46 無敵の魔龍
「よし、行くか」
魔龍に向かって走り出そうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「ハル、待て」
「……レイブン?」
振り向くとそこにはレイブンが立っていた。
「妙な気配がして転移してみれば、とんでもないものが出てきたみたいだな」
「……ですね。アーステイルにも存在していなかったモンスターみたいですし、全く情報が無いんですよ」
「そうか。となればそう簡単には倒せないと思った方が良さそうだ。それにどんな危険があるかもわからない。慎重に行くぞ」
そう言うとレイブンは背中に携えていた二つの斧を握り、魔龍の方へ走り出した。
それに続いて俺も走り出す。
「作戦は何かあるんですか?」
「残念だが無い。慎重に戦いつつ、少しずつ奴の特徴を暴いていくしかないだろう」
「わかりました。必ず生きて帰りましょうね」
「フッ、元よりそのつもりだ」
ああ、この感じ……アーステイルでPVPをやっていた頃を思い出す。
相手の情報が全くわからない状態での戦闘。少しづつ牽制を行いながら相手の手の内を確認していくあの感覚だ。
……不謹慎かもしれないが、命のやり取りをしているってのに妙に気分が高揚してしまうな。
「まず俺が魔法で気を引きます」
「ああ、わかった。それならその隙に俺が奴の懐に潜ろう」
あの手の大きなモンスターを近接戦闘で相手取るのならまずは懐に潜るのが定石だ。図体がデカい程足元への攻撃はしにくいからな。
そのための隙を俺が作る。
「フォーリンマキシマイズライトニング!!」
出し惜しみはしない。今この辺りには他の人はいないし、力をセーブする必要もない。
どれだけあの魔龍ってのが強かろうが、初手超級魔法をぶち込んでやれば牽制にはなるはずだ。
この超級雷魔法は低ランク帯とは言えレイドボスをも一撃で葬るだけの火力を持っているしな。
「グオオォォァァァッッ!!」
「……倒した?」
俺の放った雷魔法は奴にぶち当たるとその体を焼いた。そしてその後、奴が動くことは無かった。
……拍子抜けだ。あれだけの異質なオーラを持っておきながらこれだけなのか?
いや、まだだ……。
普段なら奴の体が塵となり始めている頃合いだ。だがその兆候は一切ない。
「ハル! 後ろだ!」
「なっ……」
気付けば魔龍の体の一部が俺の後ろに回り込んでいた。
「ぐっ……っぁ」
重い。あまりにも重すぎる一撃。咄嗟に剣で受け止めたものの、腕ごと吹き飛んで行きそうだった。
「ふぅ……何が起こったっていうんだ」
確かに俺の魔法は奴を仕留めたはずだ。幻覚でも無い。だが確かに今コイツは俺の目の前にいる。俺に攻撃される前の完全な状態で……だ。
「ハル、大丈夫か!」
「ああ! けど、コイツはちょっとヤバいかもしれない!」
明らかに今までに戦って来た闇に飲まれしモンスターとは違う。
どこか異常な力。それこそ俺たちのような……イレギュラーな力だ。
「ええい、それならもう一度倒してやれば良い! グレートマキシマイズエクスプロ―ジョン!!」
今度はコイツだけでは無く、周りも含めて爆発させる。街までは結構距離があるから影響はない……と思いたい。
とは言え今はそんなことは言っている場合じゃない。魔法による衝撃波とコイツ自体だったらコイツの方が遥かにヤバイのは明白なんだ。
「グゥゥァァァァ!!」
爆音と共に奴の断末魔が辺りに響き渡る。
その後大規模な爆炎が晴れた時、またしても奴の体は地面に崩れ落ちていた。
「……ッ!?」
だが、嫌な予感は的中した。
「くっ……またか!?」
再び奴は俺の背後に回り込み、攻撃を仕掛けて来ていた。
今度はあらかじめ攻撃してくる可能性を考慮していたからさっきよりはうまく対応出来たが、こんな事を続けていればいつか限界が来そうだ。
そもそもコイツはこんな巨体でどうやって俺の背後に回りこんでいるんだ。
音も気配もない。翼で飛んでいる訳でも無い。そう、まるで転移しているかのようだ。
「ハル!」
ちょうど魔龍を挟んで向こう側にいたレイブンが跳躍して奴を斬り刻みながらこちらに飛んでくる。
「グゥァァッァアァ!!」
かなりのダメージになったようで、魔龍は呻きながらその場でもだえ苦しんでいる。
どうやら今回は攻撃はしてこないようだ。
「ハル、また攻撃されたようだが大丈夫か」
「俺は大丈夫です。けどこれはちょっと……いえ、大分大変ですよ」
「そのようだな」
何度攻撃しても駄目。むしろ攻撃をする度に強力なカウンターが飛んでくる。そんなのをどうやって倒せば……。
[報告、メッセージが届いています]
「こんな時に何だ!」
「どうしたハル」
「いえ、メッセージが届いたようで……。ああ、わかった。ナビ、開いてくれ」
ナビにメッセ―ジを開かせる。そしてそこに書いてあった内容が目に入った瞬間、言葉を失ってしまった。
「おい、顔色が悪いぞ! 何が書いてあったんだ!?」
「……他の街にも魔龍が現れているみたいなんです」
最悪の情報だった。
メッセージは狂夜とクリムゾン、それに武神君から届いていたが、その全ての内容が魔龍と呼ばれるモンスターが現れたというものだった。
「何だと……?」
「同じタイミングで同じモンスターが現れる……ただ事じゃないですよね」
偶然にしてはあまりにも出来すぎだ。だがそうでないにしたって原因が見当たらな……。
いや、空間の歪みか?
もしそれが関与しているとしたら、最近闇に飲まれしモンスターが活発化しているのも空間の歪みが頻発しているのにも辻褄は合う。
だとしたら、もしかしたらコイツが大規模な空間の歪みとも関連を持っている可能性が……。
……駄目だ。今は考えるな。
仮にそうだったとしても、それを試す余裕は今の俺には無い。そのせいで街が被害を被るのなら、人が死ぬのなら、やるべきではない。
「はぁ……一体どうすれば……」
まあ、だからと言って対策は未だ無い。どちらにせよ魔龍を倒す方法は何もわかっていないんだ。
一応スターティアはアルスとRIZEが、そのほかの街も他のプレイヤーや高ランクの冒険者が相手をしているらしい。
今は持ちこたえられているが、いつ戦線が崩壊するかもわからない。
それにもし万が一にもRIZEたちに何かあったら……。
「大丈夫だハル。策はきっとある」
「……ですね。諦めてたらそこで終わりですし」
「ああ、その通りだ」
そうだ。諦めるのは死んでからでも良い。俺は今生きている。生きている限り戦い続けるんだ。
「グルルゥ……」
「不味い、街の方に向かうぞ……!」
「させない! アイシクルマキシマイズインパクト!!」
街の方へと歩き出した魔龍に向けて大量の氷塊を生み出して撃ちだす。
幸いにも一瞬奴の動きが止まったから全弾当てることが出来た。
「グゥッ!? ウガッアァァッァァ!!」
背後からの襲撃に一切の防御を取ることも出来ず魔龍は倒れた。
だが……。
「こっちか!」
また同じように背後に回りこんで攻撃を繰り出してきていた。
「ぐぅッ……こんなもの!!」
鋭利な爪による攻撃に奴の体重が乗って、まともに食らえば体に風穴が空きそうな一撃だった。
だがそれをレイブンは斧を使って受け止め、カウンター攻撃を決めていた。
「カウンターをしてこない……?」
「背後に回り込むのも無いみたいですね」
そう言えば、さっきレイブンが奴の体を斬り刻んだ時もカウンターはしてこなかった。
考えろ、きっとこれがコイツを倒すための手になるはずだ……!
「そうか……!」
「ハル、何かわかったのか?」
今までにコイツがカウンターをしてきたのは俺が魔法で攻撃し、一度沈黙させた後だった。
それに対して通常のダメージはどれだけ大ダメージだろうが一切カウンターは発生しなかった。
となると……。
「この魔龍は、恐らく何らかの方法で蘇っているんだと思います。そしてその際にのみカウンターとして相手の背後に回って必殺の一撃を使って来る……んだと思います」
「なるほど……だから今は背後に回ってこなかったということか」
ひとまず、コイツのカウンターの仕組みに付いてはわかった。とは言え、この仮説が正しいのであれば結局蘇るのを止める方法が見つからない。
やはり勝ち目は無い……のか?
お読みいただきありがとうございます。
応援していただけるのであれば、是非ブックマークにポイントの方お願いいたします!