22 デストロイ・オブ・フェンリル
ドラグレンの攻撃は主に二つ。爪や翼を使った物理的な攻撃と、炎ブレスや魔法などの飛び道具だ。
「来たぞ!」
レイブンの声が飛んでくる。
と同時にドラグレンのクソでけえ爪が頭上を通り過ぎた。
その速度は凄まじい物で、この世界に来たばかりの俺だったら目で追う事も出来なかっただろう。
だが今は違う。何度も戦闘を行って、特訓もしたんだ。
今の俺なら見てからでも避けられる……!
「来い! フェンリル!」
狂夜の掛け声とともに彼の前に大きな影が生まれ、そこから大型の狼が現れた。
あれがデストロイ・オブ・フェンリルというやつだろう。召喚術師が呼び出すモンスターの中でも最高ランクの内の一体だ。
その名に恥じぬと言うべきか、俊敏な動きでドラグレンの周りを飛び回って翻弄している。
「魔力を回す! 決めやがれ!」
「ルオオォォォン!!」
高らかに吠えたフェンリルがドラグレンの翼に噛みつく。そしてそのまま奇麗に食いちぎった。
よし、これで奴はもう飛べない。それにフェンリルにヘイトが向いている今こそ責め時だな。
「てめえら、やるなら今だぞ!」
「レイブンさん!」
「ああ、行くぞ!」
ドラグレンがフェンリルを掴んで投げ飛ばした。だがそんなことをしている内に俺たちはとっくに懐に潜り込んでいる。
その巨体じゃ足元は良く見えないはずだ。
「うぉぉッ!!」
奴の大木程に太い脚に向かって体重を乗せた一撃を食らわせる。
巨大な体だが、脚を斬り落とせば弱点である心臓が狙えるんだ。そのためにもとにかく奴の体勢を崩さなきゃいけない。
「グガァァッァ!?」
レイブンもほぼ同時に脚を斬り落としたようで、ドラグレンは苦痛とも怒りともとれる唸り声をあげながら崩れ落ちた。
「これで終わりだ……!!」
レイブンがドラグレンの上へと跳躍し、両手に持った斧を奴の胸に振り下ろした。
……だが奴の鱗が厚過ぎるのか手ごたえが無い。どうやら心臓を守るための鱗は脚よりもさらに強靭でぶ厚いようだ。
「なんだこの堅さは……!?」
……ちょっと不味いな。
ドラグレンが態勢を立て直すまでまだ少し時間はあるはずだ。だが攻撃が通らないんじゃ意味が無い。
特化ビルドのレイブンの持つ火力で駄目なら俺が攻撃した所で駄目だろう。
ってそうだ、物理攻撃が通らないんだったら魔法の出番じゃないか。なんのための両刀ビルドなんだよ。
「レイブンさん! 俺が魔法でとどめを刺しますから離れてください!」
「わかった、頼んだぞ!」
レイブンが跳躍して遠くまで飛ぶ。それを見てから杖を取り出して魔力を込め始めた。
奴の鱗は相当に堅い。生半可な攻撃じゃ届かないだろう。
しかしここは洞窟だ。あまりにも威力がデカすぎると崩落して最悪俺たち3人とも生き埋めになってしまう。
だからここは上級魔法を圧縮して放つ。
「……ニードルエクスプロージョン!!」
杖の先端から細い熱線が発射され、ドラグレンの鱗を焼いて行く。
だがそれだけじゃない。
「グガァァァ!?」
熱線に焼かれた場所が小規模の爆発を繰り返していく。
なんとこの魔法は炎魔法と爆発魔法の複合魔法なのだ。
魔力の扱いに慣れてきた俺は魔法の改造が出来るようになった。
そこで生み出したのがこのニードルエクスプロージョンだ。
……と言っても実際に撃つのは今が初めてなのだが。いやー成功してよかった。失敗してたら3人仲良く灰になるか生き埋めになるかだった。
この魔法は細い熱線として魔力を射出し、それを対象に蓄積させて爆発を引き起こす。
局所的な爆発を起こすことにより、通常のエクスプロージョンのような大規模な爆発を起こさずに高威力の衝撃を与えられる。
今回のように洞窟の中でも威力を出したい時にはもってこいって訳だ。
「グガァ……ァ」
体の内側から爆発させられてしまえばいくら強靭な肉体と言えどただでは済まない。
流石のドラグレンも耐えられなかったようだ。絶命した証拠として、全身が黒く染まり塵となっていく。
その後、奴がいた場所にはドロップアイテムとして鱗と牙が落ちていた。
そこまでは他のモンスターと同じだが、他の闇に飲まれしモンスターと同じようにコイツも魔石だけは落とさなかった。
「ふぅ……終わった……」
「おいてめえ……!」
一息ついていたらいつの間にか狂夜が背後にいた。
怖いから気配も無く近づくのやめて欲しい。いや召喚術師として本体が狙われないために常時発動しているパッシブスキルだろうから仕方ないんだけども。
「さっきの魔法……ありゃなんなんだ!?」
「何と言われても……炎魔法と爆発魔法を組み合わせた複合魔法ですけど」
そう言うと狂夜はなんだそりゃと言うような表情で続けた。
「オレは今まで多くの魔法職の奴に出会ってきた。そん中にはゴールドランクの一歩手前の奴だっていた。だが誰一人としてそんな訳のわからねえもんを使うのはいなかったぞ」
「そ、相当珍しいんじゃないですかね……?」
もっと普通にやってそうなものだと思っていたが、この世界ではこれも異質なのか。
「それに詠唱はどうした? 短縮詠唱とか無詠唱とか、話には聞いたことがあるが……まさかプレイヤーでも出来るもんだったとは。こうなってくるとオレもうかうかしてられねえな……。素材は拾っておけよ。オレはもう行く」
勝手に理解したのか、狂夜はそう言うと踵を返して洞窟の出口に向かって歩き始めた。
転移アイテムは洞窟などの中では使えないから外に出る必要があるんだよな……って、そうじゃねえ。
うーん、雑用を押し付けられた! ……まあ別に良いけどさ。
ドラグレンのドロップアイテムを拾ってアイテムボックスに入れる。そしてレイブンと共に洞窟の入り口へと戻る途中、入口付近から声が聞こえてきた。
「おいおい、久しぶりだなキョーヤ」
どうやら狂夜に何か関わりがありそうだ。
「てめえらは……あん時の奴らか」
あー、言葉だけ聞いていてもこっちは何もわからないやつだ。ひとまず彼と合流しよう。
急いで狂夜の元に向かうと、そこには彼と4人の冒険者がいた。
「おお、なんだなんだお仲間か? 懲りずにまた仲間を作るなんてな」
「……うるせえ」
「……この方たちは?」
狂夜の雰囲気からして、絶対にまともな関係では無いはずだ。
「……元パーティメンバーだ」
「ああそうだ。俺たちは彼の元仲間さ。大切な仲間を殺された……ね。そうだろう? 人殺しのキョーヤ」
……聞き間違いでは無かった。確かにあの冒険者は人殺しと言っていた。
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