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36 奇跡の再開

「ふぅっ……思ったよりも大変だったな」


 主に移動が。帝国周辺と一言で言っても、実際に距離としては数キロから数十キロ範囲になる。

 そして帝国の周りに何も無いと言うのがここで響いて来る。転移用のワープポイントも無いってことになるんだよなぁ。

 だから基本徒歩。一応この体は疲れ知らずだ。だが精神は違う。

 何度も何度も戦っては別の場所に移動。代り映えのしない光景を見ながらひたすらに移動。普段の依頼では絶対にしないようなことだ。


 とは言えそれももう終わり。最後の一体をたった今倒し終わったんだ。これで俺の貞操と帝国が救われた。

 そんな訳でやりきった達成感を味わいながら街へと戻る。一応狩り尽くしたとは思うが、どうやら奴らはどこからでもポップするらしいからな。少なくとも今日一日くらいは俺が見張っててやろう。


 宿屋を一泊借りて、そのままベッドにイン。うーん、フカフカ。とりあえず少し休むとしよう。

 ……妙だ。何か視線を感じる気がする。


「ナビ、俺に敵意を持つ存在がいるか調べてくれ」

[了解しました。……数人が宿屋の周りを囲むように配置されているようです]

「そうか……にしても一体誰がそんなことを……」


 狙われていると考えて良いだろう。とは言え誰に?

 恨みを買うと言ったら……先日のケインの騒動だろうか。だがここはオールアールからかなり離れた帝国だ。奴らが俺のことを捕捉しきれているとは到底思えない。

 となると……。


 王子の部下か?

 あの感じだと俺に対して結構良くない感情を持っていそうだったぞ。


「はぁ、メンドクサイことになりそうだな。ナビ、情報を頼む」

[数は6、能力はプレイヤーレベル換算で30レベルに相当すると思われます]

「なんだ、思ったよりも雑魚の集まりじゃないか」


 てっきりもっと凄腕のヒットマンが集められているものだと思ったが、拍子抜けだな。


「行こう。どうせ奴らは街の中ではあまりデカいことはしないだろう」


 宿屋を出てマップを頼りに向かって行く。奇襲してくると言うのなら逆にこちらから奇襲してやろうじゃないか。


「やあこんにちは」

「なっ、どうしてここが!?」


 まさかバレているとも思わなかったようで、後ろから声をかけたら死ぬほどビビり散らかしていた。


「とりあえず依頼主の事について教えてもらおうか」

「誰が言うものか……ヒィッ」


 目の前に剣を振り下ろす。もちろん当たらない距離を計算しての攻撃だ。これは脅しなのだから殺してはいけない。


「では質問を変えよう。仲間の数と配置は?」

「い、言うものか……! ぐぁっ!?」


 強情なので肩に切り込みを入れる。腕が落ちないくらいの傷にはなっているはずだ。

 向こうも攻撃をしてきてはいるものの、シルバーランクの冒険者であれば誰でも避けられるくらいの速度だった。

 やはり雑魚の集まりなのだろう。いや、違う。そもそもコイツらは攻撃用の部隊じゃない……。


「くっ!?」


 殺気を感じ、即座に避ける。

 その瞬間、すぐそばを矢が通り抜けて目の前の男の眉間に突き刺さった。


「新手か……!」


 矢が飛んできた方を見る。しかしそこに何かがいるようには見えない。


「ッ! 上か!」


 次に気配がした方向。それは上だった。

 途端に大量に振って来る矢の雨。よく見るとその出所は遠くの森のようだった。どうやら曲射で矢を撃ってきているようだ。

 道理で弓使いの姿が見えない訳だ。遠くから狙い撃ちしていればそりゃここからは見えない。


 そしてこの矢の精度と数。恐らく実力としてはケインと一緒にいたセシリアなんかとは雲泥の差がある。

 シルバーランクの中でも限りなく凄腕の類。それと同じ程の実力の持ち主だろう。

 そこまでの存在を扱えるんだ。間違いなく俺を狙っているのはあの時の部下なのだろう。


「はぁ……やっぱり面倒なことになってしまった」


 けど、こうなった以上はやられっぱなしと言う訳にもいかない。

 相手が悪かったと言う事を理解させないといけないな。


「ナビ、正確な位置はわかるか?」

[隠密スキルを使用しているようです。十秒ほど解析の時間を要しますがいかがいたしますか?]

「よし、頼んだ」


 おっと、そんなことをしている間にもまた矢が取んできた。闇雲に撃っていると言う訳では無く、しっかりと逃げ道を塞ぐ形で撃ってきているな。

 だが俺には魔法がある。


「フレイムウォール!」


 炎の壁で矢を焼き払う。使っている矢は普通のものなのかこれでだいたい何とかなるようだな。


[解析が終了しました。マッピングいたします]

「あそこだな……!」


 マップ上に配置されたマーカーを頼りに弓使いを探す。

 すると木の陰に動くものを見つけた。


「そこか!」

「いつの間にッ!?」


 流石にこんなにすぐに場所がバレるとは思っていなかったのか弓使いに一瞬の隙が出来た。その一瞬の隙が命とりとなる。


「ぐぁっ……」


 動けないように太ももに剣を突き刺し、彼の前へ詰め寄る。


「依頼主は誰だ?」

「言うはずが……無いだろう……がはっ」

「なっ、なんだ何が起こった!?」

 

 突然弓使いの男は目の前で血を吐いた。そしてその後一切動かなかった。……絶命してしまったのか?

 いや、俺は足に剣を刺しただけだ。それが死に直結するはずはない……。


[報告。彼の口内から毒物を確認しました]

「毒? ……そうか自害用か」


 大したヒットマンだ。情報を漏らさないように自害を選ぶとは。敵ながら天晴だな。

 けど、彼の覚悟には悪いがなんとなく思い当たりはするんだよな……いや思い当たると言うかほぼ確実にアイツだよなぁ。

 とは言え王子や本人に直談判と言う訳にもいかないし……。


 いや、言ってしまおうか。別に俺に非は無いでしょ。部下が何かしてるんなら王子に伝えた方が……いや、証拠が無いや。確実的な物的証拠が無いんだよなぁ。

 

[警告、後方に敵正反応有り]

「……ああ、わかっている」


 俺に対する明確な殺気。だがこれはモンスターじゃない。明らかに人のソレだ。


「コイツを捕えれば良いんだな?」

「ああ、出来れば傷つけて欲しくはないが、最悪死んでいなければそれで良い」


 この声……。


「ああ、やっぱりアンタだったのか」


 振り返り、遠くにいる男を見る。それは紛れもなく王子の部下本人だった。

 と言うか何で前線に出て来ているんだアホなのか?

 せっかくなんでも屋みたいなのを雇っているのに何で本人が出て来ちゃうかなぁ。


「それにしてもこんな小さな少女がねぇ……」

「侮るな。白姫と言えば遠方では複数の街に跨って知られている有名な冒険者だ。いくらお前でもそう簡単には行かないぞ」

「おいおい、俺を誰だと思ってんだ。無敵のゴワッスだぞ!」

「わかったからさっさとやってくれ。王子にバレても面倒だ」


 ……なるほど、これは奴の独断と言う事か。まあそうだろうとは思っていた。というかそれも確保対象の前でベラベラと喋るなよ。

 とは言えアイツが糸を引いているというのが分かった以上、もう面倒なことも考えずに倒せば良い。


「さぁて、格下を嬲り殺すのは趣味じゃないがこれも依頼なのでな」

「格下? それは違うな」


 この世界で戦い続けて来て、何となく相手がどれくらいの実力者なのかはわかるようになってきた。

 このゴワッスとかいう人物は確かに強い。けど、それはこの世界基準でだ。俺たちのような異質な存在と比べたら遥か格下なのは彼の方だった。


「ふんッ!! おお、受け止めるか」

「この程度の攻撃で俺は倒せないからな」

「そうか。ならこれならどうだ!」


 巨大なこん棒を振り下ろしたゴワッスはもう片方の腕で再びこん棒を振り下ろしてきた。

 今俺の剣は片方のこん棒を受け止めている。だからもう受け止められない。と、コイツは考えている事だろう。

 甘いぞ!


「ヌッゥゥッ!!」

「は……? な、なんだ……どうしてこん棒が……」


 力を入れて剣を振り、ゴワッスの持つこん棒を弾く。と同時に、振り下ろされたこん棒を頭で粉砕した。

 おお、自分で言うのもあれだが何と言う石頭なんだ。


「嘘だろ……ワイバーンの骨すら砕くこん棒だぞ……!」

「なら俺の頭の方が硬かったってことだな。今度はこちらの番だ!」


 あまりにも異常な光景に驚いて隙だらけになっているゴワッスの懐に一気に潜り込む。そしてその巨木のような足を剣で斬りつける。


「ぐぅっ……」


 そうして動けない状態となった彼の首に剣を突きつけた。


「……殺せ。この状態で命乞いをするほど俺は弱くはねえ。そう言う仕事だとわかったうえで依頼を受けているからな」

「そうか。なら……!」


 出来る限り苦痛の無いように一瞬で首を飛ばした。俺なりの敬意……と言えばいいのだろうか。敵ではあるが、冒険者としての覚悟においては尊敬できるものがある人物だった。


「次は、お前の番か?」

「ま、待て! まだこちらには手がある!」


 俺が剣を振り上げると、ギリギリのところで男はそう叫んだ。まだ何かあると言うのか。


「ふぅ、遅かったじゃないか……まあいい。残念だったな白姫。流石の貴様もコイツには勝てんよ。さあ、やってしまえアルバート!」


 アルバート……聞き覚えのある名前だが、割と良くいる名前だろうしきっと他人だよな……?


「……いや、まさかとは思っていたが……やっぱりそうだったのか」

「おいどうしたアルバート、さっさとコイツを……」

「すまねえ……それは無理だ」


 男の後ろの木陰から現れた大男。その姿には見覚えがあった。


「アルバート……そうかアルバートか!」


 記憶と同じ姿。他人では無く、正真正銘あの時戦ったあのアルバートだった。

お読みいただきありがとうございます。

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