31 最悪のモンスター
街の外に出ると遠くの方で蠢いている波があった。
幸いと言うべきかここからだと一体一体の姿を捉えることは出来ない。
あーヤバイ。想像するだけで鳥肌ものだろこれは。
「俺は遠距離攻撃を持っていない。だから近づく必要があるが、君の戦法はどういったものなんだ?」
「俺はバトルマジシャンです。一応近接も出来ますけど……」
したくはない。断じて。奴らの群れに突っ込むのはごめんだ。
「そうか。今回の目的は殲滅、それなら君の魔法の方が効率が良い。任せても良いだろうか」
「ええ、それはもう喜んで!」
あんな奴らに無闇に近づくのは許されないんDA!
こうなりゃ魔法で吹っ飛ばすのに限るってものだ。
「それじゃ行きます。エクスプロージョン!」
手加減する必要も無し。全員まとめて一瞬であの世へ送ってやる。
「これは……少し良いだろうか」
遠くの方で起こる汚い爆発を見ていると、突然アルスが肩をトンと叩いてそう聞いてきた。
「今、詠唱をしなかったのは何故……いや、そもそもどうやってやったんだ?」
そうだった。そう言えば狂夜も気にしていたっけか。
この世界だと魔法詠唱の短縮とか無詠唱とかは結構オーバーテクノロジーっぽいからなぁ。
「詠唱を短縮する方法を見つけたんです」
「そんな方法があったのか。やはりプレイヤーの力は凄いものだな」
妙に引っかかる言い方だった。まるで自分はプレイヤーでは無いみたいな。
「む、待て。話は後にしよう」
「……そうですね」
今さっき爆発させた辺りでまた別の爆発が起こっていた。もちろん俺は何もしていない。
少なくとも俺の魔法攻撃を耐えた何かがそこにはいる。
[報告。強大な魔力反応を確認しました]
それって闇のま案件だったりする?
「闇に飲まれしモンスターと同じ魔力反応を確認しています」
なるほど。これはまた厄介な。
今までこの辺りにはそこまで強いのは出てこなかった。街に近づく前にだいたいは俺が片付けていたからな。
だがとうとうここら辺りにも出没するようになったのか。これは空間の歪みとか探している余裕はないのかもしれない。
少なくともここスターティアの街だけは、世界がどうなろうと死守しないといけないんだ。あの二人の第二の故郷とも言えるこの場所を失わせはしない。
「奴は、ヤミグモス……とはまた違うようだ」
見たくはないが見なければ何もわからないんで、望遠機能を使って爆発を引き起こした主を確認する。
「ぅっ」
予想通りと言うか、最悪な気分だ。巨大な蜘蛛と蛾が混ざった姿なのはヤミグモスと変わらないが、さらに色々な虫の要素が混ざっている。
百鬼夜行を一体で体現しているかのような見た目。あれと戦うってのか?
もう魔法で吹き飛ばした方がいいよこれ。
「もう一度魔法を放ちます」
「ああ、頼む。だが……」
アルスの言いたいことはわかる。俺が放つ魔法はただでさえ通常より強力になっている。それを奴は耐えたのだ。それも割とピンピンしている状態。
恐らく今回の攻撃も効果はあまりないだろう。
「エクスプロージョン!」
再び爆発が起こる。が、煙が晴れると奴は健在だった。全くと言って良い程にダメージは無くピンピンとしている。
それどころか今の攻撃で敵として認識されてしまったようだ。明確に敵意を持ってこちらへと向かって来ていた。
「不味いですね気付かれました」
「いや、心配はいらない」
そう言うとアルスは剣を抜いて構えた。
「種さえわかってしまえば問題は無い」
「何かわかったんですか?」
「ああ、奴の周りを見ろ。薄い膜のようなものが見えるか?」
彼の言う通りにヤミグモスの周りを見てみると、確かに薄い膜のようなものが舞っていた。
「見えました。あれ、何なんでしょうね」
「奴が糸を使って造り出した魔法反射の膜だ。通常のヤミグモスはあくまで威力を軽減する程度のものしか作れないが、どうやらあの個体は完全に無効化するらしい」
マジか。ゲームの時には無かった習性だ。いや、そうかそうだよな。この世界ではここが現実。ゲームには無い情報だってあるか。
「だが、あそこまでの性能となると魔法を無効化することしか出来ないはず。それに取り巻きは君の魔法で殲滅済みだ。だから、単体性能の高さを考えると近接戦闘においてはこちらに分がある」
そう言うとアルスはこちらに向かって来るヤミグモスへと向かって走り出した。
「アルスさん! 俺も!」
後に続くように走り出す。とは言え本職に比べたら俺の近接戦闘能力はあまり期待は出来ないんだけども。
「俺は弱点である首を狙う。君は出来る限り奴の気を引いてくれ」
「わかりました!」
とは言ったものの、あの気持ち悪い見た目を直視しないといけないだけでも精神的ダメージがとんでもないな。
いやいや、今は戦いに集中しないと。
「っと、うぉぁっ!?」
突然奴がカマキリのような鎌を振り下ろしてきた。すぐに気付けたから何とかなったが、あの地面の抉れ方からすればまともに食らうと結構不味いかもしれない。
だが一度見切ってしまえばもう当たることは無い! と思っていただこう。
「ふっ、うぉっ」
いや前言撤回だ。普通に当たりそう。動きが速いだけじゃない。脚がたくさんあるせいで攻撃レートがふざけてやがる。
こんなんゲームの時に出てたら苦情殺到だったぞまったく。質のいいアクションゲームってのは攻撃するタイミングとされるタイミングってのが明確に分かれていてなぁ……っと脱線し過ぎだ。
今は戦闘中なんだからもう少し気を引き締めて……。
ああやっぱりだめだ。まともであろうとすると目の前のクソキモな姿を脳が直視してしまう。
何か別の事を考えていないと先に精神がやられてしまう。
「アルスさんは……うわっ、後ろに気を付けてください!」
「むっ、すまない助かった」
彼の方を見ると奴が後ろから何かをしそうだったから反射的に叫んでしまったが、どうやらそれが功を奏したみたいだ。
アルスが避けるのと奴がジェットのようなものを噴射するのはほぼ同時だった。
「多分これゴミムシのあれだよな……なんでもありなのかコイツは……?」
虫ならば何でもいいのかもしれない。化け物過ぎるが異世界ならそれも許されるのだろう。
「これで終わらせる」
「グッギャァァァッァ!!」
ガス攻撃を避けたアルスはそのまま奴の首元へと飛び込み、そのままの勢いで剣を突き刺していた。
流石は数多くのモンスターを屠って来たと言ったところか。堅い外殻の隙間を見事に貫いている。
初期の頃の俺みたいにステータスだけでゴリ推すのとは違う、明確に知識と戦闘技術を使った戦い方だった。
「ふぅ、終わった……」
塵と化していくヤミグモスを見ながら一息つく。もう二度とこんなのとは戦いたくはない。戦力的な問題では無く精神的な問題として。
「あらためて礼を言う。助かった」
「いえ、こちらこそ。魔法が効かないとなると俺一人だと結構不利でしたからね」
こういう時のための二刀流という考え方もあるが、それは相手が格下ならばの話だ。闇に飲まれしモンスターにはとてつもなく強力な奴だっているだろうし、どちらかだけで戦うってなるとこちら側が圧倒的に不利になってしまう。
「俺はしばらくこの街に滞在するつもりだ。また何かあったら共に戦って欲しい」
「ええ、よろこんで」
色々と足早に事が進んでしまったが、なんだかんだ言ってアルスと仲良くなれた……よな?
うん、仲良くなれたのは良かった。
信じられるか? 憧れのトップナイン1位と今こうして隣同士。それどころか共闘してしまった。夢みたいだ。
……夢じゃないよな。
もちもちのほっぺたをつねってみる。うん、夢じゃなくて良かった。
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