりも上の年齢のクラスの生徒だろうか。
「さっきの爆発、君が起こしたって本当かい?」
「はい、俺がやりました」
何と言うかこの男……表情は笑っているがその奥にある感情が一切笑っていないな。
完全に上辺だけの笑みと言ったところか。
「そうなんだ……なら話は早い。単刀直入に言うね。君にはこの学園から消えてもらうよ」
……こいつはまた随分と穏やかじゃないのが来たな。