44 魔法の無効化だって? こちとら剣も使えるが?
あれから十数分。王城の入り口でひと悶着あった後はこれと言って何かが起こっている訳では無い……か。
上手くいっていると良いんだけど、こっちから特にできることも無いんだ。今は無事を祈るとしよう。
[報告、アリス様の魔力反応が消失しました]
「何だって!?」
どういうことだ。彼女の実力は相当なはず……簡単にやられるとは思えない。
「それは死んだということか!?」
[いえ、王城全体にかけて魔力の探知が不可能となりました。恐らく魔法や魔力を無効化する何かを発動させたのかと思われます]
「そう言うことか。だが不味いな……彼女は魔法戦闘しか出来ないエレメンタルウィザードだぞ……」
つまり今彼女は一切の戦闘能力を失ったまま敵の前にいると言うことになる。丸腰でだ。
「俺が行くしかない!」
今彼女を助けられるのは俺だけだ。魔法の無効化となれば俺も影響を受ける。だが俺には近接戦闘能力もあるんだ。
例え格上がいようが構わない。戦わずに彼女を見捨てることなんて俺には出来ない。
「ナビ、最後にアリスの魔力を確認した場所をマッピングしてくれ!」
[承りました。……マッピング完了]
「よし、ここだな」
足に力をため、一目散にそこへと跳ぶ。
俺の身体能力なら王城のその場所までピンポイントで跳ぶことくらいは出来る。問題はこの方法だと中の様子を確認出来ずにいきなり突っ込むことになるが……。
いや、一分一秒を争う状況だ。考えるのは後からでも良い。
「うおぉぉぉッ!! アリスゥゥ!!」
「……HARU!?」
盛大に窓をぶち破って部屋の中へと侵入した。
「……お前が王か!」
クソッあの王、アリスの服を……だがそれは良い。今は彼女を保護する。それだけだ!
「大丈夫かアリス!?」
「……来てくれたんだ。ありがとう、本当に……ありがとう!」
「見捨てる訳無いだろう? ただまあ、お礼を言うのは無事にここを切り抜けてからだな」
見たところこの場で戦えるのは手傷を負った魔術師4人と臣下と言ったところか。
いや、魔法を無効化されている状態なら魔術師は気にしなくても良いのか。
「何だお前は!? いや、その顔見覚えがあるな……そうか白姫か!」
「こんな遠方でも知られているなんて、光栄だね」
「ははっ、何を言っているのだ。お前ほどの冒険者を知らないはずが無かろう。いつかは我が国に取り込みたいと思っていたところだし都合が良い。お前も我が物となれ」
……何を言っているんだコイツは。
アリスだけでは無くこの俺すらも対象とするか。どこぞの王子と言い、この世界にはロリコンばかりなのか?
「おいおい、こんな少女を愛人にでもする気か? 正気じゃないな」
「馬鹿を言うな誰がお前のような貧相な娘など欲しがるものか。私が欲しいのはお前の戦闘能力の方だ」
くっ……面と向かってそう言われるとそれはそれでムカつくな。
いや、何でムカついているんだ俺は。俺は男で、別にこの体について何か言われようが何も問題は無い。無いはずなんだ。
「生憎俺は国の下に付くつもりは無いんでね」
「そうか。なら無理やりにでも従わせるまでだ。行け」
「ハッ」
周りにいた男たちがゾロゾロと俺たちの周りを囲って行く。
やる気みたいだな。恐らく皆臣下だろう。となれば最低限剣の心得もありそうだ。
けど経験則でわかる。それだけだと俺には遠く及ばないということがな。
「フンッ!」
「おっと、遅いな」
「なんだとっ!? いや、それならこちらから!」
「その程度じゃ俺には当たらないさ。ほら、お返しだ」
臣下が攻撃をしてくるたびにそれを剣で弾き、適切にカウンターをしていく。
やはり練度はそう高くは無いようで、アリスを庇いながらでも余裕でさばききることが出来た。
「何故だ……白姫は凄腕の魔術師と聞いているぞ! どうして我が臣下の剣が通らぬ! 国でもよりすぐりの剣術家から指導を賜っているのだぞ!?」
ああ、そうか。大陸を隔てているからか伝わっているのは俺が魔法でモンスターを倒したことだけなのか。
だから俺が近接戦闘と魔法戦闘が両方できる器用貧乏だと言う事を知らないと。
「確かに俺は魔術師だが、剣術や体術にも少し長けているんだ。アンタらの生半可な攻撃では通らないぞ」
「ぐっぅぅ……おのれ、まさかここまでとは……」
さあどうする。近接戦闘では敵わないというのはわかっただろう。しかしだからと言って魔法を使おうとすれば魔法の無効化を解除しなければならない。
けどそうなれば俺とアリスから魔法による一斉攻撃を受けてしまう。どうあろうと詰み。それがわからない程愚かでは無いはずだ。
今アンタが出来るのは完全なる降伏。それだけだ。
「わ、わかったでしょう? もうあなたに勝ち目は無いの。さあ、今後一切私を追わないと約束しなさい……!」
「ぐぅっ……はぁ、仕方がない……な。……魔法の無効化を解除しろ。この娘と魔法契約を結ぶ」
「よ、良いのですか王様!?」
「ああ、我々は負けたのだ。完膚なきまでにな」
王は剣を置いて丸腰であることを証明しながらアリスの元へ歩いて行き、そのまま魔法契約という物を行ったのだった。
なんでもこの魔法契約で結ばれた契約は本人の意思では絶対に破ることができず、もし外的要因などでも破ってしまった場合は最悪死に至るのだと言う。
凄まじく恐ろしいものだが、だからこそ絶対的な契約としての価値が出るのだろう。
こうして彼女を取り巻く事件は一件落着となった。
もう追われることは無くなった彼女は心機一転もう一度冒険者として活動を開始し、それで稼いだお金を使って今でも変わらず貧困な村などへの補助活動を続けている。
追われる事は無くなっても、国からの罪が無くなっても、自分が奪ってしまった命は戻ってこないからと、彼女はそう言っていた。
そして最後に別れる間際、彼女は俺に本名を名乗ってくれた。
その名は「たかなしありす」。
……俺にはその名に聞き覚えがあった。
以前オールアールでレインという冒険者から聞いた名前と同じだったんだ。
そのことを彼女に伝えると、途端に泣き崩れてしまった。なんでも以前にこの世界に転移した時に魔術師の師匠として彼に魔法を教えていたらしい。
けどもう一度この世界に来た彼女は今度はプレイヤーとしてだった。
当時とは全く違う姿をしているため会いに行くことも出来ず、そもそもこの広い世界において彼がどこにいるのかもわからず、会いに行くことは諦めたらしい。
そして今も彼を変に巻き込んではいけないと考え会うことは控えると、彼女はそう言っていた。
またこの件から、俺は彼女がこの世界に転移した時に強大な魔法の能力を持っていたことも知ることが出来た。
つまりはただの転移と言う訳では無いのだ。ギフトと呼ばれるようなものを授かった状態での転移。それが彼女の状況だった。
これももしかしたら元の世界に戻るための重要な手がかりになるかもしれない。そう考え、俺はもう一度魔導国に向かうことにしたのだった。
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