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34 因縁の決着

「狂夜、もうコイツらの言葉は気にする必要はないんです。全て嘘だったんですから」

「おいおいマジかよ……」

「ほ、本当なの?」


 エランは目を丸くして驚いていた。ケインから離れてからも、今までずっとケインによる恐怖の下に隠れて暮らしていたのだろう。


「ふぅ……これから俺たちはギルドに報告しに行く。そう遠くない内にアンタらにはギルドから何かしらの罰がくだるだろうな。それまでに覚悟を決めるなりどこかへ逃げるなり好きにしたらどうだ」


 現状こちらが持ちうる手札ではコイツらを拘束することは出来ない。

 いくらコイツらが罪を犯したと言っても、あくまでギルドに報告できる要素としては狂夜に関して虚偽の報告をしたこととエランの死を騙ったくらいだ。ランクダウンとしばらくの謹慎がいいとこだろう。

 であれば、そもそもここら近辺からいなくなってもらった方が確実ではある。


「ふざ……けるな……」

「何だ、まだ何か言いたいことがあるのか?」

「ふざけるな! 俺たちはこんなところで終わって良い存在じゃないんだよ!」

「不味い! 狂夜、エランを守ってください!」

「言われなくてもわかってらぁ!!」


 ケインは突然剣を抜き、すぐそばにいた俺へ向けて振り回した。


「ぐっ、クソッどうして当たらない!?」

「ここは私が! 炎の精霊よ、我の力となりて……」

「遅い! アンチスペル!」


 魔術師のノルンだったか。彼女が魔法の詠唱を始めたからアンチスペルで強制的に解除した。

 こいつは中級までの魔法スキルを無効化する魔法でゲームではほとんど使い物にならなかったもんだが、強くても中級魔法が基本のこの世界においては効果は絶大でなにかと助かっている。

 こんな街のど真ん中で魔法を使われたらどれだけ被害が出るかわからないからな。


「なっ!? どうして魔法が……!?」

「クソッ、なんなんだ貴様らは!」

「なら私が!」


 えっと誰だっけ……。


「おお、やってしまえセシリア!」

「風の精霊よ、その力を分け与えたまえ! エンチャント・ウインドアロー!」


 そうだセシリアだった。弓使いである彼女は風魔法を纏った複数本の矢をこちらへと放ってきた。

 とは言え弾く訳にもいかない。まだこの場には逃げ遅れた街の人がいるんだ。彼らに刺さりでもしたら不味い。

 それにアンチスペルで纏った風魔法は消せても矢自体は普通に飛んでくるんだよな。


「くっ……おお、思ったよりもいけるもんだな」


 一か八かで飛んでくる矢を素手で掴んでみたが、案外何とかなった。


「そんな……私の攻撃を素手で……?」

「どうなっているんだ……どうしてこんなことに」

「おいおい、随分と好きにやってくれたじゃねえかよ」

「お前のせいだ……お前が全てをおかしくしたんだ!」


 ケインは狂夜に向かって勢いよく剣を振り下ろす。

 しかしその一撃が彼に届くことは無い。まるで蜃気楼を斬っているかのように彼の剣は空を斬るのみだった。


「な、なんだ……何が起こっている……!?」

「スコルの能力、幻影だ」

「い、いつの間に後ろに……!? クソッこんなはずじゃ無かった! こんなはずじゃ無かったんだ!」


 ケインは闇雲に剣を振り回し続ける。しかしそんな雑な剣がゴールドランクの冒険者に通用するはずも無かった。


「うぐぅっ……こんなことならエランを消そうなどと思わなければ良かった。もっと早くアイツが女だと言うことに気付ければこんなことにはならなかったんだ! そうすればアイツも俺のハーレムの一員に出来た! キョーヤなどに出会わなくともうまく事が済んだんだ!」

「てめぇ……エランの前でよくもそんなことを……!」


 狂夜は怒りを露わにし始める。彼にとってとっくにエランは大事な人になっていたのだろう。

 そこにケインはズケズケと踏み込んでしまっていた。


「ははっ! もう一度言ってやる! 立場を利用して俺専用のメスにしてやりたいと、そう思っているさ! さっき勧誘した時からそう思っていたんだよぉ!」

「はぁ、はぁ……ぐっ……落ち着けオレ……」


 狂夜は今にも叫びだしそうな声と雰囲気でそう呟いた。

 よく見ると地面に血が滴り落ちている。ケインの攻撃では彼に傷が付くことは無いだろう。恐らく、自傷している。そうまでして冷静さを保とうとしているんだろう。


「ぐっぅぅ!?」


 そしてついに狂夜がケインの背後に姿を現したかと思えば、先ほども使ったスコルの持つ別の能力で彼を気絶させたのだった。


「ケイン様!?」

「おのれよくも!」

「ケイン様! 今、回復いたします!」

 

 取り巻き3人がケインの元に集まって行く。あんなにクズなのになんだかんだ言って慕われているのかねぇ。

 まあこの隙にとんずらするのが一番だろう。


「行きましょう狂夜」

「直に一発食らわせてやりてえが仕方がねえ……行こうエラン」


 結局その後ケインに追われることも無く、無事にギルドに辿り着いた俺たちは事の全てをギルドに報告した。

 結果としてケインたちはシルバーランクからブロンズランクへと格下げとなり、一ヵ月の謹慎処分となった。

 今後の事を考えると冒険者資格自体を剥奪して欲しい所ではあるが、そこまでの事をするには証拠が足りなかった。


「あークソッ消化不良だ」

「けど、これで少しは安心して良い……んだよね?」

「ああ、これでアイツらも下手に手を出せばオレどころかギルドを敵に回すってことになったからな。そうそう妙なことはしてこないだろうよ」

「それなら良いんですけどね……」


 クリムゾンの時の事もあるし、俺もしばらくは警戒するとしよう。

 

「けど、あの時何でケインの野郎がいるってわかったんだ?」

「僕、探知スキルも持ってるから……今までもケインに出会わないように使ってたんだけど、さっきはキョーヤと一緒にいるから範囲を狭めていて……」

「お前、鑑定だけじゃ無く探知も持っていたのか……?」


 鑑定に探知か……。ゲームにおいてはUIでだいたい何とかなるものだから恩恵がよくわからないが、この世界においてはかなり重要なスキルになるだろうな。

 にしても何で彼女がシルバーランクのパーティにいたのかと思っていたけど、このスキルの影響だったのか。


 ちなみにギルドがケインたちの余罪を調べた結果、なんとアイツらはエランに関わる悪い噂を流すことで他のパーティが彼女を入れないように仕向けていたことが発覚したらしい。

 そうして孤立した彼女を形上優しく受け入れたのだろう。彼女が彼らから逃れられなかった理由の一つがそれなのだろうな。


 他の誰にも受け入れらずに孤立してしまった自分を受け入れてくれた恩人。そんな存在を裏切ることは出来ない。

 そんな純粋な少女が持つ良心を利用していたんだ。なんてこったやっぱりクズオブクズじゃないか。

 とは言え彼女を失ったケインらは目に見えて結果を残せなくなっていったらしい。ははっザマーミロ。

 

 それにしても、鑑定と探知が改めてこの世界で重要なスキルだということを思い知らされるな。

 とは言えプレイヤーには手に入れる手段が無いし……。


[報告。あなた方勇者様がそれらのスキルを得る手段は存在しませんが、我々のシステムがそれらの代わりとなりますので安心してください]


 そうなのか。それじゃこれからもよろしくな。


[お任せください勇者様]

お読みいただきありがとうございます。

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