表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/90

17 さらなる脅威

 たかなしありす……彼の口から出たその名前は間違いなく日本人のものだ。だが俺が知る限りトップナインにはそんな名前のキャラはいない。

 考えられるとしたら本名だろうか。偶然と言って良いのかはわからないがトップナインに「アリス」という名を持つプレイヤーはいるしな。

 とは言え確証がない以上、彼には悪いが俺がどうこう言える立場では無いか。


「……そうか。急にすまなかったな」

「いや、こちらこそお役に立てずにすみません」

「なあ、何が何だかはわからねえけど上級魔法が使えるってのなら可能性はあるんだよな?」


 冒険者たちは俺が上級魔法を使えることを知って、驚愕と希望の両方が入り混じった表情を浮かべていた。

 何だ、そんなに上級魔法が珍しいのか……?


[この世界において上級魔法や最上級魔法はごく一部の有力な魔術師のみが使える物であり、ほとんどの魔術師は中級魔法が使えれば十分だと言われています]


 なるほど、それなら上級魔法が使えるって言った時に周りが妙な感じになったのも頷けるな。


「よし、それなら行けるかもしれないぞ……! だがまずは魔法が届く距離に移動しなければな」

 

 そう言ってレインは皆を先導し始めた。確かにここからだと少し遠いかもしれないもんな。

 けどあまり近づくのも怖いし、俺としてはここからでも良いと言うか……むしろ上級魔法の効果範囲を考えると離れていた方が良いんだよな。


「ああ、その必要は無いですよ。というよりも離れていた方が良いのでここから奴を狙います」

「何だって?」


 俺がそう言うと彼は驚いた表情でこちらを見てきた。


「ここから届くのか……?」

「はい。もしかしたらここまで衝撃が届くかもしれないので気を付けてください」


 ついさっきライトニングを使った時の感覚からして、上級魔法であれば恐らくここからでも問題なく届く。


「さて、それじゃあ撃ちますね」

「あ、ああ……頼んだぞ」


 他の冒険者たちが後ろに下がったのを確認してから、アイテムボックスから杖を取り出し特訓の時と同じように魔力を込める。

 ……いや、特訓の時と違って今回は魔力をセーブしない。今回は撃破を目的とした魔法の行使だ。威力を抑える必要は無いだろう。

 

 そんでもってあのサイズのモンスターを倒すんなら高火力でうってつけの魔法がある。

 それは広範囲に強力な爆発を発生させる魔法、エクスプロージョンだ。ついにこんな大魔法を使うタイミングが来たって訳だな!

 

「ふぅ……」


 爆炎を引き起こすイメージを強く持ち、さらにファイアボールよりも強力な熱を思い描く。

 ……よし!


「エクスプロージョン!!」


 そう叫んだ瞬間、杖の先から巨大な火の玉が生み出されマナツカミへと飛んで行った。そして数秒も経たない内にそれは奴に命中して弾け、轟音と共に大規模な爆炎を発生させた。

 ……想像していたよりも規模が大きすぎるかもしれない。


 あっという間に爆炎は奴の姿を完全に包み込む。流石にこんなのをまともに食らえばレイドボスと言えどただでは済まないだろうよ。


[報告。強大な魔力の消失を確認]

「という事は倒したってことか」


 煙が晴れるとそこにさっきまであったはずの山のような姿は完全に無くなっていた。

 ナビの言葉と合わせて考えても、これは倒したってことで良いんだよな?


「何という威力……これが本当に上級魔法なのか……?」


 レインがそう言いながら向かって来る。

 そう言えば俺の上級魔法は最上級魔法に匹敵する威力があるんだったか。


「師匠でもこれほどの魔法は使えなかった。それなのに君はそんな若さであんな魔法を使いこなすなんてな……一体何者なんだ?」


 何者……か。「勇者です!」とは言えないんだもんな。というか言っても意味が無いんだっけ。何だこいつって目で見られて終わりだろう。


「あー、まあ色々とありましてね……」

「訳ありということか。それなら深くは聞かないことにしよう」

「そうしてくれると助かります」


 よし、ひとまず切り抜けられたのかな。

 

[報告。マナツカミのいた方角に同個体のものよりもさらに強大な魔力反応を確認]

「何だって!?」

「い、いきなりどうしたんだ?」


 不味い、つい声を出してしまった。


「……また別の何かが現れたみたいなんです」

「なんだと? その別の何かと言うのは……」


[魔力反応から闇に飲まれたモンスターと同じ類の魔力の異常性を感知しました。99%以上の確率で対象は闇の勢力によって暴走させられているモンスターかと思われます]


 まさかとは思ったがやはり闇に飲まれたモンスターか。

 それにこのタイミングで現れたってことはマナツカミと関係があると考えて問題ないだろう。ましてや同じ方角と来たらなおさらだ。

 ……嫌な予感がする。

 

「ナビ、ズーム機能を起動してくれ」

[了解]


 ナビにズーム機能を起動させながらマナツカミがいた方角へと走る。


「君一人で行く気か!?」

「俺は大丈夫です! 皆さんは待機していてください!」


 マナツカミよりも強大な存在となると恐らく他の冒険者の手に負える相手じゃない。

 俺が何とかしないと駄目だ。


[4キロメートル程前方に姿を確認しました]

「俺も見えた! あれは……ワイバーンか?」


 遥か遠くに薄っすらとその姿が見えてきた。

 姿はワイバーンそっくりだが、そのサイズが以前戦ったワイバーンとは段違いだ。恐らくマナツカミとそう変わらないだろう。

 ……正直言って化け物過ぎる。山よりデカいワイバーンとか脅威でしか無いんだが?


 だがこちらに向かって来ていると言うのならやるしかない。


[警告。対象に高濃度な魔力反応を感知。攻撃が来ます]

「おいおい嘘だろあの距離でか!?」


 ナビがそう言うと同時にワイバーンは口から巨大な炎を吐き出した。

 あまりにも巨大過ぎるそれが街に届いたら、高ステータスに守られている俺やRIZEは大丈夫でも他の人たちや街自体はどう考えても跡形も残らない。

 

 ……そんなことはさせない。


「ウォーターウォール!!」


 咄嗟に水の壁を張る中級魔法を発動させた。それも奴の炎を防げるほどに大きな壁としてだ。魔力は大きく持っていかれるが今はそんなことを気にしている余裕は無い。

 これなら街を守れるはずだ……多分!

 

「頼むぞ……耐えてくれ」


 そんな俺の危惧は杞憂に終わった。

 奴の放った炎は俺の張った分厚い水の壁に阻まれ、すぐに消失した。


「よし、今度はこちらの番だ!」


 また攻撃されたら面倒だし、さっさと終わらせるに限る。


「エクスプロージョン!!」


 さっきマナツカミを葬った時と同じようにエクスプロージョンを奴に叩きこむ。

 

「……やったか?」


 フラグだとはわかっているが、つい口から出てしまう。言ってしまう人の気持ちが今ならわかるよ。

 しかし爆炎と煙が晴れた時、奴はまだそこに健在だった。

 いや健在では無かったか。翼は焼け落ち、全身も焼けただれている。それでも奴はまだ歩みを続けていた。


「まだ倒れないのか……! それならもう一度……エクスプロージョン!」


 もう一度杖に魔力を込め、エクスプロ―ジョンを発動させる。

 そして放たれたそれは再び奴に命中し弾けた。

 

[報告。魔力反応の消失を確認]


 次に煙が晴れた時、奴の姿はそこには無かった。


「やった……んだな」


 まだ体力魔力共に余裕はあるものの、緊張の糸が切れてしまったのかその場に崩れ落ちてしまう。

 

「HARU!」


 ああ、RIZEの声が聞こえる。幻聴が聞こえるレベルで疲れてるのかな?


「無事で良かった!」

「うぉっ!?」


 いきなり背後から抱き着かれた。

 背中から伝わって来る柔らかい感触……これは間違いなく幻覚じゃない。


「RIZE……さん?」

「待機しててって言われたけど、心配で来ちゃった」

「いえ、それは気にしてませんけども……」


 彼女と出会ってからまだそんなに時間は経っていない。なのにこの距離感は少々気になる所があるが……。

 後ろからRIZEの安堵に満ちた声が聞こえてくるとそんなこと些細に思えてきた。


 そうだよな。いきなりこの世界に放り出されて不安だったろうし、元の世界を知る人は同じように召喚された俺たちしかいないんだ。  

 そんな中でも特に接触の多かった俺が自ら危険に飛び込んでいったんだから心配にもなるか。


「俺は大丈夫ですから、そんなに心配しないでください」

「……うん」


 そうして俺たち二人はしばらくの間、その場で互いに身を寄せ合った。

お読みいただきありがとうございます。

応援していただけるのであれば、是非ブックマークにポイントの方お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ