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2 東都魔法学園

 無事に……と言って良いのかはわからないが魔法学園にまでたどり着いた俺はまずは学園長室へと向かった。

 生き返ったから再び在籍させる、というのは前例が無さ過ぎて色々と大変らしい。そのため諸々の処理は学園長が自ら行ってくれていたようだ。


「失礼します」

「おや、来たか」


 学園長室に入るとそこには以前にも手続きのために会ったことのある女性がいた。

 彼女こそここ魔法学園の学園長であり、それと同時にとてつもなく優秀な魔術師らしい。まあそうでも無ければ魔法学園の学園長なんて務まらないんだろう。


「久しぶりだね晴翔君。いやはや驚いたよ。まさか人が生き返ることがあるなんてね。国家魔術師になってもう何年も経つがこんなことは初めてだ」


 国家魔術師……細かいことはわからないが、相当な魔法技術を持つ者に与えられる国家公認の称号だと言うことは調べたからわかっている。

 日本国内に十数人しかいないらしく、その価値と言えばもうとんでもないことになっているらしい。

 

 そんな国家魔術師でさえ今まで経験したことが無いと言うことは、魔法があってもなお死人が生き返ることは無いのだろう。

 つまり俺の存在は完全なイレギュラーと言うことになる。


「色々と大変だったよ。何しろ君のような存在が公に知られれば多方面から連絡が殺到するだろうからね。中には君を実験して蘇生魔法を創りだそうとする組織などもいるだろう」

「それは穏やかじゃあないですね」

「そうだな。まあそこは気にしなくても大丈夫だ。我が学園が君やその家族の安全を保障しようじゃないか」


 それは助かる。死ぬまで実験動物になるとか嫌だからな。


「色々とありがとうございます」

「いやいや、こちらとしても君のような存在を抱えて置けるメリットはデカいのさ」


 ……よく考えたらこの学園がそのヤバイ組織じゃない確証って無いんだよな。

 まあその時はその時か。棺桶が燃やされた時に俺は全く燃えなかったことから、少なくとも耐久面に関してはこの世界でも俺の強さは通用するはず。

 いざとなったら両親を連れて逃げればなんとかなるだろ。多分。


「まあ細かい話は後にしよう。以前にも言っていたが、君は亡くなる前の記憶が曖昧なようだからね。今期の授業が始まる前に改めて説明をしておこうじゃないか」


 そう言うと学園長はホワイトボードのような物に魔法を使って映像を投射し始めた。


「まずここは東都魔法学園。それはわかるかな?」

「そうですね。名前だけはわかっているくらいです」

「ふむ、それなら簡単に言おう。要は魔法を学ぶ学校だよここは。その中でもここ東都魔法学園は優秀な者たちが集まることで有名な学校でね」


 なるほど、元の世界における東大とか早稲田とかそう言う話かな?

 いやこの世界にもそれらの大学はあるにはあるみたいだけども。あくまで魔法専門で考えるとこの東都魔法学園の方が優秀ってだけで。


「そう言う訳もあって、この学園は多くの生徒を抱えているのだよ。それこそ下は初等教育、上は大学までね。ここは小中高一貫校と魔法大学を複合した国内でも数少ない一貫校なのさ」

「なるほど。ですがどうして俺は制服を……?」

「何を言っているんだ? 高校生なら制服を着るのは当たり前だろう?」


 ……うん?

 

「もしかして年齢についての記憶も失っているのか?」


 そんなはずは無い……俺は確かに大学生だったはずだ。とっくに成人もしていたし酒だって飲んでいた。

 だが学園長の反応を見るに、今の俺はどうやら高校生のようだ。

 もしや数年のズレが存在しているのか……?


「まあいい。少しずつ記憶を取り戻していけばいいさ。それよりも君の制服についてなんだが……」

「制服ですか?」

「ああ、君はどう見ても女の子だ。なのにどうして男用の制服を着ているのかと、ずっと気になってはいたんだ」

「ああ……」


 俺が男用の制服を着ていることについて、やはり学園長も気になっていたようだ。


「だがおかしなことに過去の在籍記録において君は男性として登録されているんだ。今こうして目の前の君を見ても入学時からその見た目だったようにしか思えないのにも関わらずだ」

 

 ……俺の歪な経歴について彼女は気付いているらしい。

 どういう訳か戸籍も過去の学校における在籍記録も全てにおいて俺は男として記録されていた。

 だが今こうして女の体をしていても皆違和感すら持っていない。まるで俺の見た目に関しての認識だけがすり替わっているかのように。


「何か異常な事が起こっているのは確実だろう。だがそれを解明することは今の我々には恐らく不可能だ。だからこれに関しては今後随時すり合わせを行っていくしかない。ということでまずはその制服からだな」

「……はい?」


 学園長はそう言うと女性用の制服を持ちだしてきた。嫌な予感がする。


「流石に見た目が女の子である君をその制服のまま扱う訳にはいかないんだ」

「それはその……規則的な話ですか?」

「それも少しはあるが、何よりも変に目立ってしまう事を避けるためには重要だ。先程も言った通り、君の異常性について外に漏れることは極力避けたい。それは君の経歴の異質さも含めてだ」


 まあ、それはそうだ。

 データとしては男として登録されているが女の子の姿をしていて男用の制服を着ている……だなんてあまりにも異質過ぎる。異常性が服を着て歩いているようなものだ。

 しかし、しかしだ。


「それを着るのは……抵抗が……」


 女の子として扱われること自体は異世界での事もあって慣れた。だが服装に関しては全くもって別だ。

 露出が多いってのもそうだが、なによりスカートだってのが何より不味い。


「薄々感じてはいたが君の人格は男のそれだろう。本当に申し訳ないと思っている。だがこればかりはどうしようもないんだ」

「……」


 どうやら折れてくれる気は無いらしい。


「……わかりました」


 こうなりゃもうどうにでもなれ。どうせここで言い争っても何にもならないんだろう。実際彼女の言う事の方が論理的に正しいんだ。理にもかなっている。


 と、そう考えていた時期が俺にもあった。


「……これ、思っていた以上にヤバイな?」


 いざ着てみた結果、余計にヤバさが際立っていた。胸元空きすぎ。スカート短すぎ。

 これ絶対幼女に着せて良いものじゃない。あまりにも無防備過ぎる格好だ。特にスカートの丈が短すぎるのもあってか滅茶苦茶下半身がスースーする。少し風が吹けば内側が見えてしまいそうな程に。


 ああ、顔が熱いな。もう夏か。……夏だった。

 いや現実逃避している場合じゃない。この顔の熱さは紛れもなく羞恥のそれだ。え、俺今後この格好で学校生活するのか?


「……終わった」


 あの時俺の方が折れたのを後悔してもしきれない。論理的に正しいがなんだ。俺のこの格好の方が正しく無さすぎだろ。

 ああ、過去に助言できるなら絶対に負けるなと伝えたい。

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