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18 キャラの向こう側

 翌日、ギルドからの報告でわかったことだがどうやらマナツカミはあの闇に飲まれたワイバーンから逃げてきたと思われるらしい。

 それなら本来荒野に生息しているはずの奴がこのオールアール近辺に現れたのにも納得は行く。

 それと同時に改めて闇に飲まれたモンスターが脅威であることを認識させられたな。放っておけばより被害が大きくなりそうだ。


 まあそんなことよりもだ。今俺は重大なことに悩まされている。

 ……昨日RIZEとあんなことになった訳だが、そもそも俺は彼女のリアルを知らないのだ。

 恐らく、恐らくは女性だと思うんだ。ただ年齢がわからない。俺のことを見た目通り女の子だと思っていたり、お泊り会の一件だったり、正直天然過ぎる。

 どう足掻いても成人済みとは思えない。いや、なんなら学生でも無くないか?

 

 ……もっともそれ自体がキャラづくりのRPだとしたら何とも言えないんだが。

 ああ、途端に最悪の可能性が脳裏をよぎる。

 ……リアル幼女だとしたらどうしよう。それならまだネカマだった方が良心が痛まなくて済む。


 こうなったら本人に聞くしかない。

 そんな訳でギルドにやって来たRIZEを呼び止め、聞いてみることにした。


「何か用?」

「あの、RIZEさんって……」


 いや、やっぱり聞いて良いものなのだろうか。

 MMOにおいてリアルを詮索するのはマナー違反だ。この世界にだってプレイヤーキャラの姿で召喚されている。

 もし本人が元の姿を、元の人生を、あまり良く思っていなかったとしたら……。


「HARUさん?」


 RIZEは何の疑いも無い無垢な表情で俺を見つめてくる。こんなに澄んだ瞳の持ち主に対してそんなことを聞いて良い物なのだろうか……!

 聞く、聞くぞ! 俺は前へ進む!


「RIZEさんって、その……リアルは、いや元の世界ではどんな方だったんですか?」


 聞いてしまった。それとなくどころか結構ガッツリと聞いてしまった。


「元の世界……」


 俺の言葉を聞いた途端、彼女の表情が曇って行く。

 あ、これはやってしまったのかもしれない。地雷を踏んでしまったかもしれない。


「ううん、大丈夫。話すね。私もいつまでも引きずってはいられないから……」


 そう言うと彼女はゆっくりと元の世界での自分について話し始めた。




 ……結論から言えば、彼女は向こうでも女性だった。いや、少女だった。リアル幼女では無かっただけ良かったと言うべきか。

 だがそんなことなど些細になる程に重要なことが他にあった。


 彼女は体が極端に弱く、常に病院のベッドから移動できない状態だったらしい。そんな中で見つけた楽しみがMMORPGであるアーステイルだったようだ。

 それこそ通信制の授業とリハビリ以外の時間はそのほとんどをアーステイルに注ぎ込んでいたらしい。


 重い。重すぎる。何の変哲も無い一般男性の俺が9位がどうとか言っていたのがしょうも無く思えてくる。

 ちなみにそんな俺の事も彼女に話した。流石にこっちだけ一方的に聞くってのはあれだからね。


「まさかRIZEさんがそんなに大変な人生を送っていたなんて……」

「そんな顔しないでHARUさん。確かに大変だったし辛かったけど、こっちでなら体も十分過ぎるくらいに動くし、あなたという人にも会えた」


 うーん、そう言ってくれるとありがたすぎる。むしろこっちが救われた気持ちになる。

 そうだ、せっかくだから彼女にはクリムゾンとも仲良くなってもらいたいな。他のプレイヤーはともかく、彼女だったらRIZEとも仲良くなれるはず。


 そんな訳でメッセージでクリムゾンに連絡を取った。

 返事はOK。ということで早速二人でスターティアの街へ向かった。


「なんだか久しぶり」

「そうですね。しばらくオールアールにいましたから」


 と言いつつ俺は定期的にスターティアの街の宿屋に戻ってきているんだよな。


「確か待ち合わせの場所はこっち……えっ、何だこれ?」


 クリムゾンとの待ち合わせの場所に辿り着いたと同時に変な声を上げてしまった。

 何しろ彼女の名を持つ飲食店が俺の目に飛びこんできたのだ。

 それだけじゃなく、その店から出てきたクリムゾンは見慣れた鎧姿では無く可憐なエプロン姿だった。


「あ、HARUさん! それとリ……」

「紹介します。彼女はRIZE(ライズ)さんです」


 ……ギリギリ間に合ったな。

 クリムゾンは彼女との直接の面識はなかった。だから彼女の名前の読みがライズであることも知らないんだったな。

 そのまま読み方について話したらスペルのミスにも行きついてしまうかもしれないし、彼女の笑顔を守るためにもここは俺がなんとかしないといけない。 


「ああ、そうだったんですね。では改めてRIZEさん、よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくクリムゾンさん」


 二人はそう言って互いにお辞儀をした。良かった。彼女の笑顔は守られた。


「ああ、そうそう。RIZEさんには会ったばかりで言うのもあれなんですけど、私飲食店を始めたんですよ」

「……なるほど。それでクリムゾンの名前がお店に……」


 どうやら飲食店に彼女の名前があったのはおかしなことでもなんでも無く、彼女の店という事らしい。

 定期的にスターティアに戻っているとは言ってもほぼ宿屋にしか行っていないからか気付かなかった。

 

「元々趣味でよく料理をしていたので、ここでその腕を活かしたくなったんですよね」

「それは凄いですね。ちなみに具体的にどんな料理を出しているんですか?」


 そう聞くとクリムゾンは楽しそうにメニューを教えてくれた。

 基本的にはスープ系を多く出しているらしく、シチューやミネストローネに野菜スープなど、その他にも色々な種類のスープがメニューにあるらしい。

 さらに元の世界の知識を活かしてこの世界の素材でもフワフワに作れるパンを開発したらしく、それ目当ての客も多いようだ。


「せっかくだからお二人共ぜひ食べて行ってください!」

「そ、それじゃあお言葉に甘えて」


 変に断るのもあれだろうし、ここはいただいて行くとしよう。久しぶりにフワフワなパンも食べたいし。


「2名様ご案なーい……なんて、日本のファミレスを思い出しますね」


 クリムゾンはノリノリだ。こんなに楽しそうな彼女は始めて見た気がする。それに彼女の言う通り日本のファミレスが恋しい。

 とそんなことを考えながら店に入ると、まずオシャレな内装が出迎えてくれた。どこか異国情緒を感じると言うか……いや異国どころかここ異世界だったわ。


「それではメニューを持ってくるので少し待っていてくださいね」


 そう言ってクリムゾンは店の奥へと入って行った。

 それから数秒後、店の扉が強く開け放たれた。


「おお、ここが噂のくりむぞんとやらか!」


 ……扉の開け方からして良くない連中な気がする。なんかこう、配慮が足りていない。


「あれ、お客さんが来たんでしょうか?」


 声と音に気付いたのかクリムゾンが戻って来た。


「おお、貴様がくりむぞんとやらの主か……ってなんだ女では無いか。店の持ち主はいないのかね?」


 なんかシンプル失礼な奴だな。


「持ち主というか、店主は私ですが……」

「なんと、それはまた珍しい。……まあそれは良い。単刀直入に言うが、我々の下について店を運営したまえ。貴様の腕ならばもっと上を目指せるはずだ。我々の財力をもって援助しようじゃないか」


 突然やって来て何を言っているんだこいつは……?


「すみません、その、よくわからないんですけど……」

「なに? 貴様、我々を知らないと言うのか。まあいいそれなら教えてやろう。我々はエール商会と言ってな。色々な街を跨って商いを行っているものだ。また商会とは言っても商い以外にもいろいろな事業を経営していてな。飲食店もそのうちの一つなのだよ」


 入って来た男は偉そうに踏ん反りかえりながらそう言い放った。

 エール商会……か。ゲームには存在しなかったものだな。


「なるほど、エール商会についてはわかりました。それで私に何の用でしょうか」

「うむ、最初に言ったように貴様を雇いたいのだ。その腕を見込んでな」

「……お気持ちは嬉しいですが、私はこのくらいのお店の規模で一人一人のお客様を大事にしながら細々とやっていきたいんです。ですのでお断りさせていただきます」

「……何だと?」


 クリムゾンの返事を聞いた男は目に見えて機嫌が悪くなった。まあ最初に会った時からそんな気はしたけども。


「我々の申し出を断るだと? 何と世間知らずなのだ貴様は。いいか、もう一度聞くぞ! 我々の下に付け! これはお願いでは無い、命令だ!」

「……すみません」


 クリムゾンは男の叫び声にビクビクとしながらも考えを変えなかった。それだけこの店は彼女にとって大事なものになっているのだろう。


「ああ、これだから低能な庶民は困る。こうなれば力づくだ。来い!」


 男がそう言うと、店の外に待機させていたであろう男が二人入って来た。

 二人共厳つい容姿をしており、誰が見ても用心棒だとかそう言った者であるのは確定的に明らかだ。


「この女を連れていけ」

「了解!」


 男がそう命令すると用心棒たちは一斉に動き始めた。

 ああ、面倒くさいことになってきたぞ。


「ちょ、ちょっと! 何をするんですか!?」


 男たちは制止するクリムゾンのことなどお構いなしにカウンターへ入ろうとする。

 ……これ以上は見ていられないな。


「RIZEさん、行けますか?」

「うん。任せて」


 RIZEと軽く言葉を交わし、席を立つ。


「む、何だお前ら。我々に歯向かおうなどとは考えない方が良いぞ」

「歯向かう? そんな生易しいものじゃありませんよ」

「なっ、いつの間に!?」


 即座に用心棒の近くに移動し無力化した。


「な、なんだ貴様ら! おい、こいつを……」

「HARU、こっちは完了した」

「い、いつの間に……!?」


 もう一人の用心棒はRIZEが無力化してくれている。もとよりアサシン系の職業である彼女の方がこういったことには慣れているだろう。


「なんなんだ貴様らは……! お、覚えていろ!」


 そんなザ・捨て台詞を吐いて男は店から出て行った。もう拘束する必要が無いために用心棒を解放すると彼らも一目散に逃げて行った。

 ……金のためとはいえ大変だなアンタらも。


「ありがとうございます!! 私、一時はどうなることかと……」

「いえいえ、同じプレイヤーの仲間ですし。それよりも……多分また来ますよアイツら」

「私もそう思う。ああいうのって一回じゃ諦めない気がする」


 RIZEも同じ考えだった。まあ誰が見てもまた来ると思うよねアレは。

 それどころかあの感じだと嫌がらせや営業妨害をして来ることも考えられる。しばらくはこの店周辺を見張っていた方が良さそうだな。

お読みいただきありがとうございます。

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