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1 帰って来た……って言って良いのか?

第二部の更新を開始いたしました!

 異世界アーステイルでの戦いを終え、俺を含む何人かのプレイヤーたちは元の世界に帰って来た。

 ……はずなんだが。


「魔法省による今日の魔力嵐予報はこちら」


 チャンネルを変える。


「残念ながら最下位になってしまった牡羊座の方のラッキーアイテムは……じゃじゃん、炎の魔石です! それでは皆様良い一日を!」


 ……チャンネルを変える。


「先週発生した魔導銃による殺傷事件の犯人は今なお捕まっておりません。該当する不審な方を見つけた場合はすぐにその場から離れてください」


 ……おかしい。

 確かにここは元の世界のはずなんだ。実際問題、母さんも父さんも俺の記憶通りだった。それに街の光景もほとんど記憶の中の物と変わらない。


 だが実際はどうだ。

 元の世界には『魔法』だなんてファンタジーな物、存在していなかったはずなんだ。なのにも関わらずこうしてニュースキャスターはクソ真面目に魔法に関することを話している。

 恐らく作り物という訳でも無いんだろう。そうじゃないと朝のニュースが全て特撮作品みたいな話になってしまう。

 

「はあ……一体どうなっているんだ?」


 思えばおかしいのは最初からだった。

 この世界に戻ってきた時は色々と大変なことになっていて気付かなかったが……。


「……柔らかい。そうだよな。今の俺はHARUの姿なんだもんな……」


 そう、HARUなんだ。俺はこの世界でもゲームのアバターとして作られたキャラそのものの姿をしていた。

 ほっぺたがモチモチとした貧乳白髪ロリっ子のそれだ。

 

 しかしそうなると元の俺の体はどこに……?

 いや、考えても全然わからん。今の俺には何よりも圧倒的に情報が足りなさすぎる。


 となるともう残されたのは一つの選択肢しかなかった。


「……行くしかないよなぁ」


 一度死んだものの、生き返った事で特例として再び大学……学校に通えることにはなった。

 しかしその学校に問題があった。


「……」


 視線の先にあるのは学生証。しかしそれは俺が元々通っていた大学のものでは無い。

 東都魔法学園……学生証にはそう書かれている。当然俺がそんなトンチキな学校に通っていたはずは無い。

 元々は東都工科大学に通っていたんだからな。ある意味魔法とは正反対と言えるかもしれない。


 魔法学園について一応調べてはみた。魔法がある世界とは言えパソコンやインターネットは普通に使えるようで、とりあえず学校のサイトを見つけることは出来た。

 内容としては魔法に関すること以外はごく普通の学校のホームページと同じで、残念ながらそれ以上の情報は何も得られなかった。

 どこぞのまとめ記事の「いかがでしたか」並みの情報しか集められなかったことが悔やまれる。


 そんな魔法学園に俺は通っていることになっているらしい。

 であればそこに行けばこのおかしくなった世界についても何かがわかるかもしれない。


「しかし……しかしだ」


 俺の足は重い。当然だろう?

 なにしろこの学園にも、ラノベなどでありがちな中々ヤバイデザインの制服があるようだからな。ホームページに掲載されている写真に映っているそれはあまりにも常識を逸脱していた。

 そして最悪なことに今の俺は女の子の姿。であればどうなるかは一目瞭然……と半ば諦めていた訳だが。


 どうやら最悪の事態は免れたようだ。


「こいつは……とりあえず不幸中の幸いだな」


 クローゼットを開けるとそこにあったのは男物の制服だった。

 ごく一般的な制服と比べたら煌びやかでやたらと凝った装飾の多いものではあるが、妙に露出の多い女性用と比べたら全然いける。

 これくらいならアーステイルで着ていた装備とそう変わらないしな。何よりズボンだと言うだけでありがたすぎる。


 それにしても俺の姿を見た家族はこの見た目に関して何も言ってこなかったけど制服は男物なんだよな……どうなってんだ?

 まあいい。今考えたって何もわからないんだ。これに関しては優先度も低いしな。


 と言う訳で制服に着替え、最低限の持ち物だけ持って家を出る。幸い俺の住んでいた部屋はそのままのようで立地に関しては困ることは無さそうだ。

 あとはまあ電子決済なども存在しているし電車もあるから学園までの移動に関しても気にせずに済みそうだ。


 今日までの情報収集で分かったことだが、少なくとも文明に関しては元の世界とそう変わらないようなんだよな。

 科学文明は元の世界同様に発展していて、そこにプラスアルファで魔法が存在しているらしい。

 ただどれだけ調べてもある時いきなり魔法が使えるようになったって言う記事しか出ないもんだから流石に何か絡んでそうではある。


「情報統制は……あるだろうな流石に」


 インターネットによる情報網でも一切確信を突く物が無いと言うのはおかしいし、恐らく知られたく無い事でもあるんだろう。

 ただまあ俺は別に正義の味方でも無ければ世界をひっくり返したいとかそう言う思想がある訳でも無い。

 最低限この世界に何があったのかの手がかりがあればそれで良いんだ。まあそれが秘匿情報なのかもしれないけども。


 とそんなことを考えながら歩いていたらいつの間にか迷ってしまっていた。

 悪い癖だ。以前は考えながらでも駅までたどり着けたが、ここは俺の知る世界とは少々違うようだからな。

 微妙に記憶と街の造りが変わっている。もっともこの記憶ももう数年前の物だから完璧じゃないだろうけど。


「さて、とりあえず見覚えのある場所まで戻るか……」


 幸いと言うべきか駅までの道自体は覚えている。街の構造もそう大きくは変わっていないようだからある程度戻れば見覚えのある場所に辿り着けるだろう。


「あ、その制服……もしかして魔法学園の生徒さん?」


 と、そこで背後から声がした。他に人はいないし俺に対してのもので間違い無いだろう。


「ええ、そうですが」


 振り返り返事をする。

 声の正体は長い赤い髪に透き通るような紅い瞳が特徴的な一人の少女だった。魔法学園の制服を着ていることから生徒であることは確実だろう。


「良かった~迷子になっちゃってどうしようかと思って」

「いえ、その……申し訳ないんですけど、俺も迷ってるんですよね」


 正直に言った。僅かな希望すら打ち砕いてしまうようで悪いが、黙っていて変に期待させるよりも良いだろう。

 

「え、生徒さんなんだよね……? なんで迷ってるの?」

「……」


 そっくりそのまま返したいところではあるが、俺が迷子であることに変わりはないから言い返せない。


「まあ色々とありまして」

「そ、そうなのね……けどどうしよう。転入初日から遅刻なんて洒落にならない……」


 ああそういうことか。だから在校生と思われる俺が迷ってることに困惑していたのか。

 とは言ってもどうするか。放っておく訳にもいかないがただいま俺自身も迷っているんだよな。

 ああ、こんな時にマップ機能が使えれば。


 と、そう思った時だった。なんと目の前に見慣れたマップウィンドウが表示された。


「……え?」

「どうかしたの?」

「いえ、何でもないです」


 思わず声が漏れ出てしまった。いや仕方ないだろ。まさか本当に使えるとは思っていなかったんだから。

 物は試しと言うけども、確かに試してみて良い方向に行く可能性があるのなら実際やってみるもんだな。


 まあ何にせよこれで駅までの道も学園までの道も困ることは無さそうだな。


「道がわかったので案内しますね」

「えっどうやって……いえ、いいわ。それじゃあお願いするわね」


 その後マップに従って駅まで行き、無事に学園まで辿り着くことが出来た。

 初日登校なのは俺もあまり変わらないし間に合ってよかったのは俺も同じだな。


「本当にありがとう! あなたのおかげで初日から恥をかかずに済んだわ!」

「いえいえ、困っていたらお互い様ですからね」


 困っていたらお互い様……か。ああ、なんかアーステイルをやり始めた頃を思い出すな。

 初心者で右も左もわからない状態の俺を色々と助けてくれたあの人達は今は元気にしているだろうか。


 おっと過去に耽っている場合じゃなかった。俺も色々と手続きをしなきゃいけないんだよな。


「そういえばまだ名乗って無かったわね。私はエリン。一ノ瀬エリンよ」

「俺は葛城晴翔です」

「晴翔……? そういえばずっと気になっていたんだけど、どうしてあなたは男用の制服を着ているの?」


 ああ、そうかそうなるよな。と言うかそれについては俺もよくわかっていないんだよな。

 親に聞いてみても自分で調べてみても、俺の名前や今までの経歴全てが歪だった。

 まるで「俺と言う存在が幼女の姿をしていてもそれが当然だと思われる世界」に捻じ曲げられたかのように。


「ああ、いいの気にしないで。そこまで気になっている訳でも無いから。それに最近は見た目と性別がどうたらとか言うし」

「あ、いえその……なんかすみません」


 考え事をしていたからか険しくなっていた俺の表情を見てエリンはそう言ってきた。

 何だか重大な勘違いを引き起こしているような気がするが、その方がかえって都合が良いかもしれない。

 異世界帰りでこんな姿になっちゃいました……だなんて誰が信じると言うのか。


 まあそんな訳で初っ端からひと悶着あった訳だが、こうして俺の学園生活が始まることになった。

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