11 兄弟とポーション
あれから数日。短縮詠唱で魔法を行使する特訓をし続けた結果、ひとまず俺の使える下級魔法と中級魔法は一通り使えるようにはなった。
そして少しずつではあるが上級魔法以上の確認も行い始めた。注ぐ魔力をかなり少なめにしているから威力は抑えめになっている。それでもまあ一部はとんでも無いことになったが。
恐らく小さな町一つくらいなら簡単に滅ぼせるんじゃないかな。
[HARU様の行使する上級魔法の威力は最上級魔法に匹敵していますので不可能では無いでしょう]
「だよな……。やっぱそうポンポン使う物じゃないか……」
せっかく魔法が使えるんだったら一度はやってみたいよな極大魔術みたいなやつ。
街どころか国一つ容易に滅ぼせるほどの規模の大魔法……ロマンがある。と言うか俺の最上級魔法なら恐らくできる。
まああまりにも被害がデカすぎて闇の勢力が星を枯らす前にこの星が滅んじゃいそうだからしないけど。
「あ、あの! あんたがハルで合ってるか……?」
と、そこで背後から声をかけられた。
振り返るとそこには一人の少年がいた。
「そうだよ。俺がHARUだけど……何か用かな?」
少年を怖がらせないように柔らかめな声色でそう返す。
とは言え元の姿ならともかく、今の俺は幼女の姿だからそこまでする必要は無いかもしれないな。
「お願いがあるんだ!」
少年は切羽詰まった様子でそう叫んだ。どうやら訳ありのようだ。
「あんたが高性能なポーションを持っているって聞いて……その、それを僕にくれないか?」
「ポーションを……? 確かに持っているけども」
「お礼はする。あまり多くは無いけどお金の準備もしているんだ。それに足りなかったら働いて返すからどうか……!」
少年はそう言って俺の目を見つめてくる。本気だ。つい先日ギラからも似たような目を向けられた。
これは断れない。というか別に断る理由も無いしな。
「わかったポーションは譲る。けど、お礼はいらない。その代わりに理由を教えて貰えるかな?」
何に使うのかがわからないのは少しモヤっとする。
彼の目を見る限りそう言う事は無いだろうが、元の世界では転売が蔓延っていたからなぁ……この世界において俺たちプレイヤーの持っているポーションは貴重な物らしいし。
「……わかった。理由を話す」
そう言うと少年は少し安堵したような表情で理由を話し始めた。
「僕には妹がいて、産まれてからずっと足が悪くて歩けなかったんだ。今まで色んな医者を回ったけど全く良くならなくて、そんな時に高性能なポーションを持っているやつがいるって話を聞いたんだ」
「それってどこから聞いたの?」
「冒険者ギルドだよ。あそこには多くの情報が集まって来るから」
なるほど。恐らくギラにポーションを渡したって言う情報が広まっているんだろうな。確かに彼女はともかく、気絶していた二人の方は致命傷だった。
あれだけの怪我を速攻で治せるってのは魔法の存在するこの世界でも流石に異質なんだろう。
「名前を聞いたらハルって言う白髪の女の子らしいから、街中を探していたんだ。そうしたら今こうして出会えたって感じでさ」
「だいたいわかった。でもポーションの効果が妹ちゃんに効くかわからないからさ。俺も付いて行っていいか?」
今の話を聞いてしまった以上、ここでポーションを渡してハイさよならってのは少し後味の良くないものを残すからな。
一応回復魔法も使えはするし、さらに効果の強いポーションも持っている。それなら俺もついていった方が確実だ。
そういう訳で俺は少年に連れられて彼の家へと向かった。
「クレアただいま! ポーションを貰えることになったぞ!」
「おかえりクリスお兄ちゃん……。言っていた人、見つかったんだね」
ベッドに寝ている少女の元に少年は嬉々として近づいて行く。
彼女が妹ちゃんか。顔色もかなり悪いしやせ細っている。足が悪くて適切な運動が出来ていないから不健康の悪循環に入ってしまっているのだろう。
それに喜んでいるところ悪いが、まだ治る確証があるわけでは無いんだよな……。いや、なに弱気になっているんだ俺!
メリナとテレーゼの二人でポーションの効果は確認済みなんだ。きっと大丈夫。
「よし、早速ポーションを飲ませてやってくれ」
持っていた革袋から取り出したかのようにして、巧妙にアイテムボックスから回復ポーションを取り出してクリスに渡す。
アイテムボックスは目立ちすぎてしまうからこうして革袋を持ち歩くようにしたのだ。これでもう怪しまれない。……革袋以上の大きさのものを出すとかいうヘマをしなければな。
「本当に、貰っていいんだよな……?」
「ああ。約束は守るよ」
「……ありがとう! この感謝は絶対に忘れないからな!」
そう言うとクリスはポ―ションを妹にゆっくりと飲ませた。出来ればそう言うセリフは回復してから言ってもらいたい。フラグと言うか何と言うか……とにかく縁起が悪い。
と、そんな俺の危惧も杞憂に終わった。彼女がポーションを飲んだ瞬間その足が淡く輝き、次の瞬間には顔色も良くなっていた。
どうやら体力を回復するこのポーションは病気にも効くのかもしれないな。
「た、立ってる……私今、立ってるよ!」
「ぁぁ……そうだな。夢みたいだ……」
ベッドから立ち上がりおぼつかないながらも自らの足で立っている妹を見て、クリスは目に涙を浮かべていた。
同様に妹の方も今にも泣きそうな表情になっている。
ああ、これが兄弟愛か。俺は一人っ子だからその感覚はよくわからないが、こう見ていると悪いものでは無いんだろうな。
「本当にありがとう! ハルのおかげでクレアの足を治せた。このことは絶対に忘れないからな!」
「私、もう一生立てないんだって思っていたけど、こうしてハルさんのおかげで立てました。私から返せる物は何も無いですけど、それならせめてこのご恩は生涯絶対に忘れないようにしますね!」
「そ、そこまでしなくていいよ?」
当人たちにとってはそれほどの事なんだろうけど、俺はただガチャの余りのポーションを渡しただけだからなぁ。
とは言え良いことをしたってことには変わりないもんな。本人がそう言っているし、ここはその気持ちを受け取るとしようか。
こうして俺は満ち足りた気分のまま、二人に見送られながら彼らの家を後にした。
いやー感謝されるって良いね。
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